第369話 ゲーム大会


 夕飯の焼肉パーテーも無事に終わり、男性陣は先に風呂に入る。

女子メンバーがみんなでお風呂に入っている時間、男四人は台所に集まり後片付け。


「高山ー、皿拭いて」

「ウィー。遠藤、皿しまって」

「オッケー。良君、テーブルの上はどう?」

「あと半分ですかね」


 コップにお皿、ホットプレートに茶碗。

盛り上がった焼肉パーテーは終わった。


 食後のおやつも杏里たちがカップケーキを作ってくれていた。

そして、杏里の入れてくれた紅茶もなかなか好評だった。


「高山ー、この食器全部廊下の収納に移動してー」

「なんで?」

「こっちの茶箪笥に入りきらないんだよ。一回もとの場所に戻す」

「あいあいさー」


 高山に食器セットを渡し寒い廊下に旅立だたせる。

しかし、今朝は天に召されそうだった高山の血色がいい。

きっと大量に米を消費したかだらだろう。何杯もお代わりしてたし。

そして、肉を両頬にほうばっていた杏里もハムスターのようで可愛かった。


 だが、極寒の廊下から帰ってきた高山は、少し様子が変だ。

何かあったのか?


「どうした?」

「洗面所から、彩音たちの声が聞こえた……」

「ほぅ、それで?」


 チラッとだが、遠藤も良君もこっちの話に聞き耳を立てている。

気になるよね!


