第5話 意図

「今戻りました」

「こんばんは」

 ちょうどヤマトの寝相にうんざりしていたとこだった。カズマに頼んで起こしみるのをいいかもしれないが──。

 俺はカズマに軽く話しかける気で顔を上げた、その時。


 一瞬だけ、

 

 何の前触れもなく、

 

 時が止まった。

 



 俺は今までしてきた多くの『覚悟』を事細かに思い出した。


 正面からぶつかるという覚悟、全力で謝るという覚悟、あの頃の自分と決着をつけるという覚悟。


 そんな俺にとって魂の『盾』というべきものが、『運命』という名の武人によって一瞬にして尽く破壊されてしまった。

 

 心は焼かれ、取り付けられた足枷は呪われた黒い糸となり、男の努力を嘲笑っては俺を倒し、引き戻した。


 俺の精神は今にも弾けそうだった。




「お久しぶりです」

「……どうも」

 視線をテーブルの下に向けた。何か不審がられただろうか? よく見つめすぎただろうか? 気になったが視線を上に向けれない。緊張のあまり、口の端が引きつった表情になる。かつてこんなにも顔の筋肉が活発に動くことがあっただろうか。

「え、二人もしかして知り合いだった?」

 脳が停止して最適解が導き出せない。

「いや、……ええと」

「知ってるよ。一年の時にクラス同じだったからね」

 彼女はこちらに視線を向けた。その視線が、その笑顔が、高校生の頃と変わったものであったかは分からなかった。混乱してよく思い出せない。

「私映画見に行ったよ、すごい面白かった!」

 二人が席につき不可抗力で女性と向かい合ってしまうのを尻目に、ヤマトは依然として深い眠りに身を委ね続けていた。

 寝るフリをしてやり過ごせたらどんだけ楽だろう。確かに彼女に会うために同窓会に行ったが、まさかこんなところで会うとは予想だにせず、消えてしまいたいという衝動で一杯だった。

「偶然?」

「偶然だよ。最後に話したのは……」

 また急にどす黒いグチャグチャな感情が穴から心の器に入り込んできた。急に自分が恥ずかしくなって、自分が汚く見えてきて苦しくなった。

 俺は声を押し殺すのに必死だった。

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