第245話 母さんの爆弾発言


 何秒か、何分か。

それこそ何十分なのか。

どれくらいの時間がたったのだろう。


 そのまま杏里を抱きしめ、手に持っていたアルバムも枕元に置き、ベッドに倒れ込んだ。

杏里に覆いかぶさり、その温もりを感じる。


「んっ……。つ、かさ君……」


「杏里……。杏里が好きだ」


 全身で杏里のぬくもりを感じる。

一緒に夜を過ごしたときもだけど、杏里の肩に自分の顎を乗せる。

杏里の頬と俺の頬が完全に密着し、お互いの呼吸音が聞こえてくる。


 こうすると杏里の全てを感じる事ができる。

そして、杏里も俺の全てを受け入れてくれたような感じがする。


 杏里の全てを、もう一度その全てを感じたい。


「私も司君の事、好きだけど……」


「だけど?」


「真奈ちゃんが見てるよ?」


 のぅぁぁぁぁ!

光速で起き上がり、扉の前に立っている真奈を目が合う。


「あさからげきあつですねー」


「いや、これは違うんだ!」


「真奈の知っている司兄はもういないんだね。真奈は寂しいよ」


「だから、そうじゃないんだって!」


「はぁ? 朝から目の前でラブコメとかやめてほしいわ。まじさいあくー」


 真奈のキャラが壊れている。

そこまで衝撃的だったのか?


「真奈ちゃん?」


「杏里姉も朝からイチャイチャ。昨夜の鬼コーチはどこに行ったんでしょうかね?」


「好きな人と抱き合うのはダメなの?」


 いやっほい! 杏里さんすごい!

逆切れに近くないですか?


「え? でも朝だし……」


「夜ならいいの? 昼なら? 好きな人を愛おしいと思った時に抱きしめあうのは、悪い事なの?」


「わ、悪くはないと思うけど……」


「司君?」


「ひゃい!」


 杏里の目が怖い。

何かする気ですね!


「真奈ちゃんをギュッとしてみて」


 言っている意味がわかりません。

それと、これとどんな関係が?


「ま、真奈は別にそんな事されたく無いしっ!」


 真奈がワタワタしており、頬が一気に赤くなったのが分かる。


「杏里?」


「なに?」


「それで解決するのか?」


「する」


 即答! イエッサー。


「真奈……」


「え? なに? 司兄、本気? 彼女が隣にいるのに!」


「杏里が解決すると言った。いくぞー」


「や、やだ! 何かムードが無い! こんな抱きしめられ方、真奈には――」


 とりあえず、杏里に言われた通り真奈をギュッとしてみた。

うん、やっぱり女の子。いい匂いがするね。

でも、身長の差は変わっていないな。


 真奈の顔が俺の胸にぴったりとくっついている。

さて、この後はどうしたもんだろう。


「も、もうぃい! 離して! わかったから離して!」


 真奈が俺の胸から離れた。

真奈の息が荒く、まるで全力疾走した後のようだ。

それに顔を真っ赤にさせ、耳まで赤くなっている。


「さて、真奈ちゃん?」


「な、なによ?」


「感想は?」


「……ノーコメントで」


「昨夜話した事、良く思いだして」


「わ、わかってる」


 杏里は笑顔で真奈を見ている。でもちょっと怖い表情だ。

真奈も顔を赤くしながらも、さっきまでの好戦的な態度が無くなっている。


「でも何を感じたのかは、理解してるよね?」


「お願いします。それ以上は言わないでください。恥ずかしい……」


 お、収まった。

流石杏里。女心がわかっていますね!


「司君。真奈ちゃんはもう大丈夫。そろそろ行こうか、お義母さんも待っていると思うし」


「よし、行きますか」


 荷物を持って母さんのところに行くと、母さんも準備が終わっているようでそのまま荷物を車に詰め込む。

真奈は相変わらず、顔が赤くなったままですね。熱でも出たのか?


 駅に着き、改札口までみんなで来たが、電車が出るまで少し時間がある。

時間も少しあるという事で、母さんも真奈もわざわざホームまで見送りに来てくれた。

ちょっとだけ寂しい気持ちになるのはしょうがない。


「司、杏里ちゃん、またいつでも来てね」


「うん、また来るよ」


「お世話になりました。真奈ちゃんも元気でね」


「うん。絶対に同じ学校に行くよ!」


「待ってる」


「司、これ持っていきー」


 母さんが大きな紙袋を差し出してきた。

何だこれ?


「これは?」


「おみやげ! 二人で食べてね!」


 ここは遠慮なくいただきます。

ありがとう! 食費が浮きますよ!


「母さんも元気でね。着いたら連絡するよ」


「はいよ」


 ホームに電車が入ってくる。

杏里と二人で電車に乗り込み、母さんと真奈に手を振る。


「じゃ、また」


――ピロロロロロロロ


『ドァー、シマリマゥ。ゴチュィー、クダサァィ』


「あ、司! 言い忘れた!」


「え、なに!」


 もう電車が出る。


――プシュー


「真奈ちゃんが高校に受かったら、下宿に住まわせるからねっ!」

 

 最後の最後に爆弾発言!

なんでもっと早く言わないんですか!


「何だよそれ! 聞いてないよ!」


 ドアが閉まってくる。


「今言った! 受かったらよろしくね!」


「司兄! 杏里姉! 受かったらよろしく!」


――パタン


 ドアが閉まり、電車が動き出す。

何だそれ、聞いてないぞ?

確かに通うには遠いけど、アパート借りるんじゃないのか?

なんでよりによって下宿に!


「司君?」


「ん?」


「もしかして、初耳なのかな?」


「あぁ、初耳だ」


 こうして、まさかの爆弾発言をどう受け止めていいのか答えが出るはずもなく、俺達は帰るのだった。


 沢山のお土産を手に持ち、母さんの爆弾発言と杏里との思い出を胸にしまって。

また、帰るからね。もちろん、杏里も一緒にさ。





【後書き】

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

作者の紅狐でございます。


第四章 第一節 帰省編 完結です。


真奈も加わり、司と杏里、そしてお互いの両親についても触れてきました。

そして、いつも聞いていた音楽の正体、いかがでしたでしょうか?


登場皆無だった高山&杉本ペアも第二節より復活します。

ファンだった皆様、お待たせいたしました。(え? 誰も待っていないって?


そして!

ここまでお付き合いして下さっている読者の皆様、ありがとうございます。

★評価、フォロー、コメントなどなど、感謝しております。

もし、お礼ができるのであれば、笹かまを送りたいくらいです。


第二節では、再び下宿生活に戻り、学校が始まります!

ついに課題発表、結果はどうなっていくのか!

の、予定で進めていきます。脱線したら申し訳ありません。


皆様のご期待に応えられるよう、日々更新できるように、体に鞭打ってタイピングします。嘘です。

マイペースに、書く事を楽しみながら執筆いたします。


まだ★評価、フォローをしていない読者の方がいらっしゃいましたら、これを期に是非よろしくお願いします。


それでは、第二節でお会いしましょう!

これからも、当作品をよろしくお願いいたします!

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