【第四話】 襲撃の中の告白


 月あかりが漆黒の闇とメイド服を照らすと、白銀の髪が揺れ赤く鋭い眼光が門の前の男達を威圧する。

 ローズと呼ばれる彼女がなぜ男達を前にしているのだろうか、それは先に仕掛けた男の末路が物語っていた。




「ここに来たと言う事は、あなた達こないだの仲間ですか......」

「答える必要はない、そして死ぬがいい__」




 小柄な男の投げた刃物はローズをかすめる事すらなく飛んでいく、その男は自分の投げた刃物が胸に突き刺さっている事を理解するのに数秒かかると、そのまま倒れて息をしなくなった。

 ローズのあまりの速さに見失う男達は怒りではなく、しばらく忘れていた恐怖という本能を思い出したのだろうか、額に汗をたらしている。




「こいつ......バケモノか!? しまッ__」

「かん弁してくえぇぇぇ!! たいちょぐぁだずぎゅえ」



男達の隊長と思わしき人物は一瞬の感を頼りにかわすと、その後ろの弱音を吐いて逃げた仲間が首を抑えて倒れた、すかさず大柄な男が大剣を振り回すが当たりはしない。

 風を切り裂く音と共に大柄な男の首が飛ぶと、隊長の前で頭が転がり落ちた、そして間一髪で斬撃をよけ続ける隊長であったが、斬撃を繰り出す手を止めたローズが質問するかの様に口を開いた。




「楽しいですね、あなた達もそうして殺してきたのでしょ」

「ちッ貴様らのようなバケモノどもがッ」

「バケモノども......私はあなたを最後に殺そうと思っていたのですが、やはりそれは止めましょうか」




 しばらくの沈黙の後、隊長らしき男は自分がいつ死んだのか、気付くこと無く悔やむこと無く、その四肢をバラバラにされた。



 __ローズが男達全員を殺してまわる姿を窓から見ていた僚太は顔を強張らせると。




「こんなのバカげてるだろ、なんであんな、剣聖と呼ばれたお前はたすけないのか!?」

「あそこで殺されてる奴ら? ......それとも殺してるローズを?」

「なにいってんだ!! そんなのッ」

「僚太は何も知らないのね、えぇいいわ......よくその目でみなさい、あれが人のように見えるの!! ッ__」




 そう言うと手を引かれ、窓に顔を押さえつけられる僚太はそのとき初めてシャルロットの言う意味が分かったのだ。

 その辺で転がっていた死体のような山はいつの間にか無くなっていて、代わりに墨か何かを辺り一面にぶちまけたような状態になっていた。

 その場所を月あかりが照らすとその墨のような物は明るく輝きだして、宙へと舞って掻き消えた。




「あれわね、たしかにもともと人だった者よ......魔王軍の幹部、七人の大罪の名を持つ者、その内の一人は戦場で死んだ人々に別の魂を吹き込んで新たな領地を襲わせるの」

「ならこの国にはあんなのが入り込んでるってのかよ、世界の調律士って......」

「世界の調律士ってのはね、昔は人間同士の争いを止めるための抑止力だったの、でも今は魔王軍も相手しなければいけなくなったわ」




 シャルロット曰く、大昔は魔王も人々と仲良く暮らしていたらしい。

 しかし、十数年前に魔王の代が子に変わりその暮らしは終わりを迎えた。

 新な魔王は人間達に宣戦布告すると手始めに二つの領土に戦争を仕掛けて奪い取ったという、それぞれの領土にあった二つの王国の人々が此処に逃げ込んだらしいが、周辺の村や町にいた多くの人達は逃げる事が叶わなかったという。

 昔話を終えると黙り込む、が、なにか決断したようで静かに口を開いた。




 「さっきの僚太の願い、聞いてもいいわ、でもこれだけは、この事だけは知っていて......」



 神妙な顔でそう言うと、いつの間にかシャルロットの片手には剣が握られていた、その剣を見て僚太は一つ、たしかに気になっていた事を思い出した、それはアジェータ達の戦いの時に一度も鞘から出さなかった剣の事を。



