第6話 寒気
家に帰ると興奮の反動で体がぐったりと崩れて動けなくなった。手足は震えて、背中には汗がびっしょり。ふくらはぎはパンパンに膨らんで、頭痛は頭の奥を刺激して止まなかった。
飲みたくもない水を飲んだ。体が抵抗虚しく水を受け入れるということだけが水から伝わってくる。今なら砂漠の海でも泳ぎ切ることができそうだった。現実と空想を意識が右往左往して、自らの顔を覗いたタイミングでもう片方の世界に引きずり込まれるというのを繰り返していた。
視界がぐるぐると回って俺は思わず目を閉じた。彼ら表情がまぶたの裏に見えて、冷蔵庫へと駆け出した。缶ビールを飲み干すと次の缶ビールに移ったが最後の一本を飲み切る前に、再び手足が震え俺は床を転がった。
意味もなく立ち上がる。行為が誰にも気にかけられないとしても、何度も立ち上がり何度も転んでは呻いた。
現実ではないある世界で、俺は缶ビールではなく光った宝石のようなものを手に持っていて、地表の世界を天井としたときの下の空の世界には、星空のように光がたくさんあった。その光は俺のように光の宝石を持っている人間が集まっていることで、星空に見えていた。でも俺の持った宝石は人より特殊な色で光っている。周りは赤や青、黄色に光っているのに俺だけが不気味な紫色をのぞかせながら時々赤が濃くなってまるで息をしているようだった。それが突然輝いて周りの人は立ち止まり、こちらを振り向く。その中にはライターの友人、ヤマト、カズマ、そして────。
目覚めた時、体は言うことを聞かず脳細胞がガンガンと頭の内側から壁を叩くのだった。
考えすぎだ、と言ってくれる人間はここにはいない。そしてこれからも一生来ない。
涙が乾ききった頃、俺の体はベッドに吸い込まれて本当に動かなくなった。
無意識に空のコップを持ち上げていた。何度も何度も。指摘して注意される他に俺の手はそれを休めようとしない。
手が震えていることが氷の音から伝わることを危惧した俺は出来る限り最小の動きでコップから手を離した。飲み物は特別冷えていたというわけではなかったが、手には大量の水滴が付着していた。
「まさか、知り合いだったとはなー」
「そりゃ同じ高校なんだから一人ぐらいいったっておかしくないでしょ」
意図せず二人の会話がどこか遠く聞こえ、心臓の音と不快な効果を伴ったその場の生活音が耳に入っては消え、入っては消えていた。
「うん、そうだね」
我ながら気持ち悪い答え方をしたのを、この時のために今まで寝ていたと言わんばかりに、ヤマトが打ち消してくれた。
「ん……? リナ来てたの?」
「私今来たばかりなんでもう死んでんの、ヤマト」
「なに言ってんだ。まだ始まったばか……」
そう言い残すと再び眠りに入った。
「トイレ行ってくる」
唐突にカズマが立ち上がると、そのままテーブルを離れた。
残ったのは俺とリナ、そして眠ったままのヤマト。
粛々と、時間だけが天井の上から等しく人類を見守っていた。時計は思ったように進んでくれない。
気まずい空気が散布される。それは男だけではなく、リナも感じ取っていたはずだった。
「本当にあの時以来だ」
「うん」
「変なこと訊くかも知れないけど……」
「リナは正直俺のことどう思ってる?」
「あの時のこと、怒ってるかな? ずっと気になってたんだ……」
「私……ホントは……」
「ずっと好きだったんだよ」
「え?」
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