第379話 一年の振り返り
「司君は自分の部屋の掃除ね。私たちは台所にいるから」
「今から杏里姉と一緒に年越しとおせちの準備をするのですよ! ほらほら、台所にいたら邪魔でしょっ!」
俺の背中をぐいぐい押してくる真奈。さっさと部屋へ消えてほしいらしい。
「じゃ、頑張ってお掃除してね!」
俺の部屋の扉が勢いよく閉まる。そんな強くしめたら扉壊れますよ?
先日みたいにドアどっかーんガタガタ事件でも起こしたいのですか?
そんなことを考えながら自分の部屋を見渡し、腰に手を置く。
扉の外では真奈の声が響き渡っていた。
「勉強は今日明日免除! いやっほぅー!」
……息抜きも必要だよな。何気に結構勉強頑張っているし、杏里に聞いてくることも多い。
が、俺に聞いてこないのは解せぬ。
俺は頭に三角巾をつけ、エプロンも装備。これで守備力は三くらい上がったはず。
掃除機を右手、はたきを左手に。さぁ、掃除の時間だぜ。
部屋の天井の埃とり、カーテンレールや本棚の一番上。
そう、掃除の基本は高いところから行うのだ。そして、はたきをパタパタしながら俺は一年を振り返る。
この下宿に引っ越してきたこと。はじめは一人でちょっと不安だった。
学校で高山とバカやって、杏里と出会って、みんなで勉強会して、海行って、実家にも帰ったし、遠藤達ともなんだかんだ言って仲良くなったしなー。
なぜかこの下宿にみんな集まってペン入れしたり、焼肉食べたりお好み焼きしたり、楽しかったなー。
公園で杏里に想いを伝えることができたし、文化祭の時だって……。
そういえば会長は元気なのだろうか。
俺たちは以前会長から紙袋を渡されている。
家に帰って杏里と中身を見てみたらオシャンティーなフォトフレームだった。
明るい木目調の枠に小さな貝殻やサンゴが付いており、見た感じ手作りっぽい。
今はみんなで撮った記念写真を入れて玄関に飾っている。
杏里と一緒に住むことになって杏里のお父さんや会社の人とも良く話すようになった。
最近バイトの本数が少ないけど、店長大丈夫かな……。
連絡がないってことはシフトは回っているってことですよね?
ふと自分の机の上にある杏里の写真を眺める。
浴衣、水着、制服、ドレス、ワンピースどの写真を見てもカメラ目線で微笑んでいる。
杏里はカメラ映りもいいので正直うらやましい。
とある写真以降、長かった髪がバッサリと短くなっている。
それでも杏里の微笑みは変わっていない。
人差し指でそっと杏里の写真にふれ、ほほをなでる。
「杏里……。これからもっと杏里の写真が増えそうだけど、その微笑はずっとっ見ることができるのか?」
俺はちょっと寂し気な雰囲気をかもし出し、決め台詞っぽくいってみた。
うん、いい感じにいけてますな。
「もちろん。司君がレンズを私に向けてくれる限り、ずっと司君に微笑を。また写真撮ってくれるのかな?」
「おおおぉおううぅうぅ! い、いつからそこに!」
さっきまで俺一人だったはずなのに、気が付いたら杏里が俺の隣に立っていた。
「んー、ちょっと前かな? 司君が手を止めて、机の前で動かなくなったところ位から隣にいたよ?」
「ノ、ノックは?」
「もちろんしたけど、反応なかったから」
「そうですか……」
びっくりした。杏里はいつから隠密スキルを習得していたんだ?
「ちょっとお願いあるんだけどいいかな?」
「はいはい、何でしょうか?」
「真奈ちゃんと二階に行くからお鍋見ていてほしいの。適当にかき混ぜておいて」
「いえっさー。お任せください」
俺は杏里に言われ鍋の番人へジョブチェンジ。掃除夫から番人、かなりのランクアップだ。
しかし、二人は二階で何をしているのだろうか……。
扉の向こうから少しだけ声が聞こえてくる。
「んー、サイズはどう?」
「多分大丈夫。明日はこれを着て初詣に行くの?」
「そうだよ。せっかくだし二人で着ていこうかなって」
「いいねっ、この柄かわいいっ。杏里姉は着付けができるんだね」
「普段は着ないけどたまにね。よし、準備はこれでいいかな」
「明日楽しみだね! 司兄、絶対にかわいいって言ってくれるよ!」
「ふふっ、そうだね。言ってくれるといいね」
番人は耳がいいのだ。建物が古いからではない、ここは男として一言バシッと言ってあげるべきだな。
おそらく二人で着物を着るのだろう。初詣で着物、鉄板のイベントですね。
おーけー、任せた俺。明日は二人をべた褒めしてやるぜ!
「司君お鍋! 混ぜて混ぜて!」
「だ、大丈夫! 混ぜてる、ぜんぜんまぜてーるよー」
危ない危ない、手が止まっていたぜ。
俺は鍋と格闘しながら二人の着物姿を妄想していた。
杏里は絶対にかわいい! おまけで真奈も。
早く明日にならないかなーー。
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