第257話  最終日の過ごし方


 今日は夏休みの最終日。

俺達は何とかギリギリで課題をまとめることができた。

夏休みの最終日は、各自自由行動となり、学校の準備をしたり、部屋の掃除をしたりと割と忙しい。


 課題はとりあえず俺が全部まとめて提出することになり、全員分を既に回収済みだ。

高山と杉本も晴れた顔をして帰って行った。

課題のためとはいえ、またみんなで二日もお泊り会をしてしまった。

このまま俺の家が集まる場所に固定されてしまったらどうしよう。


 とりあえず、終わった。

今年の夏休みも何とか無事に終える事ができそうだ。

事故も病気もなく、みんな元気で始業式を迎えられそうだ。


 昨夜はなんだかんだで寝るのが遅かった。

最終日位昼まで寝ていても問題はないだろう。


――ガリガリガリガリガリ


 うるさいな……。朝からそんな機械音を出すなんて。


『はふぅー。やっぱりイチゴにかぎりますねっ』


 目覚ましのアラームが鳴る前に、台所から異音が。

自室の扉を開け、台所を覗くとラフな格好をした杏里が何か食べている。


「朝からなにしてるんだ?」


 振り返ると、口元がやや赤く、テーブルには赤いシロップがかかったかき氷が。

その量なんですか? マウンテンかき氷ですか?

ん? なんか同じ様な事がつい最近もあったような気が……。


「あ、起こしちゃった? ごめんね。司君も食べる?」


 今日も笑顔が眩しい杏里は、シャクシャクかき氷を食べている。


「おはよう。朝から随分山盛りなかき氷だな」


「今日で夏休みが終わってしまうかと思うと、少し名残惜しくて」


 今年もすっかりお世話になったかき氷器。

来年もお世話になる事間違いなしだな。


「俺も少し貰おうかな」


「はいよっ。イチゴでいいかい?」


 杏里が屋台のオッチャンのように声を出して作ってくれた。

もし、杏里が屋台にいたら俺はその店のファンになるだろう。


「サンキュ」


 んー、冷たい。

朝一での氷は頭にキーンと来るね!

と、そんな事を考えていると杏里が俺の方を覗いてくる。


「おいしい?」


「ん? うまいけど?」


「そっか。それはそれは……」


 多分特に意味はないんだよね?

杏里の隣に座ってかき氷を食べていると、杏里がズリズリと俺に近寄ってきた。


 そして、気が付くとお互いの腕がふれ、杏里の頬が俺の肩に乗っている。

杏里の少し冷たくなった手が俺の手と重なり、その冷たさを感じる。


「どうしたの?」


 杏里に声をかけてみる。


「何でもない。何だか、こうしたい気分なの」


 悪くない。

むしろ、俺もそんな気分だ。

俺達は朝から何をしているかって?

夏休みの最終日位、二人っきりでマッタリしてもいいじゃないですか。


「司君」


 杏里の方に目を向けると、目を閉じて口を開いている。

あー、あれですか。ま、たまにはいいか。


 スプーンでかき氷をひょいっと杏里の口に放り込む。


「んっ、冷たい。今度は私ね」


 俺も口を開けて、杏里からのお礼を貰う。

口にイチゴの味が広がり、同時に冷たさも広がった。


「んー、うまい。杏里が食べさせてくれると、いつもよりおいしく感じるな」


 杏里の笑顔を見ながら、お互いに触れながら好きなかき氷を食べる。

そんな朝を迎え、お互いに明日の準備を始める。


 また明日から学校が始まる。

バイトもまたシフトの本数が増え、いつもの生活に戻る。

杏里と過ごした夏休み。

色々あったけど、十分に楽しんだ。杏里はどうだったんだろ。

もっとなにかしたい事とかあったのかな?


 夕飯も終え、お風呂に入り、あとは寝るだけになった。

寝るにはまだ少し早いかな?


「杏里はどうする? もう寝るか?」


 杏里に髪の毛を乾かしてもらいながらちょっと聞いてみた。


「どうしようかな。まだ少し早いよね」


「そうだな」


 しかし、髪の毛を乾かしてもらうのが気持ちいいな。

このままソファーに横になって、寝てしまいそうだ。


「いい茶葉があるんだけど、少し飲む?」


「紅茶か? ではご一緒しましょうか」


 杏里とドライヤー係を交代し、今度は俺が杏里の髪の毛を乾かす。

相変わらず長い。そして、きれいな髪だ。

毎日大変なんだろうな、ケアするのも。


 俺の三倍以上の時間をかけ、やっと乾く。

でも、このきれいな髪の為なら俺はいつでも頑張れる!


 杏里が髪を束ね、台所に行く。

そして、お湯を沸かし始めた。


「よし、確か母さんからもらったお土産の中に最中があったな。食べるか?」


「良いですね。食べましょうか」


 こうしていると、もうずいぶん長く一緒に生活をしてきたかと錯覚してしまう。

いて当たり前、いなくなると不安になる。

でも、別に結婚しているわけではなく、付き合っているだけだ。


 一緒に住んでいるから同棲になるのだろうか?

下宿だとそのあたりが良くわからない。

でも、一緒にご飯食べて、お風呂入って、同じ屋根の下で生活して。

もしかして、結婚してもこんな生活なのかな?


 仮に、結婚しても変わらないのであれば、別にこのままでもいいんじゃないのか?

色々な事が、頭の中を過る。


 結婚。一体何の為にするんだ?

もしかして、俺は何か見落としているんじゃ……。


――ピーーーーー


 ヤカンの笛が鳴る。

杏里がポットに紅茶の葉を入れ、お湯を注ぐ。

ポットの中では葉が踊るように回っている。


 次第に透明から茶色く色がつきはじめた。

俺も紙袋から最中を取り出し、小皿に分ける。


「司君とこうしてお茶するの、何回目だろうね」


「いやー、数えてないから分からないな」


 実際問題何回目何だろうか。

百回は超えたのかな?


「二人でゆっくりとお茶飲んで、お話しするの私好きだよ」


「俺もだよ。ゆっくりと話ができるし、お茶もうまいしね」


 俺と杏里のカップに紅茶が注がれる。

いい香りだ。


「こうして、同じ時間を共有して、話をして、お互いを知っていく。素敵な事だと思うの」


「電話とかは?」


「んー、やっぱり相手の表情を見て、その場の雰囲気を感じたいな。ほら、こうして手を握る事もできるしさ」


 俺の手に杏里の手が重なる。

確かに電話ではできない事だよね。


「そうだな。俺もどうせだったら電話じゃなくて、直接会って話したいかな」


「私ね、司君とお付き合い出来て良かったと思ってる。ありがとう」


 それはどういう意味なんだろうか。

俺だって杏里と付き合う事が出来て嬉しい。

きっとここから先だって、一緒に過ごす事が出来て良かったと思える自信がある。


「俺もだよ」


「また、明日から学校だね。よろしくお願いします」


「いえいえ、こちらこそ。これからもよろしくな」


 お互いに微笑み、お茶を飲みながらおやつを食べる。

そんな幸せな時間を過ごし、夏休みの最後の日は終わるのだった。

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