第233話 二人で台所
真奈は俺と杏里よりも先に入り、二人分のスリッパを用意してくれている。
「はい、司兄はこっちだよね? 姫川さんはこれで良いかな?」
俺がいつも使っているスリッパ。
そして、杏里には来客用のスリッパが提供される。
正解です! さすが真奈、良くわかっていらっしゃいますね。
「サンキュー」
何も考えず、普通にスリッパを履き台所に直行。
杏里はスリッパをはいて、俺の後ろについてくる。早く肉とかしまいたいしね。
「司兄、これ返すね」
台所に着くと真奈から紙袋を手渡された。
渡された紙袋を覗くと俺のマンガ本やゲームが入っている。
「これは?」
「司兄から借りた。少しだけ部屋を漁ったけど、ちゃんとおばさんには許可貰っているからね」
そうか、真奈が俺の部屋を漁っていたのか。
道理であったはずの物が少し消えていると思った。
「これ以外に何か持って行ったのか?」
「えっと、司兄の使っていた教科書とか受験用の参考書とかかな? こっちはまだ返せないからしばらく貸してね」
「そっちは持ってっていいよ。まだ受験は先だろ?」
「そうなんだよねー。なかなかはかどらなくてさ」
「良かったら、私が少し勉強見てあげようか?」
おっと! 杏里が参戦してきたー!
どうでる真奈? そこは受け入れるのか?
「姫川さん、私は学校でもトップクラスだから、教わらなくても――」
「私は今の高校、学年でトップなの。司君よりも勉強できるのよ?」
……。なんかちょっとディスられた?
「司兄よりも?」
「そう、私は司君よりも教えるのが上手いの。良かったら勉強見てあげるけど?」
真奈は真剣に悩んでいる様だ。
普通だったらすぐに教えてもらいたいはず。
だが、相手は杏里だ。心のどこかで納得できないのだろう。
「真奈、俺と同じ高校が第一志望なんだよな?」
「そうだけど……」
「だったら教わるといい。きっと教わった方が将来の為になる。しっかりと先を見て考えてくれ」
自分のプライドや感情に振り回されて、本来の目的を見失ってはいけない。
第一志望の為に、今は教わった方が受かる確率は上がるはず。
「分かった。だったら教わってあげる」
あ、杏里の額に何か浮かんだ気がした。
「そ、そう。いいわ、夕飯作ったら少し教えてあげるね」
杏里の頬が少しだけ引きつっている。
「夕飯? だったら真奈が作るよ。こう見えても料理は得意なんだ」
杏里の頬がさらに引きつってくる。
杏里さん、表情に出ていますよ?
「大丈夫よ、私もお料理できるから」
「真奈もできるよ。ね、司兄も真奈のご飯、久しぶりに食べたいよね?」
「真奈ちゃん? お客様にそんな事させるなんて出来ないのよ?」
「お客? 真奈はお客様じゃないよ。司兄と家族だもん」
「そ、そう……。家族なんだね? だ、だったら一緒に作ろうか?」
「それでもいっか。司兄、台所借りるよー」
「あ、ちょっと待って!」
俺の話も聞かないまま、二人がそろって台所に立ち始めた。
さて、この二人大丈夫だろうか。
真奈の作る料理ははっきり言って、おいしくない。
あぁ、思いだしてきた。
下宿に来た当時の杏里も、結構いい感じの腕だったんだよなー。
良く考えたらいい勝負なんじゃないか?
真奈はどれくらい腕を伸ばしたのか、見させてもらおう!
「二人とも、俺は何を?」
「司君は何もしないでいい、手を出さないで!」
「司兄はその辺で転がってて!」
何だかねー。
「洗濯物、取り込んでくる」
もはや俺の声が届いていない。
母さんも父さんもまだ帰ってこない。
俺は一人で二階に上がり、洗濯物を取り込む。
おっし、いい感じに乾いておりますね!
シーツを取り込もうとするが、心なしかシーツの一部がピンク色っぽく見える。
夕方だし、そんな風に見えるのか? 目の錯覚かしら?
取り込んだシーツを自分のベッドにつける。
お日様のいい匂いがするな。
そして、この真っ白なシーツの様な心を持った俺は、少しだけ考える。
もし、もしもだよ。
今夜の晩ご飯が二人で非協力的に作られ、危険度マックス物体が出来上がってしまったらどうしよう……。
しまった! せめて俺の目が届くところに!
ダッシュで洗濯ものを取り込み、とりあえず部屋の真ん中に放置。
階段を下り、台所に向かう。せめて戦場になってなければ……。
台所の入り口前で俺は足を止め、中の様子をうかがう。
俺の思いとは裏腹に、台所からは明るい声が聞こえてくる。
「姫川さん、お料理もできるんですね!」
「司君のお義母さんに少しならったの」
「おばさんに? おばさん、お料理上手だからね」
「真奈ちゃんも手際が良いのね」
「私は家で、お母さんの手伝っていたから。それに、おいしい物作ってあげたいし……」
「そっか。ねぇ、真奈ちゃんは司君の事好きなの?」
杏里さーん! ど直球ですやん!
どうしたんですか? 最近の杏里さん、随分攻めますね!
それに真奈もそんな女の子っぽい仕草。
昔のお前は違ったぞぉぉ!
「……好き。でも、良くわからなくなっちゃった。この気持ちってなんだろう……」
台所には何とも言えない雰囲気が。
ここに俺は入らない方がいいだろう。
真奈の気持ち。
その気持ちってなんだ?
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