第340話 クリスマスの準備


 高山から水族館のチケットをもらい、心躍りながら帰路につく。

途中、廊下ですれ違った浮島先生はなぜか笑顔で保健室に入っていった。


 そんなことよりも俺は忙しい。

二学期の試験も近いが、クリスマスの準備を行わなければ。

お互いに準備するものもあるということで、朝は一緒に登校するが、帰りは別々になる事も多かった。


 家に戻るとやはり杏里はまだ帰っていない。

どれ、今のうちに準備しておこうかな。


 二階の封印部屋に行き、ごそごそとあさる。

確かここにしまっておいたはず……。


 しばらく捜索し、お目当ての物を発掘。

案の定ほこりをかぶっている。

廊下から玄関へ、そしてそのまま箱を抱きかかえ外に行く。


 箱に積もったほこりも風に飛ばされ、少しだけきれいになった。

そのあとは雑巾で箱をふき、玄関に置く。

続きはどうしようかな、杏里と一緒にしたいんだよな。


――ガララララ


 玄関の開く音。

杏里が帰ってきた。


「おかえり、早かったね」

「ただいま。彩音の買い物が思ったより早く終わったの」


 杏里の視線が箱に移る。


「これ? よかったら一緒にする?」

「うんっ。楽しみだね」


 杏里が部屋着に着替え、リビングにやってきた。

俺は箱を玄関から移動し、準備完了。


「さて、開けますか」


 箱を開けると折りたたまれたモミの木。

それにイルミネーションや色とりどりのボールなどが入っている。


「結構大きいね」

「んー、二メーターくらいかな?」


 杏里と一緒にクリスマスツリーを組み立てていく。

部屋には杏里の準備したクリスマスソングが流れている。


 彼女と一緒にツリーを組み立てる。

それだけなのにウキウキしてしまう。


 金色のモジャモジャを上の方から取り付け、カラーボールをつけていく。

白のモフモフも乗せていき、だんだんとツリーっぽくなってきた。


「フフフフフーンッ」


 杏里が鼻歌を歌いながら飾りつけしていく。

それだけで俺も楽しくなってきた。


「杏里、そろそろ星をつけようか」

「うんっ。司君、脚立抑えててね」


 杏里が脚立に乗り、ツリーの一番上に星を乗せる。


「できた。どう? 傾いてないかな? きゃっ!」


 杏里が少し足の位置をずらした途端、脚立から足を踏み外した。


「危ない!」


 デジャブ。

いつか、杏里が脚立から落ちた記憶がフラッシュバッグする。

あれ? そんなことあたっけ?


 背中からゆっくりと落ちていく杏里を俺はしっかりと受け止めることができた。

両手に杏里の体重がのってくる、思ったよりも重い!


 顔はクールにしているが、内心根性マックス。

両足で踏ん張り、両腕は杏里の膝裏と背中を支えている。


「大丈夫か?」


 笑顔で杏里に声をかける。

遠藤もびっくり、さわやかスマイルを演出してみた。


「う、うん。ありがとう。もぅ大丈夫だよ」


 杏里の頬が徐々に赤くなっていく。

ふっ、杏里のやつめ、恥ずかしがっているのか?


「ケガ、ないか?」

「うん。大丈夫……」


 杏里の潤んだ瞳が俺を見てくる。

今の俺は結構いけてるんじゃ?


「司君……」

「どうしたの?」

「司君の顔……」


 俺の顔? 何? イケてるって?

いやー、そうですよね。今の俺はイケてるよね!


「俺の顔が、どうかしたのか?」

「顔真っ赤だよ。すごく頑張ってくれてるのはわかるけど、私重いよね?」

「杏里が重い? そんなことないよ、ほら」


 杏里をお姫様抱っこした状態でソファーに移動し、そっとおろす。

内心プハーって感じだが、表情はクールを維持する。


「ほら、大丈夫だろ?」

「ありがと。また、助けてもらっちゃったね」

「そこは、お互い様。この先もずっと一緒にいるんだ。助け合わないとね」

「ふふ、そうだね。ツリー、完成したね」


 二人で見上げるツリーは、思ったよりも大きくきれいにできた。

電源を入れ、イルミネーションに光をともす。


「部屋の電気消しても?」


 杏里が無言でうなずく。


 真っ暗な部屋で光るツリーを見る。

杏里の隣に座って一緒に出来上がったツリーを見る。

俺の肩に杏里の頬が、そして俺の腕に杏里の腕が絡んでくる。


「クリスマス、楽しみだね。司君と二人っきりのクリスマス……」

「楽しみだね。杏里と一緒に過ごすクリスマス、早く来ないかな」

「ケーキ、どうしようか?」

「というと?」

「買う? それとも家で一緒に作ってみたりする?」


 杏里と一緒に作るケーキも楽しそうだな。


「一緒に作ろうか。杏里と一緒に沢山思い出を作っていきたい」

「司君……」


 真っ暗な部屋に浮かび上がるツリー。

色とりどりのイルミネーションが光る中、そっと唇が重なる。


「もちろんイチゴたっぷりのケーキにしような」

「うん。司君、大好きっ」


 満面の笑顔は俺に向けられたものなのか、それともイチゴケーキを思い浮かべたからなのか。

きっと杏里はその両方なんだろう。

杏里の肩を寄せ、彼女のぬくもりを感じながら出来上がったツリーをしばらく眺めていた。

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