「やわっこいとか、おっきいとか、スタイルがとか……」

「わかった、もういい。その話はそっと胸にしまっておけ……」


 聞きたい、本音はもっと聞きたい。

だけどね、きっと聞いちゃいけないんですよ。


「あぁ、心の宝箱に入れておくぜ」


 ほくほくしている高山、神様が頑張った高山にご褒美をくれたのかもしれない。


「天童君、こっちは終わったよ」

「テーブルの上も終わりました」


 やっと終わった。長い戦いだったぜ。

どれ、準備を進めますか。


「じゃぁ、予定通りやりますか」

「もうひと踏ん張りだな」


 冬のイベントも終わり、今日がみんなで集まる最後の日。

ちょっと楽しいことがあっても罰は当たらない。


「よし、やるぞ!」

「「おーー!」」


 俺の部屋のベッドを窓際に移動する。

四人でかかれば造作もない。ベッドが移動した分フロアが広くなる。


「良君、掃除機でぐわっとお願いします」

「わかりました」


 良君は素直でいい子ですね。


「高山、遠藤。いくぞー」


 二人を連れて二階に行く。そして、高山と遠藤、そして良君の布団を俺の部屋に移動する。

そして、リビングにあるソファーとテーブルも廊下に一時避難。

リビングにはかなり広いスペースが確保できた。


「良君、こっちもー」

「はーい」


 なんだか良君家政婦みたいだな。


「もう移動させるのか?」

「みんなが上がってくる前の方がいいんじゃないかな?」


 三人で再び二階へ。

俺は杏里の部屋に、高山は杉本さんの部屋。そして遠藤は井上さんの部屋に移動。

それぞれが布団一式をかつぎ、リビングに持ってくる。


「良君もういいかな?」

「大丈夫です。しっかりと掃除機かけました!」

「ありがとう。じゃぁ、真奈の布団も持ってきてくれるか?」


 少し照れながら良君はうなづく。


「イッテキマス」


 右手と右足が同時に出た。

何緊張してるのかしら? もぅ、純粋(うぶ)なんだからっ。


 広くなったリビングに四人分の布団を敷く。

まるので修学旅行の大部屋みたい。


「こんな感じでいいかな?」

「いいんじゃないか?」

「なんか、楽しそうだね」



──ガチャ


「あー! お布団!」


 真奈がパジャマ姿で布団にダイブする。


「持ってきてくれたんだ。ありがとう、大変じゃなかった?」

「大丈夫、さくっと持ってきたし」


 杏里もいつもと同じように頭タオルを装備している。


「今日はここで寝るんだね。楽しみっ」


 杉本さんもなんだかわくわくしているみたい。


「なんか、修学旅行みたいだね」


 井上さんはジャージで寝る派なのか。

でも、ピンクのジャージは可愛いっすね。


「優衣、あまり夜更かししないようにね」

「拓海もね」


 黒とピンクのお揃いジャージ。

なんだかんだ言って、二人とも好き合っているんですね。

見ているこっちがちょっと恥ずかしい。 


 寝るにはまだちょっと早い時間。

リビングに敷いた布団にみんなが集まり、しばしのゲーム大会。

自然とそれぞれの布団でペアができる。


 杏里の布団に俺がすわり、ドライヤーで髪を乾かす。

長かった髪の時と比べ、乾くのが早い。


「いいなぁー、杏里姉は乾かしてもらってー」


 真奈の瞳には良君が映っている。

高山たちは四人でカーゲームに熱中しており、みんな画面に視線を向けていた。


「杏里、終わったよ。どれ、良君ちょっと」


 俺は良君にドライヤーを渡し、アイコンタクトのつもりでウィンクする。


「僕も髪乾かした方がいいですか? まだ濡れてますかね?」


 ちがーう! 自分の髪じゃない! 真奈の髪を乾かしてー。


「良君乾いてないの? だったら私が乾かしてあげるよ」


 良君からドライヤーを奪い取り、半強制的に真奈が良君の髪を乾かし始める。


「髪、思ったよりも柔らかいんだね」

「そ、そうかな?」

「私、結構ごわごわでねー。杏里姉みたいにサラサラになりたいんだけどさー」

「そうなんだ。じゃぁ、乾かしてくれたお礼に、僕も真奈ちゃんの髪とかしてあげるよ」

「うん……。ありがとう、お願いするね」


 多分、あの二人の周りには展開されている領域があり、浸食することはできないだろう。

あの、熱風気(どらいやー)は二人を温かく包み込んでいる。

実際に熱いんだけどね。


 俺の前に座っている杏里も、視線を二人に向けている。

そして、杏里は俺に体重をかけてきた。


「お邪魔します」


 石鹸の香り、杏里の温もり。俺も自分の周りに領域を展開する。


「今日で終わりだな」

「終わっちゃうね。でも、楽しかったね」

「あぁ、みんなで集まってこんな時間を過ごすって、きっと今だけなんだろうな……」


 きっと、大人になったら失ってしまう時間。

今の俺たちは、今しかできないことを経験していきたい。


「のぅあぁぁぁぁ! 勝てない! 遠藤に勝てない!」

「高山君は弱いなー、次はハンデをつけよう」

「いらん! 四人でやってなんで毎回最下位なんだよ! 彩音にも井上さんにも勝てないなんて!」

「私は弟とよくやってるから……」

「私も拓海とたまに対戦してるし」


 高山が悔しがっている。

どれ、俺の腕も見せる時が来たかな。


「遠藤、俺にコントローラーを。高山に引導を渡してやる」


 再びレースが始まる。俺の手にかかかれば高山はあっという間に──


「勝った! 天童に勝った! はははっ、一番下手なのは天童だ!」


 おかしい。なぜ? 俺はそんなに下手なのか?


「高山、コントローラーを真奈に」

「私?」


 お前にならきっと勝てる!


「あは、司兄弱すぎ。なんで? ぷークスクス」

「真奈ちゃん、天童さんに悪いよ。そんなにはっきり言っちゃったら」


 おーい、良君も何気にひどいこと言ってませんか?


「司君、私と勝負しようか?」


 微笑む杏里は俺よりもうまい。

だが、男には引けない時がある!


「いいだろう。その勝負受けた!」


 こうして深夜のゲーム大会が始まり、それぞれが楽しい時間を過ごす。

ゲーム中、後ろで杉本さんに膝枕をしてもらっている高山に神の雷がありますように。


「あーー! なんでそこで雷使うかなー!」

「本気じゃないと、つまらないでしょ?」


 結局俺が最下位でした。次こそは……。

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