「それが、どうかしたのか......シャルロット?」



 うん、とだけ短く答えると剣を握りしめ力一杯抜こうとする、そして辺りは眩い閃光に包まれた。

僚太は顔をしかめる、意識がしだいに遠のいていきそうになり踏ん張るのだが耐えられずにとうとう片膝を床に着く、その閃光に包まれた時間は短くもあり長くも感じられた。



 __意識が正常になり始め、顔をあげた時、そこには一人の若く綺麗な女性が立っていた。

 背は僚太より高く、顔は凛としている、だが僚太を見つめるその青い瞳の女性は誰かと似ていて。

 助けてくれた時の頼もしそうな出で立ちが、名前を呼んだ時に嬉しそうに照れた表情が、かすかに揺れるリボンが、真剣な眼差しが、その全てがシャルロットのモノのだと証明した。

 だがシャルロットは顔には出さないが、何かに怯えてるような表情になると確かめるように口を開いた。



「これが本当のわたしなの、こんなの不気味よね、怖いわよね......」



 それは大罪の名を持つ者、その内の一人との戦闘で受けた呪いだという、そんなシャルロットを見て忌々しい呪いの剣聖と呼んで蔑む者も未だ多く居るようだ、魔王軍から救った人々でさえも。

 真実を知って、いったいどれだけの者が彼女の元を去ったのだろうか、どれだけ傷ついたのか、だが僚太は、この男はそんな事など眼中になく。



「くッ~カッコイイし綺麗!! なんかすげ~って、それがシャルロットか真シャルロットじゃんかよ」

「なによそれ......う~!! 僚太ってトンチンカンなの!?」

「トンチンカンッて使う奴を初めて俺は見たわ!!」



 安堵したのか微笑み緩んだ表情になる、するとシャルロットは剣身を鞘に戻した。

 するといつの間にかいつもの彼女に戻っていたシャルロットは僚太に剣の事を教えてくれる。

 それはシャルロットが幼少の頃の話だ、村の近くの山で何者かに討伐され、龍の亡骸の頭蓋に刺さる剣を王国の人間が見つけた、それはすぐに大きな噂になった。

 この世界の聖剣というのは、どうやらは持ち主が命を落とさない限り所有権はなくならない、つまり先代の剣聖が死んだと言うのだから穏やかでは無かったであろう。

 そしていつしかシャルロットは誰一人抜けなかった剣を抜いた、抜く事が叶ってしまった。

 この世で数本ある内の聖剣、人々はこの剣の名前をアルカディアと呼んだ、アルカディアはありとあらゆるモノをはねのけると言う、あふれ出る光精霊のマナは掛けられた呪いでさえも解いた。




「ただわたしはアノ人に憧れただけなのに......この剣がわたしを選んだ、もしかしたらわたしじゃ、な__」

「ほかならぬキミだからそいつは選んだんだよ、アルカディアだっけ? 見る目あるぜそいつ」



 付き合いは浅いが僚太は彼女の優しさなら幾らでも証明できる自信がある。



「ありがとう、僚太、ごめん......精霊の事の話を続けるわね」



 この世界には精霊と呼ばれるマナがある、光精霊のマナは精霊のマナの中でも最高位にあたるらしく、僚太の立ち眩みは一種のマナ中毒からきた作用だという、膨大なマナを浴びると、並みの人間では場合によっては死ぬ事もあるらしい。

 それに体に負荷が掛かるのはシャルロットでも例外ではなく、だから危険が迫った時か、しょうがなく自分の証明をするとき、それ以外はむやみやたらに抜かないと決めているらしい。



「いわゆるもろ刃の剣か......ん、あれ、シャルロットさん? じゃおれさっき下手したら死んだかもしれないんじゃないですか」

「瀕死とか体が弱ってる人じゃなければ、それに僚太なら大丈夫だと思ったから、てへ」

「言動がたまにちょっと古いと思ったのは年上だからか、いろいろ理解したよ」

「わたしまだ二十三よ!!」

「おれ十七よ!!」

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