第256話 三つのパターン
「では、第三十五回目の打ち合わせを開始する……」
俺は今、テーブルの上に資料を展開させ、高山と杉本を自宅に召喚している。
「天童? 三十五回も打ち合わせてなんてしたか?」
突っ込みをありがとう。
「いや、そんなにしてないぞ。まぁ、ノリだ、ノリ」
杉本はテーブルに展開されている資料に目をやり、杏里はみんなのお茶と茶菓子を準備している。
昨夜は何とか二階ダンジョンの攻略を終わらせ、必要そうな資料はすでに昨夜のうちにまとめておいた。
式場から回収した資料、そして夜なべして調べたあれやこれ。
おまけに高山達からも回収した資料を展開。
ここにある資料、サンプル、データが課題の為に集められたその全てだ。
これをまとめる。あと少しだ。
「で、式場では美味い物でたのか?」
「あぁ、見た事もない食べ物が出てびっくりしたが、うまかったよ」
「そっか。それは良かったな。何か収穫は?」
「まぁ、あると言えばあるんだけどね……」
俺は少しだけどもってしまう。
「なぁ、高山は三百万あったらどうする?」
「三百万? んー、自由に使っていいのか?」
「まぁ、自由にだな」
ポクポクポクポク、チーン。
「貯金だな」
つまらん。まったく、高山らしくないな。
「貯金か? もっとパーッと欲しい物とか無いのか?」
「あるけど、進学とか、一人暮らしとか、免許とか。それこそ今回の課題にもある通り、式を挙げるための準備金。貯金はあった方がいい」
現実的だな。
「そっか。今回実際に式場に行って話を聞いたけど、学生時代の結婚はハードルが高い。主に資金面だ」
「具体的には?」
俺はもらったパンフレットを高山と杉本に見せ、昨夜調べたデータと合わせて情報開示する。
「まぁ、予想はしていたけど、結構な金額だよな」
「だね。高校生に百万とか、大学生に三百万とか厳しいよね」
隣で静かにお茶を飲んでいる杏里。
何か、打開策はあるのか?
「彩音はさ、もし費用が抑えられるなら式を挙げてもいいと思う?」
「そうだね、親に負担をあまりかけたく無いし、安くなるならしてみたいな」
杉本の視線が高山の方にゆっくりと動く。
そして、高山と杉本の視線が交差し、お互いに何か伝え合っている。
様な気がした。はい、目の前でラブコメ禁止です!
「この三百万を、どうやって抑えるか。そこが今回のもっとも問題になっている所だ」
「え? そんな簡単なところ?」
「え? 簡単?」
思いがけない高山からの回答。
もしかして、何かいい案でもあるのか?
「よし、高山参謀。そこの所、詳しく」
これは期待してしまう。
「簡単じゃないか。費用がかかるなら、かからなくすればいい。可能な限り自分たちで準備したら?」
「と言うと?」
「式場を使わない。出来るだけ自分たちで準備する。別にホームパーティー形式でもいいんじゃないか? 高級レストランとか貸切にして」
確かに披露宴にかかる費用は抑えられそうな気がする。
でもさ、高山わかってない! 女心をわかってないよ!
「ただ、教会はしっかりとした場所を確保。挙式の後に場所移動して、披露宴ぽいパーティーしたらいいんじゃ?」
「まぁ、それも一つの手段か……」
「杏里と杉本さんは?」
さすがに悩んでいる。
式は花嫁の晴れ舞台。
自分に置き換え、いろいろと考えているのだろう。
「二人で全部準備って難しいから、サポートしてくれる人がいれば何とかできるかな?」
「そうだね。でも、価格によっては自分たちで準備して、式場に全て持ち込んでもいいんじゃないかな? ほら、ドレスだって持ち込みできるって言っていたし」
確かに式場はある程度の基本プランはあるが、持ち込みもできるし、相談にも乗ってくれる。
もしかしたら基本プランよりも安くすることもできるんじゃ……。
「よし、そろそろまとめに入ろう」
集めた資料と高山参謀のアイデアを基にパターンを決める。
通常プラン。式場のパンフレットに乗っ取った普通のパターン。
持ち込み、相談パターン。自分たちで準備したものを可能な限り持ち込み、式場を使う。
そして、自分で準備するパターン。教会はしっかりとしたところで、その後にホームパーティー。
高山は通常パターン、俺は相談パターン。
杏里と杉本は自分で準備パターンをそれぞれが担当。
必要なときは情報を交換すると言う事で、それぞれが動き出した。
「杏里、杉本さん自分たちで準備出来ない物があったらピックアップしておいてね」
「了解っ」
「高山、普通のパターンだぞ、普通の」
「わかってるって! ちなみにゴンドラって普通か?」
「いらん! ゴンドラは却下」
「冗談だよ、冗談……」
少し心配だけど、まぁ行けるだろ。
昨日の今日だけど、俺は早速名刺を手に取り、黒金さんにアポを取る。
どうやら昼から夕方にかけて少し時間が取れるようなので、会いに行くことにした。
今度は俺一人で。
資料を片手に、可能な限り情報を持ち帰ろう。
杏里がいなくても、俺一人でしっかりとやらなければ!
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