【第二話】 強い女の子は剣聖!?

 

 暫くの沈黙が続いたあとアジェータが口を開いた。



「騎士風情なんかに頼むんじゃなかったわね、それにあなたのせいで計画が台無しじゃない、どうしましょうか」


「おおかた貴女がたぶらかしたのでしょうね、鼻につくわよその匂いチャーム」


「あら? 腹が立つ事いうのね、依頼の対象はそっちの坊やなのだけど手を引く気ないのかしら剣聖さん」


「わたしはそこの男の子助けると決めたから、残念だけど......でも安心していいわよ貴女を殺すほど加減できないわけじゃないし」


「なまいきな小娘ね__!!」



 アジェータは無数のナイフを何処からともなく取り出すと少女へと投げつける。

 少女はそれをいとも簡単に鞘ではじき落とすのだが、アジェータのナイフを投げる速度はそれに応えるかのように速くなる、だが少女は坦々とただ的確に捌さばくだけで表情に一遍の曇りも無い。


 僚太には鉄と鞘がぶつかる耳障りな音しか聞こえず何が起こっているのか理解できずにいた。

 少女の事が心配になるが見守る事で精いっぱいで体は動けない、だがその視線は少女に届いたようで表情が緩むと弾丸の如く迫りくるナイフを振り払いながら答えた。



「大丈夫だからあなたはそこでジッとしていてね、せっかく助けたんだもの無傷でいてくれないと困るんだから」



 しかし僚太がそんな少女に安堵したのも束の間、アジェータはその一瞬の隙を見逃しはしなかった、いつの間にか僚太へと近付いて背後を取ると腰から短剣を取り出し喉元の処で止める、唾を飲み込むことすらためらう程にアジェータの眼は獲物を捕らえた猛獣のそれと同じであった。



「はいここまでッ__まずは一人目ね~」


「こんなお姉さんは卑怯? いいえこれは至極当然なこと、だって獣の狩りって手負いか弱い獲物をまず初めに狙うものぉ、馬鹿正直にアレを相手するわけないでしょ」


「良い事を聞いた......なら俺も一つあんたに教えてやるよ、能ある鷹はな爪を隠すっつんだよ!! クソババァ__」



 色々な意味で心底気分が悪くなる、一つの賭けではあったが僚太は勢い良く足を踏み下ろすとつま先をとらえる事に成功する。

 痛さからなのか驚きからなのか分からないが僚太を放したアジェータへと少女はすかさず距離を縮めるとその勢いのまま薙ぎ払う。

 寸前の処で体を仰け反らしながらかわすと、短剣を持ち直して少女に飛び掛かかろうとしたその時、近くで笛を吹くけたたましい音が鳴り響いた。



「うるさいハエどもが来たわね、もうお金とかどうでもいいわ~あなた達は必ず私が殺すから......かならず」


「逃げる奴のセリフかよそれでも盗賊かなんかの端くれかよ!! いつでもきやがれっての、俺は幸運スキルマックスだっつーのババアは大人しくシワでも数えとけ」



 アジェータは顔をしかめるとものすごい速さで壁から壁へと曲芸師の如く飛び移り屋根へと上る。


 僚太達の方を今一度見下ろすと聞き取れはしなかったが何かをつぶやくと何処かへとそのまま消え去った。

 相変わらず僚太は騒ぎ立てているが状況からしてどちらが負け犬の遠吠えかは言うまでもなく、しばらく罵詈雑言を聞いていた少女は困惑しながら僚太へと近付くと指で腰を突っついて。



「ねぇねぇ、なぜあんな事したの? 下手したら......」 


「ただ頭にきた、まるで物みたいにキミをアレってよんだのが......ところでアイツはいったい何だったの?」


「んー簡単に説明すると暗殺とかを専門に扱う女性だけで構成されたギルドに所属する一人よ、この国の人たちは王様ふくめてみんな何かに怯えてるの......だから彼女達みたいなのにすがる人達も大勢いるのよ、あとは言わなくてもわかるでしょ?」


「つまり俺がキミに助けられて救われたと思ったのと同じで、あいつらみたいなのでも救われたと思う奴がいるのか」


「そこで倒れてる彼みたいに彼女達に手を貸す人たちも多いの、だから時々自分の存在意義を見失いしないかけるわよ......」



 アジェータが姿を消してからしばらくしてやってきた警備兵らしき人達に少女は状況を説明すると、ちょび髭の兵士が少女へ膝をつき深々と頭をさげる。

 それを見ていた僚太は少女が騎士なのか尋ねるのだが答えたのは少女ではなく、意気揚々と立ち上がるちょび髭の兵士だった。



「この方はな世界の調律士、剣聖シャルロット・ルリエ・アルカハート様だ、貴殿は知らんのかね?」


「ん~長すぎてよくわからなかったすんません、つまりはシャルロットってことでいいのか?」


「プッ__アハハハハ! キミみたいな人きらいじゃないよぉ、シャルロット......そうね、名前で呼んでくれると嬉しいわね」



 そう言ってシャルロットは微笑むと僚太へとあらためて向き直り、手で合図をする、僚太はこぶしを握り胸を打つと声高らかに名乗った。



「よくぞ聞いてくれました......この俺は帰宅部隊所属、僚太上辻と申しますいごおみしりおきを!! ぜひとも僚太と呼んでちょうだい」


「僚太ね、よろしくね、でも驚いたわとても生存率が高そうな名前の部隊にいるのね!? 格好からして貴族だと思ったのだけど、どこの国の人なの?」


「真に受けるとは思わなんだ......ん~言いたいのは山々なんだけど」



 違う世界から来たなんて言っても誰も信じないし証明もできない、僚太がこの国に居るのは異様な存在なのは言うまでもなく。

 ここで馬鹿正直に答えればシャルロットが今度は敵になるのではないだろうかと考え言葉が詰まる、知ってか知らずかシャルロットは何か察したようでそれ以上は聞いてはこなかった。


 それから大通りに出て警備兵達と男が乗った護送用の牛車を見送ると、シャルロットは日も暮れ始めているので屋敷に来ないかと僚太に尋ねた。

 それが僚太への優しさからなのかそれとも素性を知りたい興味本位なのか、どちらかと言われれば恐らく前者なのだろう。



「なんかシャルロットに助けてもらってばかりだな俺......でもありがとう助かるよ」


「正直でよろしい!! 馬車を呼び止めるからちょっと待っててね」



 片手をあげると近くを通る馬車が止まるがタクシーを止めるのと同じ感覚なのだろうか。

 馬車に乗り込みそういえばまともにこの国の事をしらないと思いシャルロットに聞く、変な顔一つせずそれなりに詳しく教えてくれる。


 かつて魔王軍に領地を奪われた二つの国、いま居る国と合わさりできたのがこのアルタイト大国というものらしい、ちなみに国の端から端まで馬車で飛ばしても丸一日かかるという。


 アルタイトには大きなお城が大都中心に陣取っていてそれぞれの領主がそこに住んでいるらしい。

 言われてみて城を眺めると三色の旗がなびいている、ほかの国より争いは多いのだろうか、それに魔王って間違いなく異世界じゃないかと突っ込む元気はもうなくなっていた僚太であった。



「なんか受け入れたくないけどしょうがないのか」


「なんのこと、なんか僚太は不安なの?」


「あ~泣けるぜ~俺~」


「だ、大丈夫!? わたし変なこと言っちゃったのかな」



 そう言って覗き込むシャルロットの顔も見て一つ大きな決心をする、もし何かあれば絶対に助けたいとそれが僚太がこの世界でやると決めた物語の始まりである。

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