【第五話】 夜が更けてから

 そんなやりとりをしばらくしているうちに部屋のドアをノックせず血相を変えたローズが乗り込んできた。


「シャルロット様!? 先ほどの光は」

「うん、僚太は知ったわ、知ってくれた、拒まないでいてくれた......」

「拒むって、そんなんで拒む奴は犬死にでもすりゃいいんだよ」

「それじゃわたしが助ける意味なくなっちゃうじゃないの」


 ローズもそんな顔をするのかと内心安心した僚太であったが、まぁ鉈を取りだしてなければもっと安心できたのだと言うのは野暮だろう。

 シャルロットが僚太を雇う事をローズに伝えると、物凄い形相で彼を睨むが渋々と頷き部屋から出ていった。


 「何から何までごめん、正直言うとこれから俺どうすればいいのか分からなかったからさ、ありがとう」

「勝手に決めちゃうけど、僚太ってきっといい人だと思うから、そんな人をほっとけないわ、それにわたしこそ......ううん何でもない、朝早くから屋敷をでるからもう寝なさいな」


 そう言ってシャルロットは僚太が返事をする前にそそくさと出て行ってしまう。

 再びベットに飛び込むと今度は徐々に、それでいてしっかり眠りにつく感覚を体が受け入れながら眠りについた。


 __今度はだれの怒号だろうか、シャルロットか、いや恐らくローズなのだろう、なにせ少々狂気に満ちた言葉遣いなのだから。

 きっとこの世界の二度寝は死を意味するのではと思い、飛び起きる僚太である。


「はいはい起きます起きま~すッ__!?」


 起きてみてびっくり、なにせ今まさに凶器を手にしたローズが僚太向けて飛び掛かろうとしていたのだ。

 あえて聞こえるように舌打ちするとローズは罵倒し始めるのだが、その言葉は寝てる最中に吐き捨てていた言葉と一言一句同じであった。


「朝早くに屋敷を出るとシャルロット様は伝えてたはずなのに、これだからわたしは嫌だったのです、どんな手を使ってシャルロット様に言い寄ったかはしりませんが、わたしはあなたを認めませんので、認めないというのは男としてもですが__」

「はぁ~疲れないんすかそんな早口で、それにまだ早くないっすか」

「あなた壁の時計、読めないのですか、字も読めないのですか......まさか馬鹿なんですか」

「時計ぐらいはよめるわ!! 五時四十分ぐらいだろ......」

「ならこれは読めますか」


 壁に掛けてあるかけ時計は見たまんまなのだから答えた、次に胸のあたりから取り出したメモのような紙を見せる。

 まぁ言葉が通じるからと言って字が読める可能性なんて無いのはわかっていた。

 それに例え当てずっぽうで答えてもローズが僚太へ馬鹿の称号を授けるのは間違いなく、それを思うとため息も出ない。


「馬鹿なら仕方ありませんね、ま、字が読めなくても出来る仕事は山ほどありますので、気を落とさずにガンバ」

「腹立つ!! だけど読めねぇから、ぐうの音もでねぇ~」


 理不尽とはこの事か、現実世界ではそこそこ成績が良かった僚太でも流石に異世界の文学の事は分かるはずもなく。

 しょうがないと思いつつ、僚太はローズにでも教えてもらおうと思ったところで、ドアが開け放たれてシャルロットが部屋に乗り込んで来た。


「ローズが迎えに行ったから安心したのに、あなた達いつまでやってるのよ、いい加減もう出るわよ」

「そんな慌ててどこ行くの、誰かと約束があんの?」

「え......伝えてなかった!? 屋敷に帰るのよ」

「ここがシャルロットの屋敷じゃないの?」


 どうやらこの屋敷はシャルロットがアルタイトへ来た時に、泊まる所として貸してもらっている屋敷だと言う。

 シャルロットの屋敷は此処から丸二日かかる所にあり、日が暮れると街道に魔物が出やすくなるらしい、そのため朝早く出る予定だったとのこと。


「とりあえず荷馬車は、わたしが容易してあるからいくわよ」

「ローズさん、メイドである意味あるんすか......」



__アルタイト国を出て順調に、二日目の朝、移動の途中で村に寄り食料を調達する。

 そしてまたしばらく荷馬車を走らせると屋敷につくと、思わず息を飲んだ、門構えときたらアルタイトにあった屋敷など目ではなく、門の前でローズが手をかざすと、耳鳴りのような音がした後で重そうな音を立ててゆっくりと開いていく。

 もしかして今度こそ大勢のメイドや執事が待っているのではないかと淡い期待をしたのだが。


「こんな屋敷なのにメイドとか誰も待っていないの?」

「は?、なにを期待してるんですかメイドは私だけですが......そういう趣味がおありなのですか」


 ローズが手で体を守るようにする、僚太は物騒なメイドに手なんか出せるかと言いそうになり自分の口を手で押えると今度はシャルロットが口を開いた。


「メイドって待つものなの!?」

「デジャブかッ」


 二人が降りてからローズが馬車に乗り込むと、荷物を降ろすと言って屋敷の裏手の方に行ってしまうと。


「じゃあ行きましょう、それと僚太、言いにくいんだけどね、なんか匂うから屋敷の中に入ったら風呂にはいってくれると嬉しいのだけど」


 そう言われてから鼻に意識を集中すると確かに何か匂う。

 そして僚太は色々出来事があり過ぎてたしかに忘れていた、転移して何日か風呂に入ってない事を。

 そう言えば村に立ち寄った時に、食料売店のおばさんが店の果物が腐ったのではないかと騒いでいた、訳アリの品だからと言って値切ったのだ、あれがまさか自分が原因なのではないかと思うと悲しくなる。

 シャルロットは移動中、荷物の関係上、僚太のすぐ傍に座るしか無かったのだからたまったものではなかったであろう。


「あの、シャルロットさん......ごめん」


 歩幅が少し空いているがめげない気持ちを持って彼女の後をついて歩いて行くと、庭園の中央に噴水場が設けられていて小奇麗に剪定された名前の分からない木々が並んでいる。


 「あぁー、庭園って屋敷っぽいよな~、あれとか猫の形__リアルすぎだろ!!」

「まぁローズは森の民だから、あれぐらいお茶の子さいさいよ......え何?」

「ん~あえて触れないよ!! じゃなくて、森の民ってのはエルフって認識でいいの?」

「うんその認識でいい、でもローズはエルフって呼ばれるのすごく嫌がるからやめてあげてね」 

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