第250話 最終ステージ


 血痕色城(けっこんしきじょう)。


 俺の目の前にそびえ立つ建物。

その纏っているオーラは光り輝き、時折鳴り響く鐘の音は通り過ぎる人々を惑わす音色。


 俺は今、最終ステージに来ている。

装備は完璧。もはやこれ以上の装備は準備できないだろう。


 杏里にセットしてもらった髪型。

杏里に合わせてもらった服。

そして、杏里に準備してもらったバッグとシューズ。


 俺はついにここまでたどり着いた。

高山、お前の死は無駄にしない。


 そして、俺の隣には美しき姫。

姫川杏里、高校一年生。

この若さでこの城に挑もうと決意したその心は、大人顔負け。

そして、杏里の装備も過去に見た事が無い位お上品にまとまっている。


 淡い色のワンピースに純白の薄いストールを身に纏っている。

そして、手に持ったバッグも服に合わせており、しっくりと来ている。


 姫よ。麗しき姫よ。

俺と共にこの血痕色城に挑もうというのか。


 姫よ。か弱き姫よ。

その美しい手を、汚さなければならないのか。


「司君?」


「ひゃい?」


 おっと、いかんいかん。

少し呆けてしまった。

高山は死んでいないし、ここは普通の結婚式場だったな。


「変な事考えてたでしょ?」


「いや、杏里が可愛いなーって思っていただけだ」


「そ、そうかな? ありがとう。司君もかっこいいよ」


 危ない危ない。緊張のあまり変な想像をしてしまった。

とにかく、今日と言う日を大切に、しっかりと有意義にすごそう。


「時間は?」


「ちょうどいいみたい。緊張してる?」


「してるな。ドキドキしている」


「私も。では、行きましょう」


 俺が一歩目を歩き始める前に、杏里が先に一歩進む。

杏里の背中に、ふと白い翼が大きく開いたような錯覚に陥る。

天使の羽?


 大きな自動ドアから入り、正面入り口にいるスタッフの方に声をかける。


「いらっしゃいませ」


「すいません、今日無料相談会に来た天童と申します」


「かしこまりました。チケットはお持ちでしょうか?」


 俺は高山に託されたチケットを懐から取り出し、スタッフの方に渡す。


「ありがとうございます。天童様、お待ちしておりました。こちらに」


 案内されたのは大きめの控室。

ゆったり座れるソファーに、木目調のテーブルがおしゃれだ。


「今、担当を呼んでまいりますので、少々お待ちください」


 き、緊張するなー! でも、案内してくれたスタッフの方は優しそうな方だったな。

話し方も丁寧だし、ちょっとだけ安心したかも。


「杏里?」


「どうしたの?」


「緊張してる?」


「もちろん。でも、これも経験。しっかりと見たり感じたりしないとね」


 俺も少し見習おう。


――コンコン


「はい」


「お待たせいたしました。本日担当させていただきます、黒金(くろがね)と申します」


 斜め三十度。丁寧な言葉使い、そして、スマイル。

感じのいい人だな。

俺も席を立ち、頭を下げる。


「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」


 あかん、緊張してきたー!


 黒金さんは俺達の向かいに座り、にこにこしている。


「そんなに緊張しなくていいですよ。初めての事ですからねっ」


「緊張しているように見えますか?」


 ちょっと聞いてみた。


「お二人とも、顔に出ていますよ。今、お茶を準備しますから、気楽にお話ししてくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 出てきた紅茶を飲みながら、結婚式の大まかな流れの説明を聞く。

大体半年から一年先を見て、準備が行われ色々と決めていくそうだ。


「それで、お二人は結婚のご予定は?」


「「……」」


 あ、俺も杏里もつまった。

ど、どうしよう……。


「無理しなくてもいいですよ。予定が無くても相談会に参加される方も多いので」


「そうなんですか?」


「『式を挙げたいんですけど!』って来られる方は少ないですよ。相談会や説明会、何ヶ所も式場を見て回ったりしてますね。結構時間かけて探す方がほとんどですから」

 

