【第七話】 平穏

 食堂に着き、シャルロットをやっと放したローズは厨房に僚太を呼ぶと食事を運ぶように促した。



「とりあえず私がパンを運ぶので、あなたはこのミルクとミルクとミルクとミ__」


「お~いローズさ~んバグってますよ~、さてはこれといって何も用意してなかったな!! いいですパンもミルクも俺が運びます、何か一品作るから席で数分待っててください、シャルロットにも伝えといてくれ」


「何をするのか知りませんがわかりました.....くれぐれも火の取り扱いには気をつけてくださいよ」



 僚太は手伝いで培った料理の知識を試す、もちろん適当でなく慎重に丁寧に。

 しばらくして僚太が持って出てきたのは食欲をそそりそうないい匂いがする黄色いスープが入った鍋だ、テーブルの上の皿にスープをおたまですくいそれを注いでいるとシャルロットが不思議そうに質問をした。



「僚太これはなにかしら!? なんかいい香りがするわね」


「なんちゃってコーンスープだ、塩とミルクもあったし、それとなく近い味のする食材があったから」


「コーン、スープ? 僚太って料理できるのね、素直にすごいわよ」



 黙っていたローズは注がれた皿を睨みつけている、見た事ないのだろうか。

 それからまるでクレーマーの如く色々指摘するので、僚太はわざと聞こえないフリをして厨房へと戻りパンとミルクをテーブルに持ってきたところで食堂の扉が開かれた。

 入ってきたのは先ほどとは違い、身なりを整えたレベッカで縦にストライプの柄が入ったスーツのような物を着ている。

 この世界もスーツみたいな服ってあるのだと、僚太は口にはださないで納得しているとレベッカがシャルロットへ近付いて行くと口を開いた。



「シャルロットお帰りさん、門の外の結界は再構築しといたぞ」


「うんご苦労様でした、でもねそれとこれは別で、お酒の事でお話しがあるから後でわたしの書斎にきてね」


「チッ誤魔化せなかったか.....酒ぐらいいいじゃんかよ~」


「飲むなとは言わないわよ、飲み過ぎるなとわたしは言ってるのよ、ねぇちょっと聞いてるの__」


「わ~わ~聞こえな~い」



 テーブルからパンを奪い、すごい速さで逃げていくレベッカ。

 それだけシャルロットがレベッカを心配しているのだろうにそんな事も知らずになんて哀れなのだろうかと僚太は心にしまう。


 視線をローズに戻すとあれほど文句を言っていたのに皿の中身は空っぽで視線に気づいて親指を立てている、この人もなんか哀れだと思わずにはいられない僚太であった。

 みんなが食事を終えて席を離れ、後片付けをしていると僚太は後ろから指で突っつかれ振り返ると、そこにはただのメイドが立っていた、だがいつもより少しだけ優しそうな顔をしていてそれを見て少しドキリとした僚太は視線をそらす。



「ぷっぷっぷ、残念でしたシャルロット様じゃないですよ」


「あの、同じ嫌がらせならさっきレベッカさんにもやられましたよ、二人共暇人なんすか、てかそのクオリティ低い者マネやめてくれ」


「私が場を和ませようとしている事を察してください」



 この屋敷の中でまともなのは自分とシャルロットだけなのだと改めて思うが、屋敷に着いてから頻繁に話しかけてくれるようになって少しだけローズと距離が縮まったのではないかと思うと嬉しくなる。

 それからしばらくすると何処からともなくお説教されたレベッカが疲れた表情をして戻ってきた。

 そして思い出したかのようにローズは手を打つと一つの提案をする、それはレベッカが魔術師と自分で言うほど頭がいいのなら僚太に読み書きを教えてあげてと。


 レベッカは腹を抱えて散々笑うと了承してくれたのだが、僚太の気分が悪くなるのは言うまでもないだろう。



「ごめんごめん、おまえ馬鹿なのなぁ、まぁこのレベッカ・アリシアに任せろって」


「ローズさん、俺この人嫌いです、チェンジで」


「ですが、私より確かに文学に精通しているのは間違いないかと思いますが」



 そのあとローズとレベッカは門の補修をしに行ってしまい、僚太が庭の草むしりや花壇の手入れ風呂の掃除、部屋の掃除が終わる頃にはすっかり日が暮れていて廊下には明かりが灯っている。

 幸い時計だけは読み方が間違ってないみたいなので玄関の大きな掛け時計をみると時刻は六時七分、慌てて厨房に駆け込むと食事の用意はされていて、食堂ではすでにシャルロットが席についていた。



「僚太お疲れ様です、お仕事大変だったでしょう」


「えっいや大丈夫だよ、てかわざわざ待っててくれたのか」


「待つわよ......みんなで夕飯の食事をとるのはあたりまえなんだから、これはわたしが決めたルールです、分ったら早く手を洗って席に着くの!」



 そう言われ急いで席に着くとローズとレベッカも何時の間にか席に着いていた、レベッカに至っては昼時とは違い素直に椅子に座って待っているものの、テーブルに肘をついて行儀が悪い。

 行儀が悪い人間に、読み書きを教えてもらうのかと思うと実に情けなる僚太であった。


__食事の後、レベッカの部屋に来るように言われ来てみたのだが、女の人の部屋に入る経験がなくしばらく悩んでいると、後ろからレベッカに蹴とばされる。



「なにやってんだよ、おまッ早くはいれってのッ!!」



 ドアを開けて中に押し込まれると絶句した、散らかっていて中身のないボトルが数本とやたらと分厚い本が何冊もそこら辺で積まれている、机の上には無造作に置かれた鉛筆立てがあり羽ペンも数本押し込まれていた。

 魔法陣のようなものが書き込まれているボードを見ているとそれに触れるなと怒られた僚太は理由を聞くと、屋敷の周りには幾つもの結界が貼ってあってそれを統括した物だという。


 ちなみに悪意有る侵入者はこの屋敷の存在に気付かないらしく、今までに襲撃されたことはないらしい、暫く考えた僚太は聞きたいことがあったのようでついでにと質問し始めるとレベッカもそれに答え始めた。



「人が寄らなくなったりする魔術ってあるのかな」


「もちろんあるな、あのボードと同じルーンを刻んだ物を持っていれば自分の姿も隠せるし木や壁に刻めば人除けにもなる、そういえば同じ人除けの効果をもつハーブもあるな、ソレを香水の中に入れて使えば__」


「即席で人払いができるって訳か?」


「ご名答だ......まぁそもそも簡易的なチャームは間抜けか耐性がない人間には効くがマナを容易に認知できるような奴か、アタシみたいなのには効果を期待しない方がいいな」



 因みに普通の人間ならそのハーブの存在すら気付かないとレベッカは最後に付け加えた。

 レベッカは教えるのに向いているのか僚太はすんなりと、まるで脳に書き込んでいるかの如く速さで覚え始める。


 だが暫くして彼女は電池が切れたかのように机に突っ伏すとイビキをかき始めたので、僚太はその日はお終いにすることにして部屋の隅に投げ捨てられていた毛布をレベッカに掛けると部屋を後にした。

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