第235話 姉妹だったら


 目の前にある散乱した台所を何とかしなければ。

しかし、カレーに肉じゃが、同じような食材しか使用されていない。


「俺は少し台所に立つから、二人とも適当に休んでいてくれ」


 腕をまくり早速取り掛かる。


「はーい。じゃぁ、真奈たちはお茶でも飲みながらゆっくりしますか」


「そうだね。司君、あとはよろしくね」


 うーん、いつもの杏里だったら『私も一緒に』とか言ってくれる気がするんだが……。

少しだけ違和感を感じる。杏里も疲れたのかな?

さて、さっさと終わらせますか。


 散乱した食材を眺め、しばし考える。

折角だし一品作るか。鍋に水を入れ余った食材を適当に入れる。


 しばらくし、無事に調理も終わったし、台所のお片付けも完了。

これで一安心。


「終わったぞー」


 振り返ると誰もいない。

おう? さっきまでそこにいた気がしたんだけど……。


 鍋を弱火でコトコトしながら、二人を捜しに台所を後にする。

一階にはいないようだな……。

ふと、二階の方から声が聞こえてくる。


『真奈ちゃん、それはちょっと』


『いいからいいから! ほら、これだよこれ、司兄の好きなやつ』


『でも、私あまり経験ないし……』


『大丈夫だって! 初めは誰でも初心者だし。ちょっとだけだからさ』


『本当? あとで司君に怒られないかな?』


『大丈夫! 司兄はこれくらいじゃ怒らないよ。それに司兄と付き合うなら、これくらいできないと』


『そうかな?』


『そうそう。ほら、早く』


 な、何をしている!

俺の部屋で何しちゃってるの!


 俺はダッシュで階段を駆け上がり、自分の部屋をノックもしないで突入する。

真奈、男の秘密を明かしてはならぬ!


 部屋に入ると、ベッドに座っている二人が視界に入ってくる。

そして、握られた黒い物体。


「二人とも、何してるのかな?」


 俺と二人が視線を交わす。

テレビの画面にはさっきまでやっていたゲーム画面が。

そして、二人はゲームをしている。


「あ、終わったの? 今さ、杏里姉とゲームしててね」


「お疲れ様。このゲームなかなか難しいね……。真奈ちゃんうまいし、なかなか勝てないよ」


 ゲームですか。内心ほっとしている自分がいる。


「真奈、杏里はあまりゲームとかしたことが無いんだ。ほどほどにな」


「分かってるって。でも、教えた分だけ覚えるし、いい線いってるよ!」


「そうか、つか勉強しなくていいのか?」


「きょ、今日はおやすみ! 明日からしっかりするよ!」


「そうだよ、真奈ちゃん。息抜き終わったら少し教えてあげるよ」


 なんだかんだ言って二人とも仲が良くなってる気がする。

公園で会ったときはどうなるかと思ったが、俺の思い過ごしだな……。


「へーい。わかりましたよ。このレースが終わったら教えてもらうよ」


「じゃぁ、これが最後ね」


 二人で白熱したレースも、真奈の圧勝で終わる。

まぁ、年季が違いますし。


「あー、負けちゃった。面白かったね」


「今度またしようねっ!」


「しっかりと勉強が終わったらしようか」


「ありがとー! 司兄は弱っちいから相手にならなくてさー」


 かちーん! そんな事は無いぞ! 俺だってお前位うまいじゃないか!

でも、言葉には出さない。俺は大人なのだ。


「ほら、ゲームはもういいだろ。早く、やる事やろうか」


 ゲーム機を片付け、テーブルの上には勉強道具が準備される。

俺も隣の机に座り、持ってきた課題を広げる。


 二人とも集中し始めているので、邪魔はできない。

小一時間経過し、日もすっかり暮れ、夜になった。

二人の帰りが遅い気がする。いつもなら帰って来ていてもおかしくない時間だ。


「杏里姉は本当に教えるの上手いね」


「ふふん。これでも学年でトップなの。将来は先生を目指そうかなって考えていてね」


「先生かー、杏里姉だったらいい先生になれるよ! じゃぁ、次はここを――」


「ここね。ここの解き方はね、この公式を当てはめて――」


 二人を見ながら考える。

もし、杏里に妹がいればこんな感じだったのか?

俺と真奈の付き合いも長いが、はたから見たらこんな感じだったのだろうか。


『ただいまー! つかさー、杏里ちゃーん! 遅くなってごめんねー』


 母さんの声が一階から響いてくる。


「二人はそのままでいいよ。俺が行ってくる」


 二人を部屋に残し、一階に行くと母さんと父さんが玄関にいた。

何か大きめの袋を持っているが、何だ?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る