「そうなんですね」


「ところで、お二人ともおいくつですか? 結構お若く見えるんですが……」


「えっと、十五歳です。二人とも」


「十五! えっと、高校生かな?」


「はい、高校一年です」


「ちょ、ちょっと待っててね」


 黒金さんは席を立ち、出て行ってしまった。


「年齢、ごまかした方が良かったのかな?」


「それはダメよ。正直に伝えて、出来る範囲でお話を聞きましょう」


 扉の向こうから小声が聞こえてくる。


『なんで高校生が相談会に来てるの? ちゃんと年齢確認した?』


『今日、たまたま日程が開いていたから予約入れたの? いや、でも高校生だよ?』


『そりゃ確かに、将来式を挙げるかもしれないですけど……』


『分かりました! やりますよ。いつも通りにすればいいんですねっ!』


――コンコン


「お待たせいたしました。申し訳ありません。少し予定外の事がありまして……」


 我々の年齢ですね。

まさか十五の子供が来るとは思わなかったんでしょう。

でも、折角来たんだし、色々と教えてくださいね!


「やっぱり、年齢が若いとダメですかね?」


「あ、聞こえてしまいましたか?」


「すいません……」


「正直なところ、女性は十六歳、男性は十八歳で結婚できます。ですが、実際に結婚している人は少ないですね」


「そう、ですよね」


「ですが、近い将来男女とも十八歳で結婚するように、法改正が進んでおります。知っていましたか?」


「いえ、そこまではちょっと……」


「ですから、天童さんと姫川さんが、二人とも十八歳を迎えた日に結婚できるようになります」


 杏里の顔が少しだけ赤くなっている。

ここは式場。結婚という単語が飛び交っても違和感ない場所だ。


 だが、俺達には刺激が強すぎます!


「そ、うなんですね。やっぱり結婚式って挙げた方がいいんでしょうか?」


「もちろん! 二人の出発をみんなに見てもらい、一生に一回しかない日。最良の日になる事間違いありません。幸せそうな顔を今まで何度も何度も見てきましたが、それはそれはもう……」


 随分熱く語りますね。その拳にすごい力がこめられていそうです。


「おっと、話がそれました。失礼いたしました。結婚式は女性の憧れでもあり、夢でもあります。ドレス、見てみますか?」


「はい、是非」


「では、こちらに」


 黒金さんが席を立ち、杏里もゆっくりと席を立つ。

二人に続き俺も席を立って黒金さんの後を着いて行く。


 赤い絨毯。かなりふわふわする。

そして、大きな扉にきらびやかなシャンデリア。


 廊下でこんな感じだと、実際の会場とかはもっとすごいんだろうな。

キョロキョロしながらしばらく歩いて行くと、一室に案内された。


「ここは花嫁の衣装や小物などを合わせる部屋です」


 開かれた扉の奥には何十と言うドレスが。

純白、クリーム色、青、赤、黒、オレンジなど何種類もの色が。

そして、形も様々。ノースリーブや袖付き、ドレスの長さも色々だ。


「きれい……」


「カラー、サイズ、形。それに和装も含めると二百着以上あります。合わせる小物はそれ以上。新婦の方にはこの中から選んでいただくか、もしくは世界に一着しかない自分だけのドレスをオーダーしていただくか」


「自分だけの、ドレス……」


 杏里の手が近くにあったドレスに触れる。

ここにあるドレスはすべてレンタル。

誰かが着た事のあるドレス。

杏里は自分の、自分だけのドレスを着たいって思うのかな。


「ちなみに新郎はどんな感じですか?」


「新郎は簡単です。二十着もありません。これかこれのどっちかですね」


 おーう、選べる服は三種類!

見た目が違う燕尾服。

サイズもスリーサイズ。そして、和服。


 選択肢少なくて良いね!

考える事もないし、すぐに選べる!


 って、そうなの?

新郎ってそんな扱いなの?


「ちなみに、新郎の小物は?」


「新郎は手袋、ハンカチーフ、ネクタイ位では?」


 そっちもか。

ま、そんなもんだよね。


 まだドレスを触っている杏里。

何を考えているのかな……。

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