第330話 深夜の看病

 

 夜中、ふと目が覚める。

何だか布団が熱いな。


 隣で寝ている杏里に目を向けると、ぐったりしている。

すごい汗だ。息遣いも荒く、何だか苦しそう。

おでこに手を当てると、温かくなったヒンヤリシート。

まだ熱が下がらないのか……。


 目を閉じ、少し苦しそうに寝ている杏里を見ると、何だか俺も心苦しい。

俺が移しちゃったんだもんな……。

杏里を起こさない様に、布団から出て新しいヒンヤリシートを持ってくる。


「杏里……」


 新しいヒンヤリシートに変えて、少し様子を見る。

薬は飲んでいるから、大丈夫だとは思うけど……。

それでもやっぱり心配なものは心配だ。


「……ん、司君?」


 杏里の目が薄らと開く。


「ごめん、起こしちゃったか」


「大丈夫。司君、熱は?」


「俺か? 俺はもう大丈夫だよ。おかげさまで良くなった」


「そっか、良かった……」


 まだ顔が赤い、杏里は熱があるだろう。

そんな中で、俺の事を先に心配するなんて……。

杏里の頬をそっとなでる。


「早く良くなるといいな」


「直ぐに良くなるよ。あのね、ちょっとお願いがあるんだけど……」


 ゆっくりと体を起こす杏里。

なんだろ? 何か飲みたいのかな?


「どうした? 何か飲むか?」


「体がべたつくから着替えたいんだけど……」


「そっか、悪い。着替え終わったら呼んでくれ。隣にいるから」


 まー、俺がいたら着替えにくいよね。

ごめんね。


「ち、違うの。体、拭いてもらえたら嬉しいなって……」


 ……俺が、杏里の体を拭く?

確かに、俺は杏里に拭いてもらったけど、そのお返しって事か?


「いいよ、ちょっと待っててね」


 俺は桶にぬるま湯とタオルを準備し、杏里の新しい着替えを持ってくる。

これで良いかな?


「着替え、これでいいか?」


「うん、ありがとう。できれば、電気消してほしいな……」


「あ、ごめん。今消すね」


 ベッドの隣にあるライトを消し、部屋には常夜灯だけが薄らと光っている。

ゆっくりとパジャマを脱いだ杏里は少し恥ずかしそうだ。


「拭くよ?」


「うん」


 俺はなるべく杏里の体を注視しないように心掛け、体を拭く。

少し汗ばんでいる、結構汗かいたんだな。


「っん……」


 杏里の声が聞こえた。

何を動揺している? 動揺しちゃダメだろ?

しかし、杏里の体は細い。こう、全体的にスレンダーと言うか、女性らしいというか……。

……いかんいかん、もっと真剣に看病しなくちゃ。


 体を拭き終わり、新しいパジャマに着替える杏里。

目の前で着替えている杏里を見ると、何だかドキドキする。


「ありがと、さっぱりしたよ」


「どういたしまして。もう寝る? それとも何か飲むか?」


「飲む」


 俺はテーブルに置いてあったドリンクを杏里に渡し、さっきまで杏里が着ていた服をまとめて洗いカゴに持って行った。

汗を吸い込んだパジャマは重く、よっぽど熱を出してたことを知る。


 ベッドに戻ると杏里は布団にくるまって寝ていた。

よっぽど具合が悪いみたいだ。大丈夫かな……。


 俺も布団にもぐりこみ、杏里の隣で寝る。

俺に抱き着いてきた杏里はまだ熱い。


「大丈夫か?」


「うん。司君が一緒にいてくれるから、大丈夫」


「ごめんな、俺が杏里に移しちゃったから……」


「そんな事無いよ。でも、一緒に寝ても私から司君には移らないし、もう少し抱き着いてもいいかな?」


「寒いのか?」


「……うん」


 俺は杏里を抱きしめ、杏里を温める。

俺の腕の中で眠る杏里は、少し震えている。

寒いのかな? まだ熱が上がるのか?


「朝まで一緒にいるから、早く元気になろうな」


「ありがとう。我儘でごめんね」


 そんな彼女を抱きしめ、俺も眠る事にする。

好きな彼女を抱きながら、早く良くなる事を祈りながら……。

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