第224話 発掘された箱
実家に帰って少しゆっくりしたら、もう日が暮れそうになる。
まぁ、今日はほとんど移動に時間を使ったからな。
杏里とのプチデートは明日でもいいだろう。
「司、杏里ちゃん。今日はすき焼きだけどいいかな?」
問題無し。まったく問題ございません。むしろ、好きや!
「私は大丈夫ですけど、司君は?」
「すき焼き? 他のメニューを言っても、もう作っているんだろ?」
「仕込はほとんど終わってるけどね。すき焼き、嫌いだっけ?」
「そんな事は無いよ。すき焼き、楽しみだよ」
「でしょー! いいお肉買ってきたの! 杏里ちゃんもお楽しみに!」
「ありがとうございます。あ、あの、お土産買ってきたんですけど」
杏里が母さんに買ってきたお土産を渡す。
「あ、そうだ、俺も渡さないといけないものが」
サービスでもらったブドウ。
すき焼きにブドウ。良い晩御飯になりそうじゃないですか!
「あらあら、そんな気を使わなくてもいいのに。じゃぁ、先に仏壇にあげておこうか」
母さんが仏間にお土産を持っていく、そのままお供えをする。
「ばーちゃんに挨拶しておくか?」
「うん」
杏里を誘い、ロウソクに火をつけ、線香をあげる。
――チィーーン
いい音が部屋に響きわたり、線香のにおいが漂ってくる。
「二人共、あいさつ終わったら荷物の整理でもしておいで」
母さんが仏間から出ていき、部屋には俺と杏里の二人が残された。
「えっと、初めまして。姫川杏里と申します……」
杏里が声に出して挨拶をしている。
なんだろう、この不思議な気持ちは。
何とも言えない、だけど心が痛くなるのはなんでだ?
俺も杏里に続いて線香をあげる。
仏壇には買ってきたお菓子とサービスでもらったブドウ。
ばーちゃん、喜んでいるかな?
ふと、後ろに座っている杏里の目線が上の方にいっているのに気が付いた。
「遺影か?」
「うん。司君のおばーちゃんって、優しそうな人だったんだね」
「そうだな、いつでも笑っていたし、優しかったな」
「そっか、残念。私も会って、お話してみたかった」
そんな話をしながら二階の部屋に放り込んだ荷物の荷解きと整理をする。
若干散らかっている部屋の掃除と、寝床の準備をしておかなければ。
寝床? 俺はベッドに寝るけど、杏里はどうするんだろ?
後で母さんに聞いてみるか。
隣でバッグをゴソゴソしている杏里が何か袋を取り出し、そのまま階段を下りていく。
何、してるんだ?
気になって杏里の後をつけていく。
向かった先は台所にいる母さんの所だった。
「あの、これ良かったら……」
「私に? そんなぁーいいのかしら?」
「はい。先日海に行った時のお土産です」
杏里から袋を受け取った母さんは早速中身を開けている。
取り出したのは何かの液体が入ったボトル。
「あらー、貰ってもいいの?」
「はい。お義母さんにもどうかなって」
「ありがとー、今度使ってみるね」
女子の会話には入れそうにないので、こっそりと二階に戻る。
ふぅ、女の子って大変だよなー。
ベッドで転がっていると、杏里が戻ってきた。
「ねぇ司君。この後どうする?」
さて、荷物整理も終わったし晩御飯までは時間がある。
わざわざ実家に来たんだ、ゲームとか本を読むとかする必要ないしな。
「うーん、何しようか……」
「やっぱり、実家と言ったら定番のあれじゃない?」
「あれ?」
「そう、司君のアルバム見せてよ」
「そんなに見たいのか?」
「うん。好きな人が昔どんな子だったのか、気にならない?」
杏里の子供の頃の写真。
もし、俺が杏里の実家にいったら見たいか?
そりゃ見たいよね? 絶対に可愛い女の子だったはず!
今度行く機会があったら是非見せて貰おう!
「気になるな。えっと、持ってくるから待っててくれ」
俺は階段を下り、母さんに声をかける。
「母さん、俺のアルバムってどこだっけ?」
「アルバム? 司の写真だったら、仏間にあるよ。押入れの上段に入っていると思うから見てみなさい」
早速俺はアルバムを探し始める。
うーん、これかな? 違うな、こっちかな?
箱に『アルバム』と書かれた大きめの段ボールを発見。
これだな。
と、箱を取り出そうとした時、隣にあった小さな小箱が転がってきた。
ん? どっかで見た事のあるような箱……。
気になって箱を開けると、中には数冊のミニアルバムと透明なケースに入ったディスク。
……あった。見つけたぞ。
下宿の二階にあった、探しても見つからなかったディスク!
でも、どうしてこんな所に? 手っ取り早く母さんに聞くのが早いな。
「母さん、ちょっと聞きたいことが――」
と、台所に向かうと杏里と母さんが隣り合って立っている。
「ねぇ、杏里ちゃんはうどんがいい? それとも卵でとじる派?」
「私はうどん派ですね。すき焼きの最後はうどんが良いです」
「そっかー、うどんか! 今日の晩御飯楽しみだねー」
「そうですね、司君のお父さんはいつごろ?」
「帰り? 今日は何も聞いていないから、すぐに帰って来るんじゃないかな?」
話しかけるタイミングが合わない。
物凄く気になるのに! まぁ、俺もすき焼きの最後はうどんだけどさ!
ま、父さんが帰ってきてから聞いてもいいか。
無くなったと思ったディスク。
その箱に入ったミニアルバム。
それがなぜ、実家の押入れに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます