第341話 放課後デート


 期末のテストも無事(?)に終わり、俺たちは冬休みに入る。

試験の結果は予想通り。杏里と井上は今回も掲示板の上位に。


 しかし、俺は順位を大きく下げてしまった。

まぁ、前回ほど勉強していないのは自負していたが、ここまで落ちるものなのか……。


 終業式も終わり、今年最後のホームルーム。

課題も山盛り出され、荷物が多い。


「では、冬休みだからと言って気を抜かないようにして下さいね。特に高山君はお餅の食べ過ぎに注意ね」

「大丈夫です! 毎年セーブしながら食べていますので!」


 先生と高山のショートコントが無事に終わったようで、俺たちは帰路につく。


「天童、今日は真っすぐに帰るのか?」

「ん? あぁ、その予定だけど」

「そっか。ちなみに年末年始は実家か?」


 夏は実家に杏里と帰った。

しかし、今年の年末年始は実家に帰ることができない。

父さんも母さんも町内会の旅行で実家は空っぽになるのだ。

実家に帰っても杏里と二人きりだったら、別に行く必要ないしな。


「んー、多分今年は帰らないな。杏里と一緒に家にいると思うよ」

「……。そっか、わかった」


 少し高山は口角を上げ不自然な笑みを浮かべている。

こないだも少し様子がおかしかったが、何かあったのだろううか?


「天童さん、ちょっといいかな?」


 高山の陰からひょっこりと杉本が顔を出してきた。

今日はいつもと同じメガネにおさげ姿だ。


「ん? いいけど、何かあったの?」

「えっとね、杏里にも相談したんだけど、井上さんと遠藤さんも誘って、冬休みの期間、天童さんのお家で一緒に勉強会とかできないかな?」

「勉強会?」

「そうそう。私と高山君。それに天童さんも少し成績落ちたでしょ? 多分勉強の時間が少ないと思うの。どうかな?」


 うーん。クリスマスは絶対に嫌だし、年末年始もできれば杏里と過ごしたいかなー。とか。

しかし、本業は学生。落ちた分の成績は何とかしなければならない。

だが、遠藤と井上は俺たちが一緒に住んでいることをまだ知らない。


 そう、まだ知らないんだよな……。


「杏里、どうしようか?」


 隣にいた杏里に声をかける。

帰り支度も終わったようで、俺の隣まで歩み寄ってきた。


「私はあの二人には話してもいいかなって思っているけど。それに、井上さんも遠藤さんも今回成績落としていないしね」


 杏里の視線が痛い。

俺と同じような生活時間でも、杏里はしっかりと首位をキープ。

それに、この先ずっと俺と杏里の事を隠して過ごすわけにもいかないかな?

いずれどこかでみんなには知られてしまうだろう。


 だったら、あの二人にだったら俺達から先に話したい。

あの二人なら、他言はしないと思うし、それに一緒に過ごしてきた時間も長い。

きっと、あの二人なら信じてもいいだろう。


「よし、じゃぁ冬休みにみんなで集まろうか」

「っしゃ! さすが天童!」

「やった! ありがとう! 今から楽しみだねっ」


 なぜか高山がと杉本が喜んでいる。

そうか、成績って重要だもんな。


 杏里の方に視線を向けると、微笑んでいる。

一緒に過ごす仲間が増えて嬉しいのかな?


「ただし! クリスマスはなしだからな!」

「わかってるって! その日は俺達だって忙しいもんな」


 高山が杉本の肩を抱き寄せる。

おおぅ、なんだずいぶんと大胆に。

 

「うんっ、一緒に出掛けるんだもんね」


 杉本も少し照れているが、まんざらでもない。

この二人、なんだかんだ言って仲良いよね。

しかも、最近やたらと仲がいいし、二人の距離が近くなっている気がする。


「じゃ、日程決まったら連絡するよ。遠藤たちは俺から――」


 と、話そうとした瞬間。


「あーの二人には、俺達から一報入れるから!」

「そうそう、大丈夫! 私たちが連絡するから!」


 はてな。なんだ、この焦りよう。

ただ連絡するだけなのに。ま、いいか。


「じゃ、また連絡待ってるぜ!」


 そう言い残し、あの二人はそそくさ帰ってしまった。

どれ、俺も杏里と帰ろうかなー。


「杏里はこの後すぐに帰る?」

「うーん、少しだけ街に行かない? クリスマス用品少し買いたいの」

「おっけー。じゃ、行きますか」

「うんっ」


 杏里と一緒に放課後デート。

少しバッグは重いけど、初めて過ごす二人のクリスマス。

一緒に手をつないで、ただ歩くだけでも感じる幸せ。


 二人で初めて過ごすクリスマスは、一度しかない。

だったら、記念になるように、よい思い出になるように準備したい。


「司君、どっちがいいかな?」


 杏里の手に握られたシャンパングラス。

正直何が違うかよくわからない。


 でも、一生懸命選んでいる杏里はかわいいと思う。

だったら俺も一緒に選んで、杏里と気持ちを通わせたい。


「そうだな、こっちの方がかわいいかな?」

「やっぱりそう思う? よし、じゃぁこれを二つ買おうか」

「おっけー。他には?」


 杏里のマル秘手帳が開かれる。


「えっとね、グラスはこれに決まったし。あとは……」


 手帳には細かい字でいろいろと書き込みが。

え? それ全部今日買うの? 多すぎでは?


「あ、これ全部買わないよ。足りないものを買い足すだけだからね?」

「お、おぅ。そっか、安心した」


 杏里に読まれる心の内。

これって、俺の事をよく理解してくれているってことだよね。


「杏里」

「ん? どうしたの?」

「帰りにクレープ食べて帰ろうか?」


 杏里が微笑む。

少し頬を赤くし、優しい目を俺に向けてくれる。

そして、腕にからまれ――


「うんっ。私の事を良くご存じで」


 俺も杏里の事を理解している方だと思う。

でも、俺はまだ杏里のすべてを知らない。

これから、長い時間をかけて、杏里の事をもっと、今よりももっと知りたい。


 それだけ、杏里の事が好きだから。


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