【第九話】 年上の女性に諭されて 本文編集

 __しばらくして部屋で立ち尽くしていると部屋のドアが開かれた、そしてローズがいつもの不愛想な顔を覗かせる。



「どうかしたのですか、シャルロット様は......」


「俺はシャルロットの事がわからないや」


「シャルロット様は宿命を背負っておられます、貴方はあの方について行こうと決めたのでは無いのですか」


「どうしたらいいんだろうな......俺はわかんなくなった」


「私は故郷であの方と出会いました、少なくともその時たしかに救われたのですよ......私はそれだけであの方の助力になりたいと願う理由は十分だと考えています」



 大罪の名を持つ者によって仲間達が殺されて居なくなったエルフの森、たった一人で故郷を守っていたローズはそこでシャルロットに出会ったのだと言う、そして救われて今に至るのだと語った。



「故郷で人を殺し続けてその血肉をむさぼり生き長らえた、いつしか私はエルフであることをやめていたのです」



 すき通るような金髪は銀髪へと変わり果てて、綺麗な緑の瞳は真紅の色に薄汚た。

 この世界で禁忌を犯したエルフの末路なのだと彼女がエルフと呼ばれるのを拒む理由なのだと僚太は知った。



「そんな私をあの方は受け入れてくれてそして許してくれたのです、ただのエルフとして、あなたを救ったのは誰ですか」


「俺はなに人々の規模で考えてたんだ、あの時.....俺が選んだのは救ってくれた本人だシャルロットだ、あれだけじゃ俺がついて行かないと決める理由にはならないよな、ありがとうローズ__」




 慌てて部屋を飛び出していった僚太をそっと見送るローズは、普段見せる事のない表情でつぶやいた、決してその言葉が届くことはないだろうが。




「あなたは......僚太くんはまだ子供なのですから幾らでも悩みなさい、そして強くなりなさい」



 __しばらく探していると噴水場に腰を掛けるシャルロットをみつけた、謝ろうとして近付くのだが彼女は拒むように力なく僚太を睨む。



「もういいから、そもそもわたしがいけなかったのよ、わたしのエゴに僚太を巻き込むつもりは無いから」


「うん、もちろんそれに付き合うつもりはないよ、けどさ俺は俺のエゴでこれからもついて行く、だからさっきはごめんよ」



 そんな自分勝手だと思う僚太は手を出す、掴んでくれなければ強引にでも掴んでやろうと思っているとシャルロットは恐る恐る掴み返す、そして互いを見合うと一つだけ約束を交わすことに。



「僚太と大勢の人を天秤に掛けなければいけなくなった時、迷わずにわたしは後者を選ぶわよ、それでもいいのね」


「実際きついなぁそれを言われると、でも......いいよ、俺はそれでもシャルロットについて行くともう決めたからさ」



 シャルロットの特別を望みはしないかと言われればそれは嘘になる、だがそれ以上に僚太は彼女を放ってはおけない。



 彼女はたしかに強いと思う、だが時々見せるあの表情を思い出してしまうと僚太は彼女を追いかけずにはいられないのだ。

 こんな二人は報われないのだろうか、多くの選択をこれから決めていかなければいけないのだから、互いに決めたその道の先に何かあっても決して後には戻れはしないのだから。



「僚太はずるいな......ずるいよ」



 と、そう一言だけ。



____昼の食事が済むと皆それぞれの時間を過ごす、ローズは食器の片付けなど、シャルロットは再び書斎へと向かう。

 僚太は何食わぬ顔で浴室へと向かい手短に掃除を済まそうとしたところでローズが顔を出して、今日の残りの仕事がなくなった。

 ローズから休むように言われたのだが、なにかをして気を紛らわしたくて屋敷の裏の草刈りをしているとレベッカがニヤニヤして現れた。



「どうしたおまえそんな顔して、なんか悪い物でも食ったんか?」


「レベッカさんって能天気ですよね」


「そうか、まぁそんなに褒めんなよ」


「ごめん、褒めてないから」


 レベッカが茶化しに来たのだろうかと僚太が思っていると、レベッカは急に黙ると地面へとそのまま座り込む。

 それから空の雲が幾つも通り過ぎた後、ようやくレベッカが重い口を開いた。



「みんなそれぞれ抱えてるんだよ何かをさ、あたしだっていっぱしの魔術師になりたくて憧れた人をな......まぁなんだ、簡単に言ったらあれだ、要は頼れって事だよ」


「レベッカさん、たまにはまともな事を言えるんですね」


「馬鹿を言うな、あたしゃいつもまともだわ」


「俺もレベッカさん見習わなきゃって初めて思いましたよ」


「あぁ見習いやがれ、そして崇めろよな」


「いや、それだけはそれは無理だな」



 僚太は自分だけがこんなつらい思いをしているのだと錯覚していた、今まで口だけでやり過ごしてきた彼は結局何も決断なんかできてなかったのだ。

 だがまさかレベッカに諭されるとはすこし想定外であった僚太の顔には笑みがこぼれた。

 それからしばらくすると立ち上がったレベッカはひらひらと手を振って去っていく、だが地べたに座っていたレベッカのズボンはだいぶ泥で汚れていてカッコよさは半分だった。



「やっぱあの人へんだ、でも心がかるくなったかもな......ありがと」



 僚太は礼を口にすると彼女が見えなくなるまでその背中を見送った。



____夕飯の後、シャルロットが唐突に僚太へと提案をした。



「僚太は剣を握った事あるの?」



 唐突に何を言うのだと思うが、彼女の青い瞳は真剣で。



「いや、ないよ」


「なら明日から私が空いた時間に教えてあげるわ」



 今日の事を思い出す、そして皆に心配させたくないと思う僚太は素直に受け入れた。



「せめて自分の身は自分でか」



 珍しく口を出さないローズが使い古された模擬剣を倉庫から持ってくると僚太に投げ渡した。



「それがあなたの剣なのです、ガンバ」


「ああッ、せめて渡してくれ危ないから」


「それは模擬剣だから大丈夫よ、そうと決まれば明日から、仕事と勉強と稽古、頑張らなゃきゃね僚太?」


「俺だけ過密スケジュールなんすけど」



 一方、会話に入ってこないと思うと、椅子に座ったままのレベッカだけは腕を組んだまま居眠りをしていたので、今日は勉強は無しだと心の中でガッツポーズ決めた僚太であった。

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