第255話 ダンジョン『開かずの魔』


 五橋下宿、二階ダンジョン『開かずの魔』。

ここには古の時代より封印された数々のアイテムと共に、魔物の潜む場所。


 年代物の魔道具(かでんせいひん)から布を被った何か。

数々の宝箱(だんぼーる)には、俺達の望む宝が入っている様な気がする。


 そして、時折現れる凶悪なモンスターにも立ち向かわなければならない。

小型から中型までおり、八本足のスナイパー。

その糸に捕まったら最後、嫌な気分になる。


 時折隅っこの方で見かけるグレーの牙を持つ小型獣。

その姿を見ただけでひっくり返る青い狸がいる位だ。

奴の攻撃力も高い。遭遇率は低いが、きっとどこかに潜んでいるはず。

そして、俺達の隙を狙い、攻撃してくるだろう。


 そして、この下宿最大で最強のボス。

漆黒の鎧を身にまとい、防御力、素早さは最高峰。

さらに、飛翔能力まで保有する悪魔。奴の名は……。


「つ、司君!」


 杏里姫は俺の背中に隠れている。

ここは勇者である俺が前線に出るしかない。


「あったのか?」


「な、無いんだけど。あ、あそこ何か動いた気がする……」


 姫は俺の服を掴み、怯えている。

いいだろう、勇者の登場だ。良い所見せてやるぜ!


「このへんか?」


「う、うん。だ、大丈夫かな?」


 やや薄い暗い部屋の中で杏里と二人っきり。

そして、少しホコリっぽいけど、この密着具合。悪くないです。


「おりゃ!」


 杏里が指さしたところにかぶっていた布をめくってみる。

が、何もいない。


「何もいないぞ?」


「そ、そう? それならいいんだけど」


 まったく、杏里姫は臆病だな。

そんなに遭遇率は高くないから平気だって!


「ほら、大丈夫だろ? 早く探そう」


「う、うん……。ここにあるんだよね?」


「母さんの話なら、ここにあるはず」


 母さんが言っていた結婚式で使っていたアイテム。

絶対に捨ててはいない、この部屋にあるはずだ。

この布を被った大きなものは何だ?

布を一気にめくり、その中を覗いて見る。


「おぉ、こんなものまで……」


「何かあったの?」


「多分父さんが使っていたドラムだ」


 ホコリを被っているけど、きっとドラムだ。

こんな所にあったんだ。知らなかったな。

と、言う事はきっとこの近くにあるような気がする。


「杏里、このドラムセット近くの箱を探そう」


「うん」


 しばらく沈黙のまま箱を漁る。

下宿に住んでいた人達の物までここにあるから、変な物まである。

何だこの人形、それにおもちゃまで。残された紙を見てみると『六十年代』と書かれている。

こんな古いおもちゃゴミじゃないか。なんで取っておくんだ?


 しかし、見つからないな。こっちの箱かな?


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 杏里が俺に抱き着いてきた。

おいおい、こんな所でどうしたんだ?

あ、いい匂いが……。


「で、でた! 今度は間違いない!」


 杏里が少し震えながら俺をしっかりと抱きしめる。

俺もお返しにしっかりと抱きしめてあげる。


「今度は何だ?」


「黒いやつ……」


 黒か。もしあいつだったら厄介だな。


「杏里、俺の後ろに」


 姫を後退させ、俺が前線に出る。

武器はいつもと同じ聖剣(しんぶんし)で十分。

今の俺には、守るべき人がいる!


 受けてみよ、俺の聖剣を!

杏里の言っていた場所に向かって神速の攻撃。

この速さ、避けられまいっ!


 確かに、そこには黒い何かがいた。

チェストォォォォォ! と、心の中で叫ぶ。

俺は随分と男らしくなったもんだ。と、自画自賛。


 が、その黒いものは奴では無かった。


「杏里?」


「やった? やっつけた?」


 俺はその黒いものを手でつかみ杏里に見せる。


「いやぁぁぁ! な、なんで見せるの!」


「落ち着け、よく見ろ」


 俺の手には黒い布。蝶ネクタイだ。


「何それ?」


「蝶ネクタイ。ただ、丸まって転がってたから見間違ったのかもな」


 全く、杏里も臆病なんだからっ。

でも、そんなところも可愛いんだけどね。


「ご、ごめん」


「見間違ってもしょうがないよ。部屋、暗いしな」


 でも、蝶ネクタイがあるって事はその辺りにあるのかな?

再び捜索開始。


「あった。杏里、あったよ!」


 箱を開けるとアルバムっぽい物や封筒らしきものがぎっちり。

その隣には『ドレス一式』と書かれた貼り紙。


「良かった。早く回収して、部屋を出よう。ここで開けなくてもいいよね?」


 杏里が早々に脱出を試みている。

ま、ホコリっぽいし、暗いし。


「そうだね。それっぽい物を回収したら一度玄関に持って行って掃除でもするか」


「そうしよう。じゃ、私これ持っていくね」


 杏里は早速ひとつの箱を手に取り、部屋を出ていく。

やる気満々ですね。


「司君も早く! 出すだけ出したら早く扉閉めてね!」


「はいよー」


 見つかってよかった。これで課題も進める事ができる。

母さん、父さん、ありがとう!

内申点、期待しててくれ!

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