第371話 ずっと君と


 眠ったと思ったのに、ふと目が覚める。

寒いな……。部屋の人数は多いのに、寒気を感じる。

もしかして二階の窓開いてるのか?


 聞き耳をたてるが、誰の声も聞こえない。

みんな寝ているのか。ちょっと様子を見に行くか。


 ベッドから起き上がり、みんなを踏まないようにそーっと部屋を出る。

扉を開けるとそこには四人の姿が。


 杏里、君の寝顔は天使のようだ。

いや、天使そのものです。そっと、近づき頬にキスをする。


「んんっ」


 おっと、危ない危ない。

気配を消し、リビングから廊下に出て二階へ。

さ、寒い。なんだこの寒さは。まるで外のようじゃないか。


 二階へ上がり窓の取れた部屋へ入ってみる。

なくなった窓に張り付けたシートが半分取れており、冷たい風が中に入ってきている。

古い建物だからな……。窓に張り付けなおし、部屋に入る風はなくなった。

これで大丈夫かな?


──カサッ


 背後から音が聞こえる。


「どうかしたの?」


 パジャマ姿に毛布をまとった杏里が立っている。


「ごめん、起こしちゃった?」

「なんとなく気配を感じて。さっき私の側に来た?」


 俺の気配を感じたのか。


「ん、ちょっと寝顔を見に。ごめん、寒いから戻ろうか」


 すると杏里はまとっていた毛布の前を開き、微笑む。


「入る?」


 お邪魔します。

杏里の毛布にくるまり、杏里と一緒に温まる。

後ろから俺に抱き着き、俺の冷えた体を温めてくれる。


「どう? あったかい?」

「ん、とってもあったかい」

「よかった」


 寒いけど、その部屋の床に二人で座り、少しだけ二人の時間を過ごす。

俺は毛布をかぶり、杏里は俺の腕の中にいる。


「今日、楽しかったね」

「だな。またみんなで集まってお泊り会してもいいかもな」

「そうだね。冬は外で雪だるま作って、雪合戦」

「春になったら庭でお花見して」

「夏になったらプール! 大きなプールを作ろうよ」

「秋になったら焼き芋でもするか?」

「庭で焚火は危ないよ? でも、楽しそうだね。確か七輪あったよね?」

「あったあった、サンマでも焼いてみるか」

「おいしそう。そしたらまた冬が来るんだね……」


 一年はかわるがわるやってくる。

春が来たら夏、秋、冬。そしてまた春。


「毎年みんなで集まって、沢山思い出作りたいね」

「そうだな、あと何年こうしていられるんだろう」

「ずっと、ずっとできるよ」


 俺は何年たってもきっとここにいる気がする。

たとえ、下宿をやっていなくても、杏里とここにいたい。


「杏里、俺とずっとここにいてくれるか?」

「いいよ。私はずっと司君の隣で、いつまでも司君の側にいる」

「俺も杏里の側にずっといるよ」


 真冬の冷たい部屋の中、静寂の時が俺たちを包み込む。

ただ、重なり合った唇と彼女の温もりがとても暖かく感じた。


「好き、だよ」


 杏里は目を閉じ、俺の耳元でささやく。

そのまま杏里は俺に体重をかけ、俺の腕の中に。


 俺はその温かさを感じ、再び眠気が襲ってくる。

杏里、俺はずっと君と──。

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