第253話 課題の再検討?


 杏里と歩くアーケード。

来る時よりも帰りの方がなぜか足が重い。

荷物が増えたからではない。


「司君」


「どうした?」


「ちょっとお茶してから帰らない?」


「いいよ。どこにする?」


「えっと、バイト先の喫茶店でいいかな?」


「俺はいいけど、杏里はそこでいいのか?」


「うん。社割があるし、たまには顔を出さないとね」


 セブンビーチのバイトが終わったあと、今日までの期間で三日しかバイトに行っていない。

実家に帰ったりしていたし、何かと俺も忙しい。

店長は気にしていないし、シフトも回っているようだし。


 なにより、リゾートバイトが思いのほかうまくいったようで、店長もご機嫌だった。


――カランコローン


「いらっしゃい……って、天童君に姫川さん。どうしたの? 今日シフト入っていたっけ?」


 声をかけてきたのは先輩。

店内を見渡すといつもより少し空いている。


「いえ、今日は休みです。ちょっとお茶でもしようかって」


「そっか、好きな席に座ってていいよ」


 俺と杏里は隅の方にあるテーブル席に移動する。


「オーダーは?」


「俺はいつもの」


「私もいつもので」


「かしこまりっ」


 俺も杏里も『いつもの』で通じるところが良い。

馴れた所だと落ち着くな。式場とは大違いだ。


「何か話でもあるのか?」


「えっと、ちょっと課題の事で」


 テーブルに広げられたパンフレット。

杏里の目がいつもより真剣だ。


「ここでか?」


「うん。できるだけ早い方がいいと思って」


「お待たせしま、した。コーヒーと紅茶、ここに置くね」


「ありがとうございます」


 先輩がオーダーを持ってきてくれたが、なぜか目が左右に泳いでいる。

何を慌てているんだろう?


「て、天童君?」


「はい?」


「それは?」


 先輩がパンフレットを指さす。


「これですか? 式場のパンフレット。今日もらってきたんですよ」


「そ、そっかー! そうなんだね! ははははっ!」


 先輩は慌ててカウンターに戻っていく。

忙しくなったのかな?


「司君、この費用って普通に考えたら出てこないよね?」


「出ないだろうな」


「ここだけの話、貯金ってある?」


 おっふ。そんなお話しますか?


「あー、少しはあるけど十万もない」


 ほんとだよ、嘘じゃないよ。


「そっか。私も少しはあるけど、二人合わせても五十万にもならないんだね……」


 結婚資金。このお金があれば他に回すことができる。

今よりもいい冷蔵庫、洗濯機、アイロン。それにブランド服や最新のパソコンも買える。

式の為に三百万。現実の数字は痛い。


「でもさ、ここにも書いてあるけど『ご祝儀で相殺処理』って書いてるだろ?」


「仮に五十人呼んで一人二万円だったとしても百万。足りないよね?」


「足りないな」


「この資金を貯めるのに、そもそも時間がかかる。一年や二年では難しいわ」


「確かに」


「考えが甘かったかもしれない。課題の見直しが必要かもしれない……」


 杏里の提案した課題。

少子化対策の為に若いうちに結婚式を挙げるという案。

そもそも、式を挙げる資金を準備できない。


「いや、課題は続行だ。資金面が問題で式を挙げられないのであれば、そこを解決する」


「え、でも……」


「好き合っている恋人が資金不足で式を挙げられない。だから、結婚が遅れて少子化につながる。良い課題じゃないか?」


「でも、どうやって?」


「それを何とかするのが今回の課題だろ? 普通に式挙げました! 婚姻率上昇! 少子化対策出来ました! だったら何の苦労もない」


 それなりに時間を費やしていますし、資料をまとめるのも大変ですが。

それでも、今回の課題をクリアするには越えなければならない所だ。


 資金を準備するまでの時間。

そして、必要な物を集める時間も必要だ。


 これがクリアできて初めてこの課題を完成させることができるだろう。

いやね、俺が杏里と式を挙げるんだったら、いつか来る問題でしょ?


 早めに対策出来た方がいいよね?

俺は今から対策を練る必要がある。これは必須科目であり、落とす事の出来ない単位だ。


「出来そうなの?」


 杏里が少し不安な目で俺を見てくる。

俺だって不安だよ。

でも、そこを二人で乗り切れば明るい未来が待っている!


「出来る、出来ないじゃない。やるんだよ。これは、俺達に与えられた課題だ」


 正確には杏里が提案し、俺達三人が乗った課題。

二人で乗り切るって? いや、人数は武器にもなる。

課題をクリアする為にも、俺と杏里の未来の為にも協力してもらおう。


 高山、杉本。期待してるぜ!

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