第329話 風邪
朝、ふと目が覚める。
何だか体がだるい。昨日までは何ともなかったのに、少し喉も痛い気がする。
隣で寝ているはずの杏里はすでにいなく、ぬくもりだけが残っていた。
先に起きたのか、俺も起きようかな……。
布団から出て台所に向かう。
何だかフラフラするな。
「おはよう。起きてたんだ」
「おはよ、何だか目が覚めちゃって。……司君、少し顔が赤いよ?」
顔が赤い? 俺はソファーに座り、少しだらける。
何だか歩くのも疲れる。
杏里が俺の目の前にやってきて、俺を覗き込んできた。
そして、杏里のおでこと俺のおでこがこんにちは。
朝から杏里の顔が近い……。
「熱いね……。ちょっと待ってて」
杏里は引き出しから何か持ってきて、俺に渡す。
あー、体温計か。
「熱計って。あと、何か温かい飲み物持って来るね」
熱を測るなんて久しぶりだ。
でも、なんで熱なんて出たんだろ。
しばらくすると杏里が戻ってきた。
「司君、これ飲んで。あと、これにくるまっててね」
手渡された毛布とホットミルク。
杏里の優しさを感じる。
――ピピピピピ
三十八度。熱あるやん。
「杏里、多分風邪ひいたかも」
俺は体温計を杏里に返し、ソファーに横になった。
「熱あるね。今日は学校休もうか」
「そうする。うーん、だるい」
杏里が隣に座ってくる。
そして、俺の頬を優しく撫でてくれた。
「どうしようかな、私も今日は学校休もうかな?」
いやいや、この位で学校休まないでくださいよ。
「俺は一人で大丈夫。杏里はちゃんと学校行けよ」
「……そう? なるべく早く帰って来るね。何か食べたい物ある?」
「いや、特に無い」
少しだけ杏里と話をしてホットミルクを飲み、俺は寝ることにした。
ソファーから起きる時、杏里の肩を借りたけど、杏里の肩は細い。
そして、朝から杏里はいい匂いがする。いいなー女の子って。
「ちゃんと寝ててね」
「おう」
俺を残し、杏里は学校に行ってしまった。
うーん、何だかちょっと寂しいけどしょうがないな。
布団にもぐりこみ一眠り。
杏里の用意してくれたおかゆはお昼にでも食べよっと。
――
体が熱い、そして頭も痛い。
俺は一人でこのまま死んでしまうのか?
せめて、最後に杏里の顔を見たかった……。
布団で唸っていると、おでこに冷たい何かがくっ付いてきた。
あー気持ちいい、ヒンヤリする。
ゆっくり目を開けると天使がいる。
優しい目をした天使の微笑みを俺に向けている。
そうか、ついに俺も天に召されたのか。
しかし、よく見るとその天使は高校の制服を着ている。
……あれ? 天使も学校があるのか?
と、冗談はこの位にして。
俺は一体どれくらい寝ていたんだろうか?
「杏里、今何時?」
「ごめん、起こしちゃったね。今はお昼過ぎ位かな」
ん? お昼過ぎって事はまだ学校あるんじゃ?
「帰ってきたのか?」
「……うん、心配で。早退しちゃった」
「それはありがたいけど、勉強遅れるぞ?」
「大丈夫。これでも学年一位。すぐに取り戻せるし、それよりも司君の方が心配だよ」
優しいですね。その優しさがすごく嬉しいよ。
「ありがと。移ると悪いから早く部屋から出て行った方がいいぞ」
「うん。でも、汗びっしょりだよ。着替えようか」
杏里はすでに着替えを準備しており、隣のテーブルには桶とタオルまで用意している。
ヒンヤリシートもそうだけど、出来た嫁ですね。
「悪いな」
俺は杏里に手伝ってもらい、上半身裸になりタオルで拭いてもらった。
心なしか杏里の頬が赤いような気がする。杏里も熱が出てきたのか?
杏里に背中を拭いてもらう。
あーん、気持ちい。でも、寒い……。
腰より下は一人でささっと拭いて、用意してくれた新しいジャージに着替える。
はー、さっぱり。
「何かあったらすぐに連絡してね。今日一日はリビングにいるから」
「分かった。ごめんな」
「気にしないで。病気になった時はお互い様」
笑顔で去っていく杏里。
一人暮らしだったら大変だけど、こんな時は一緒に暮らしていて本当にありがたい。
俺はさっぱりしたし、安心して眠る事ができる。
夜には杏里が作ってくれたおかゆをいただき、温かい味噌汁もいただく。
すっかりと料理上手になりましたね。
「少しは良くなった?」
「おう、少し熱も引いたし、食欲も出てきた」
「良かった。たくさん食べて、早く良くなってね」
茶碗に山盛りおかゆ。真ん中には梅干しが鎮座している。
ちょっと多いかな?
「杏里?」
「ん? まだまだ鍋一杯にあるから、安心して沢山食べてねっ」
微笑む彼女は俺と一緒におかゆを食べる。
大鍋に用意されたおかゆはしばらくもつだろう。
「ありがとな。大変じゃないか?」
「ぜんぜん大丈夫だよ。そんな心配しないでゆっくりしてね」
杏里の優しさが入ったおかゆをいただき、俺は再びベッドにもぐりこんだ。
うーん、少し寒いな。でも、早く寝ないと……。
布団で少し眠り、ふと目が覚める。
どれくらい時間が経過しただろうか。
すっかりと暗くなっているから、もう深夜なのかな?
扉の開く音が聞こえる。
杏里かな?
――バサァァ
布団が一枚追加された。
「杏里?」
「今日は少し冷えるかも。私のお布団持ってきたから使って」
「え? だってそれじゃ杏里が……」
「大丈夫。私も一緒に寝るから。二人で寝た方が温かいでしょ?」
いやいや、風邪移りますよ。
「布団はいいよ、この部屋にいない方がいいと思うけど?」
「マスクしているし、大丈夫。もし、私も風邪ひいたら司君に看病してもらえるしねっ」
二人同時に寝込んだらどうするんだろう、と言う思いもありますが、ここは好意に甘えたい。
「移したらごめんな」
「移らない様に極力努力します」
布団にもぐりこんできた杏里の温もりを感じながら一緒に寝る。
さっきまで少し寒かったけど、今は温かい。
杏里に抱き着かれながら、俺は眠る事にする。
「司君、早く元気になってね」
「おう。明日には元気になってるさ」
頬に彼女の温かさを感じ、俺は夢の世界に再び旅立つ。
――
そして、翌日。
俺は手元のスマホを操作し、学校に電話をする。
「もしもし、浮島先生ですか?」
『はい、浮島です。天童君?』
「すいません、俺と姫川さん風邪で今日休みます」
『あらあら、二人共風邪? 気を付けないとダメよ。しっかりと休んでくださいね』
「分かりました」
俺もまだ全快じゃない。
でも、杏里も熱が出てしまった。
「ごめんね……」
「しょうがない。こんな時はお互いにサポートしないとね」
布団に二人で包まり、体を休める。
結局二人で風邪を引いてしまった。
でも、少し元気になった俺が杏里を看病してあげないとね。
「おかゆ、食べるか?」
「後で食べる。もう少し、一緒に寝よ……」
わがままなんだからっ。
沢山食べて、体力付けないと!
「じゃ、寝るか」
「うん……」
今度はサボではない。
杏里と二人お布団で眠る。
お互いの温もりを感じながら……。
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