第234話 二人の会話
台所の入り口前でこっそりと二人の会話を聞いてしまう。
盗み聞きのようで悪いとは思うが、やはり気になる二人の動向。
「私はね、高校で司君と出会えてよかったと思ってるの」
「そうなんだ。姫川さんは、司兄のどんなところが好きなの?」
ほうほう。それは気になりますね。
「そうだね。優しい所とか、将来の事をしっかりと考えているとか。でも、少し鈍感なんだよね……」
「だよねー。司兄はかなり鈍感だよね」
「やっぱり? 昔からそうなの?」
「そうなんだよ。昔ね――」
そうか、俺は鈍感だったのか。
何となくそんな気もしない訳ではないが、実際に言われるとちょっとショックかも。
「真奈ちゃんは、司君の事ずっと好きだったの?」
「多分。真奈が他の男子と付き合うとか、考えた事も無かった。司兄は真奈と一緒にいて当たり前の人だったから」
「それだけ、長い時間一緒にいたんだね。ちょっとうらやましいな」
「でも、司兄に彼女ができたって聞いて、取られたくないって思った。でも、司兄と真奈が、つ、付き合うとかもあんまり意識した事無くて……」
一緒にいる事は当たり前だけど、付き合うとはまた別?
それってどういうことだ?
「本当に兄妹のように育ったんだね。私は一人っ子だったから……」
「昔、司兄は誰とも遊ばなかった時があるの。小学校の頃かな? いっつも一人でいたんだよね。そこに私が無理矢理付きまとったのが、司兄との始まりかな」
「そっか。真奈ちゃんが司君を助けてくれたんだ」
「助けた? 別に真奈は何もしてないよ? 真奈の遊び相手が近くにいなかっただけだし」
「ふふ、それでもきっと今の司君がいるのは、真奈ちゃんのおかげかもね」
「ふーん、そうなんだ。あ、そろそろお鍋いいんじゃ?」
「お、いい感じですね。お料理って楽しいよね」
「そうだね。姫川さんは何作ってるの?」
「私は肉じゃが」
「いい匂いだね。私はカレーだよ」
二人して何だか普通に話している。
俺は出るまでもないかな? 少し安心したし、さっさと洗濯物畳んでくるか。
俺は二人に声を掛けず、そのまま二階に戻り、取り込んだ洗濯物を畳む。
よし、任務完了。
少し時間もできたので、真奈から回収したアイテムのチェックを行う。
マンガ本は全巻そろっている。
ゲームもあるな。お、このタイトルなつかしいな。
……少しくらいゲームしてもいいよね?
俺は回収したソフトをハードに入れ、テレビの電源を入れる。
タイトルが画面に出てきたので、コントローラーの準備。
よし、久々にやってみますか!
キャラを選択し、コースを選択。このゲームは少し自信があるタイトル。
ゲームを堪能し、一人の時間を過ごす。
しばらくし、良く考える。
俺、実家に杏里と帰ってきて、一人でゲームとか何してるんだ?
我に返り、ゲーム機もそのままに一階に降りてみる。
「そうなの、司兄は昔っからラノベとかゲームが好きでさ」
「そうなんだ、今はそんな風には見えないんだけどね」
「嘘嘘。絶対に部屋にあるって。司兄の秘密本は大体ベッドの下にあるし、結構清楚系の物が――」
のぅぁぁぁ! 一体何を話しているんだ!
真奈の口は一体何をっ!
「ふ、二人とも! 夕飯の準備は終わったのかな! 真奈、そろそろ帰る時間じゃないのか!」
俺は大慌てで二人の会話に切り込む。
真奈、余計な事は話さなくていい!
「司君? そんなに慌ててどうしたの?」
「なんだー、今良い所だったのに。夕飯の準備は終わったけど、食材が余った」
台所に目をやるとパックに残った豚肉が放置されている。
さらに切りかけのニンジンやジャガイモ。そして、まな板も包丁も放置プレイ中。
でだ、二人はのほほんとお茶を飲んでいるって訳ですよ。
「で、この散乱した台所と、余った食材は?」
「えっと、真奈が何とかするよりも、ここは司兄にねっ」
「わ、私が何とかしてもいいけど、ここは司君が副菜を……」
他力本願! お茶の前にせめて俺に声かけてよね!
「あー、わかった。そろそろ父さんも母さんも帰ってくると思うから、それまでに何とかしておくよ」
「さんきゅー、司兄。さすがだねっ」
「つか、そろそろ帰れよ。遅くなるぞ」
「え? 今日は帰らないよ? うちの親にも夕飯ご馳走になって、泊まるって言ってきた」
「真奈ちゃん、泊まっていくの?」
「そうだよ? 折角司兄が帰ってきたんだし、問題ないよね?」
真奈の目が若干怪しい。
何を考えている。その目線の先には杏里が。
「べ、別にいいんじゃないかな? お泊り位……」
「でしょー。へへー、お着替えもしっかり持ってきてるし、今夜は寝かさないよ!」
散乱した台所。
宿泊決定の真奈。そして、不安そうな表情の杏里。
今夜は何かが起きる予感しかしない。
とりあえず、この台所からやっつけていきますか……。
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