【第三話】 仏頂面メイド現る

 馬車をしばらく走らせ街中から少し離れると大きな屋敷が見えてきた、シャルロットが馬車の主にコインのような物を渡していたのを見て今まさに自分が一文無しだという事を思い出した、が、それ以上に異世界転移のお約束すら守られてない事に愕然とした。



「働かざる者食うべからずって親父がよく言ってたな......だけど異世界転移ってなんか神様的な奴からなんかくれないのか?」



 普段、神頼みしないのだがこの時ばかりは神に会いたいと切実に願う僚太であった、あとたぶん転生と転移をはき違えていた。

馬車から降りた後シャルロットについて行くと門の前で止まり、呼び鈴のような物を鳴らすといくらも待たずに門が開く、これだけ大きな屋敷なのだからそれは多くのメイドや執事がいるのかと思ったのだがそこには誰もいない。



「メイドとかって一列に並んで待たないもんなの......」

「えっ僚太の所ってメイドさん並んで待ってるの!?」



 質問を質問で返されて困惑していると屋敷の扉が開かれ誰かがこちらに来るのだが、出迎えたのは可愛らしいメイドではなく、かなり仏頂面をしているメイド姿の人物である。

 特徴的な耳からしてエルフなのだろうが、白銀の切りそろえられた短めの前髪に束ねた後ろ髪、真紅の瞳といういで立ちがよく異世界に居るエルフのそれとはちがう。

 そこいらのエルフ以上に美人でスタイルも良さそうなのだが仏頂面が台無しにしているとは言えない僚太であった。



「シャルロット様お帰りなさいませ......あの」

「ローズどうしたの? あっ、彼はね説明するとかくかくしかじかでね?」

「かくかくしかじかって本当に使う人、初めて見たぞ」



 ローズと呼ばれるメイドは表情に動きがないせいで怒っているのか悲しんでいるのかまるっきり分らない、次の瞬間、目だけを僚太に向けると両手を後ろの腰に回し、何かを掴んだようで僚太は注目するのだが、それはメイドには似つかわしくない随分と立派な鉈なたであった。

 人の腕ほどの長さの鉈をレザーケースのような物から引き出すとシャルロットに問い始めた。



「私如きが差し出がましいのは重々承知で言わさせて頂きます......この生ゴミのような者をどこでお拾いになられたのですか」

「僚太は、大丈夫だから」

「一月ひとつき前も、街中で助けた男に襲われたばかりではありませんか......その時も大丈夫だと、もしシャルロット様に何かあれば私はそちらの方を......」

「ローズが人間嫌いなのわたしが一番わかっているもの、そうならないようわたしも願うわ、ね僚太?」




 たぶんローズの言う事が正しいのだろう、なにせ会ったばかりの僚太でさえシャルロットに何かあれば怒りは沸くだろうし、そいつを許すことは難しいと思う、詳細は不明だがきっとローズとシャルロットにはそれだけの絆が有るのだろう。

 黙って聞いて終わるのができたらどれだけ楽か、くだらない戯言だとローズは吐き捨てるだろうか、それは大丈夫だとシャルロットは笑うだろうか。

 黙って挙手すると珍しく真顔で僚太は静かに口を開いた。



「シャルロットやローズさんに何があったとか俺はわからねぇし、今は証明できない......けど俺は助けてもらった恩だけは返したい、だから__」

「もうよろしいです、私はあなたを信用しません.....ですが取り合えずは様子を見る事にします」




 今はそれだけで上々だろう、シャルロットに至っては終始黙って聞いていただけであった。

 門からしばし歩いて屋敷の中に通されるとローズは会釈をして何処かに行ってしまう、代わりにシャルロットが客室まで案内してくれたのだ、部屋の中に入るや否や僚太はベットの上に飛び込むと今日の出来事を整理した。



「とりあえずは今後どうするかな、いつまでも世話にはなれないし」



 この世界でどうすればいいのだろうか、行く当てはない金もないし済む場所もない、いっその事シャルロットのもとにでも、と考えていたところで部屋のドアを誰かがノックするとシャルロットの声が聞こえてきた。



「僚太? もしかして寝ちゃった?」

「シャルロットか、でもまだ寝る時間じゃないだろ? あ」



 一瞬でも寝落ちしていたのだろうか、部屋の中はすっかり暗くなっていたのだ。




「ドアあけるわよ?」

「ぁあ、開けるからちょい待って」



 ベットから飛び降りるとドアを開ける、私服のシャルロットが顔をのぞかせたがその姿は天使と見間違うほどであった。

 見とれて口から何かがでそうになり、慌てて誤魔化そうとして、考えていたことを口に出してしまった。



「あのさ出来ればでいいんだけど、俺をさ、シャルロットの元で働かせてくれないか? 手伝いでもなんでも」

「それは、力になれそうにないわね、ごめんなさい......」

「うわっこっちこそごめん!! そうだよな何言ってるんだ俺!?」




 淡い期待をしなかったと言えば嘘になる、元にシャルロットは今まで僚太の聞くことを拒んだりしていないのだから今回も、いいよと答えてくれると思うのは都合が良すぎなのだろうか、なんて自分勝手なのだろうと思い恥ずかしくなる僚太であった。

 しばらく続いた二人の沈黙を誰かの怒号が終わりを迎えさせる。




「なんだ今の!? ローズさんじゃないな、ほかの人か?」

「それはないと思うわ、この屋敷には僚太とわたしとローズの三人だけよ」

「さッ三人? いや今はいい、なら外か!? まさかあいつらじゃ......」




 恐る恐る窓を覗くと数人の人影が門をこじ開けて中に入ろうとするのが見えた。




 「アジェータ達だったらローズさんがあぶない、早く行かないと!!」

 「仮に彼女達だとしても、ローズなら大丈夫よ」

 「なに悠長なこと言ってるんだ__」




 もう一度窓の外を覗いて僚太は絶句した。


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