第319話 もう一つの大事件
放課後、俺達六人と各部長陣が集まる。
会長と先生もおり、報告会が始まった。
「それでは今から報告会を始めます!」
俺達からは実際に来場してくれた人数の報告や来場者からのメッセージを発表。
各部に宛てられたメッセージを部ごとに伝えていく。
特に手芸部や料理研究部の評価が高く、お褒めの言葉を多くいただいた。
そして、演劇部や吹奏楽部の演出、余興に対してもありがたい言葉が多かった。
各部も今回の大きなイベントを経験し、反省点として何点かあげられる。
はやりスケジュールの管理や進捗確認、そして各部の連携がもっとうまくいけばと声が上がる。
「今回は例年よりも大きなイベントが行われました。皆さんがそれぞれ力を発揮できたと思います。来年の文化祭はどうなるかは現時点で未定ですが、今回の経験を活かし――」
浮島先生のお言葉もいただき、報告会が終わろうとしていた。
しかし、みんなの視線は先生ではなく杏里に集中している。
このまま何の報告もなく、終わらせるのは流石に無理だろう。
「では、最後に姫川さんから一言いただきましょうか」
その場の雰囲気を察してくれたのだろうか、先生が杏里に話を振ってきた。
「皆さんのおかげで、多くの方に見てもらう事が出来、予想していたよりも多くの方が来場してくれました。テレビ局からも依頼があり、収録もされています。どの様に放映されるのか、楽しみですね――」
淡々と話す杏里。
でも、みんなの聞きたいことはそうではない、と告げている。
「――最後に、皆さんに報告があります。文化祭の最後、少し事故がありました。私も注意していれば良かったのですが、皆さんの見て分かる通り、髪が短くなってしまいました。でも、怪我はないので、安心して下さいね」
一生懸命笑顔を作っている。
みんなほっとしているようだが、真相を知ってる会長は目つきが怖い。
さっきからずっとこっちを、特に俺を睨んでいる。
会長が手を挙げる。
「質問、いいか?」
「はい」
「事件ではなく、あくまで事故。その件についてはこの場の報告を持って終わりになるのですか?」
会長は真実を知っている。
そして、遠まわしに詳細を話せと言っているのだろう。
「……はい。事故です、でも怪我はないので大丈夫ですよ」
「そうですか。姫がそれでいいのであれば、俺からは何も言わない」
「ありがとうございます。では、今年の文化祭はこれで終わりですね。本当にありがとうございました。もし、来年も何か大きなイベントがある様であれば、皆さんと一緒に頑張りたいですね」
俺達も立ち上がり、みんなに向かって一礼する。
「「ありがとうございました」」
みんなから大きな拍手をもらい本当の意味で文化祭の全てが終わった。
そして、会議室には俺達六人と会長だけが残る。
「姫、本当にいいのか?」
「はい。わざわざこの場でみんなに話す必要はないと思います。彼もきっと自宅で反省していると思いますよ」
「そうか……。わかった、最後にこれを」
会長が杏里に一枚の紙袋を手渡す。
「これは?」
「後で開けてくれ」
そう話すと会長は振り返り、会議室を出ていこうとする。
「会長――」
会長が振り返る。
「天童、俺はもう会長じゃない。会長は昨日で終わりだ。今日からただの塚本栄治だ」
そうか。ファンクラブは文化祭の日で解散だったんだな。
「分かりました。塚本先輩、色々とお世話になりました。ありがとうございました」
片手を挙げ、俺達の前から去っていく。
その背中は寂しさも感じるが、男を感じる背中だった。
「終わったね」
「終わったな。全部終わりだー!」
手を天井に向け、思いっきり背伸びをする。
「天童も遠藤もお疲れー! やっと終わったなー!」
「杏里、それで実際はどうなの!」
「そうだよ、姫川さんその髪、一体何があったというんだい?」
ですよね。そうなりますよね。
隠してもしようがないので簡潔にあった事を話す。
「……とりあえず、殴り込み行こうか?」
「いや、それでは問題になるだろう。カミソリでも自宅に送るかい?」
「ストーップ! しなくていい! 何もするな」
「天童さん、杏里の髪が犠牲になったのよ? 天童さんはそれでも、何もしなくていいの! 男として、杏里の夫として黙っていられるんですか!」
杉本が俺の両肩に手を乗せ、前後に揺らす。
頭も同時に揺れ、だんだん気持ち悪くなってくる。
夫とは言い過ぎかもしれないけど、それはそれでいいか。
「ちょ、まて、待ってくれ。一度落ち着いてくれ!」
息を切らしながら杉本は席に着く。
「みんな、色々あったけど、何もしなくていいの。彼がこれから変わってくれると思うから」
「もし、何かあったらまた俺が何とかするよ」
「そ、司君が守ってくれるって。だから、心配しなくてもいいし、何もしなくていいよ。ごめんね」
みんな納得はできていないが、杏里の言葉を信じる。
きっと、萩原も心を入れ替え、まっとうになってくれる事を祈る。
「でだ。今回のイベントで、もう一つ大事件が起きている」
「天童、何だ? もう一つ、大きな事件があるのか?」
みんな真剣な目で俺を見てくる。
今から、俺は問いたださなければならない。
「天童君、いったい何が……」
「いいか、よく聞いてほしい。俺達の中に、付き合い始めたやつがいる!」
――ババァーン!
姫川杏里。俺と前から付き合っているから除外。
美人、性格良し、学年トップクラスの学力。
まさに非の打ちどころが無い女の子。でも、食いしん坊でちょっと寂しがり屋。
――ババァーン!
高山勇樹。杉本と付き合っている。
だが思ったよりヘタレらしく、進んでいないらしい。
観察力があり、鋭い所を突いてくる。かなりの大食い。
――ババァーン!
杉本彩音。高山の彼女。学校とプライベートでは服装も雰囲気も違う。
今回のイベントで隠れ美人の称号を手にしたらしい。そして、何気にボインだ。
漫画を描いているらしく、夏のイベントではいい線だったらしい。
――ババァーン!
井上優衣。陸上部の一年。夏の大会では惜しくも胸の差で二位。
合宿で遠藤と猛練習し、タイムが伸び。今後に期待できる有望な選手だ。
なぜか一位にこだわる、何か理由があるのか? 万年二位ではダメらしい。
――ババァーン!
遠藤拓海。すっかり黒くなったイケメン。歯が白く歯並びもいい。
成績優秀、スポーツ万能。女友達も多いらしい。
夏のバイトで井上と共に行動することが多くなった。
――ババァーン!
俺、天童司。杏里の彼氏であり、未来の夫である。
スポーツ、勉強、見た目、料理の腕、全体的に平均値以上だと信じている。
ちょっと天然が入っているが、最近そうでもない。
「天童? 何か変な効果音が聞こえた気がしたんだけど?」
さすが高山、勘が鋭い。
「そんな音聞こえなかった。さ、この中にニューカップルがいる!」
井上と遠藤。
二人の視線が俺の視線と交差する。
「司君、もしかして……」
杏里さん、良い勘してますね。
そうなんです、私見たんです!
「えっと……」
井上が頬を赤くし、遠藤を見ている。
そして、意を決したのか遠藤の口がゆっくりと開いていく。
「みんなにも話しておいた方がいいね。優衣、話してもいいだろ?」
おーっと! 名前で呼んだぁー!
何? 遠藤さん、そんな感じなんですか!
無言で頷く井上。なにその可愛い仕草。
初めて会った時のツーンとした雰囲気、消えてますよ!
あの吊り目はどこに行ったんですか!
遠藤が井上の手に自分の手を重ね、ゆっくりと口を開く。
何、その甘い雰囲気。おーい、誰かブラックコーヒー持ってきてー!
「昨日、優衣に告白された。ずっと私の側にいてほしいって」
「うぉぉぉぉぉ! おめでとう! やっとかよ! コノヤロー、散々じらしやがって!」
高山のグーパンが遠藤の鳩尾に入る。
「ぐほぅ……。た、かやま君、少しは手加減を……」
「このこのこのー!」
高山の連続パンチ。
遠藤はそれなりのダメージが蓄積されていく。
「井上さん、おめでとう! 良かったね!」
杉本も井上の手を取り、笑顔で喜んでいる。
「井上さん、遠藤さん、良かったね。おめでとう」
杏里も笑顔で二人を祝福している。
「で、で、で? いつから? なんで昨日告ったの? どんな雰囲気で、どこで告白したのー!」
高山のテンションがおかしい。
誰かそろそろ止めてくれ。
「高山、落ち着け。そんなに一気に聞いたら相手が困るだろ?」
肩で息をし、はぁはぁしている高山はちょっとおかしい。
どうどうどう……。
「拓海、私から話すよ。いいかな?」
おーとっ! 拓海ですって!
奥さん聞きました!
昨日まで『遠藤君』だったのが一夜にして『拓海』。
これが、交際パワーなのか……。
文化祭も終わり、報告会も終わった秋。
会議室に吹き入る風は、少し肌寒く感じる。
茜色に染まった空、綺麗なうろこ雲が風に流されていく。
そして、井上の口から事のいきさつが語られ始める。
「実は、夏の頃から――」
「ちょーとまったぁ! 俺、ジュース買ってくる。長くなるだろ! あ、みんなのも買って来るか?」
さすが高山。
その場を一気にぶち壊す。
確かに話は長くなると思うけどさ……。
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