第331話 クリスマスの予定


 毎朝一緒に起き、早朝の走り込みも少しつらくなる。

吐きだす息が白くなり、季節は冬になった。

一緒にご飯を食べ、いつもと同じように学校に出発しようとしている。


「すっかり寒くなったね」


「もう十二月だしな。そろそろ学校に行くか?」


「んー、もう少しだけ……」


 リビングに設置したコタツにもぐりこみ、杏里はなかなか出てこない。

確かにコタツの魔力はとてつもなく高く、一度飲み込んだ者を中々逃しはしない。

何と卑劣で強力な魔力なんだ……。


「いや、そろそろ行かないと遅刻するぞ?」


「んにゅー、あと五分だけ……」


 お互いに風邪を引いてしまったが、その後すっかり良くなり体力も戻った。

しかし、学校には行かなければならない。


 俺は杏里を後ろから抱きしめ、無理矢理コタツの魔力から解放しようと試みる。

俺だってまだコタツに入っていたい。

だがしかし、俺達は行かなければならないのだ。


「おりゃぁ!」


「あんっ、そんな無理矢理引っ張らないでっ」


 杏里の口から変な声が出てきた。

ずるずるとこたつから引き離される杏里。


「ほら、コタツの電源も切ったんだし、早く行こう」


「うぅ……、さよならコタツさん。また後でね……」


 少し悲しそうな表情の杏里はバッグを肩にかけ、玄関に向かって歩き出す。

そんな悲しそうな顔しないでくださいよ。俺が悪いみたいじゃないですか。

そして、俺達はコートに袖を通し、玄関を後にする。


 なんだかんだ言っても冬は寒い。

当たり前だが、しょうがない。


 学校に着くといつものメンバーが集まっている。


「お、やっと来たな! おはよっす!」


 今朝も元気な高山。

そして、その隣に杉本もいる。

いつもと同じ風景に、なんだかほっとする俺がいる。


「おはよ。今日は少し冷えるな」


「だな。ところで、お二人さん今年はどうするの?」


 今年? 何の話だ? あー、あれか。


「今年って、クリスマスの事か?」


「そう、クリスマス! 彩音と初めてのクリスマスなんだ、ちょっと二人で出かけようかと思ってさ」


 あー、あれですね。

さて、今の所特に予定も立ててないけど、どうしようかな。

きっと高山の事だから何かしら計画してるんだろうな。

もしかしたら高級レストランを予約しているのかもしれない。


「もし、みんなが予定無ければ集まってパーティーでもって思ったけど、杏里は何か予定立ててた?」


 ふと、杏里の方に視線を移す。

何となく杏里の言いたいことが伝わってきた。


「えっと、クリスマスは司君と過ごそうかなって……」


 ん? そんな話していたっけ?

まぁ俺も杏里と二人で過ごしたいし、特に異論はありません!


「そうそう。今年のクリスマスは杏里と二人で過ごそうと思ってたよ」


「そっか、天童も二人っきりでイヴを過ごしたいんだな」


 あー、まぁそうですね。

みんなでパーティーもいいけど、やっぱり二人で過ごしたい。


「じゃぁ、今年はそれぞれでクリスマスを過ごすって事で!」


 少しだけ高山のテンションが上がる。

俺もちょっとだけ嬉しい。だって、男の子ですもの。

彼女と二人で過ごしたいって思うのが普通だろ?


 そして迎えた放課後。

杏里と杉本、それに井上はみんなで先に帰るといい、すでにいなくなっている。

教室には男三人、なぜか寄り添うように集まっている。


「よく集まってくれた皆の者」


 高山からメッセが入り、なぜか俺と遠藤が招集された。


「高山君からメッセが来るなんて、何かあったのかい?」


「あぁ、緊急事態だ」


 なんだ? いったい何があったんだ? 


「二人共クリスマスをどう過ごすんだ? 天童と遠藤のプランを聞きたい」


「は? どういう意味だよ?」


 眉間にしわを寄せ、真剣に悩んでいるように見える高山。

まさかとは思うけど……。


「彩音と二人でクリスマスを過ごす! こう、ロマンチックに過ごしたい! そこで、二人の意見を聞きたい!」


「どうって……。遠藤は何か予定でも?」


「僕かい? 僕は優衣と買い物に行って、ご飯食べて、プレゼント交換する予定だけど?」


 高山が遠藤の隣に移動し、メモを取り始めた。


「ほうほう。で、どこに行くんだ? 何食べるんだ? プレゼントって何にしたんだ?」


 まさかのノープラン?

策士の称号を得て、探偵高山の名声はどこに消えた!


「高山? 何か考えてはいるんだろ?」


「いやー、いろいろ考えたらごちゃごちゃになってさ! バイトもしていたから予算もあるんだけど、何買っていいか悩んじゃって!」


「ちなみに何買おうとしたんだ?」


「あー、初めの予定だとこれかな?」


 高山のスマホに映った画像を見る。

……絶対にやめておけ!


「なんでサンタクロースの服なんだ?」


「いや、クリスマスっぽい服がいいかなって……」


「高山君、センスがないよ。彼女の欲しい物とか探りを入れてないのかい?」


「……なんだろ? ちなみに井上さんの欲しい物って遠藤は知っているのか?」


「当たり前だろ。新しいジャージとシューズ、クリスマスの日に二人で買いに行くよ。二人でお揃いにしようかって」


 ペアジャージですか!

何ですかそれ! 二人で同じアイテムを贈り合うとか、リア充じゃないですか!


「いいなそれ……。俺も彩音とペアジャージ……」


「おいおい、遠藤と同じ内容にするなよ。自分で考えろ」


「お、おう。で、天童はどうするんだ?」


 俺か? あー、まずいな。何もまだ考えていない。


「考え中。まだ決まっていない」


「珍しいね。天童君はいつでも姫川さんの事を考えていそうだから、決まっていると思っていたよ」


 毎日考えているけど、クリスマスは特別な日。

杏里が喜ぶような何かをしたいし、あげたい。

何がいいんだろろうか……。

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