第222話 実家に向かって


「おーい! まだ準備終わらないのかー?」


「ちょっと待ってー! 今行くからっ!」


 俺はもう十分以上玄関で待機している。

いざ出発となってから、杏里が忘れ物を取りに行ってから帰ってこない。


 しばらくすると階段を下りてくる足音が聞こえてきた。


「お、お待たせ。ごめん、待たせちゃったね」


「随分時間がかかったんだな」


「ちょっといろいろとね……」


 杏里は急いで靴を履き、急に立ち上がる。

が、バランスを崩し倒れそうになる。


「おっと」


 俺はとっさに腕を出し、杏里を支える。

危ない危ない、出発前に怪我とかしないでくれよな。


「ご、ごめん。ありがとう」


「なんか様子が変だな。どうしたんだ?」


「どうもしないよ。ただ、ちょっと緊張しちゃって……」


「そんなに緊張するなよ。遊びに行く感じで、気楽に考えてくれ」


「うん、出来るだけそうするよ」


 荷物を持ち、いざ出発。

しっかりと鍵をかけ、玄関を後にする。


 そんなに長期で帰る予定ではないので荷物は軽めだ。

杏里も今回はキャリーバッグ一個とハンドバッグで終わっている。


「司君の実家って遠いの?」


「あー、一応県内だな。電車とバスで三時間弱ってところかな」


「結構遠いね。今から出たらお昼すぎちゃうかな?」


「多分向こうの駅には昼過ぎに着く。駅前で昼食べてから家に向かう予定だ」


「分かった。司君の実家か……、ちょっと楽しみ」


「田舎だぞ? そんな楽しい所ではないな」


「いいの、それでも楽しみなのっ」


 二人で並んで駅に向かう。

念のためバッグには課題用の資料を入れてある。

向こうでも必要であれば課題を進めよう。


 数日間は実家に帰る事を高山に連絡したので、きっとあの二人は色々と調べて進めてくれるはず。

方向性は問題ない、スマホで写真や資料の共有も簡単にできる。

任せたぜ! 高山、よろしくな!


 いつもの商店街を通過中、八百屋のおっちゃんが声をかけてくる。


「お? お二人さんお出かけかいっ?」


「うん、ちょっと二人で俺の実家にいって来るよ」


「じ、実家ぁ! そうか、いよいよその時が来たのか……」


 どんな時だ? つか、俺は学生なんだし、夏休みに実家に帰るのは変ではないでしょ?

長期休暇以外にも帰れって事なのか?


「司、これ持ってけ。親父さんによろしくな」


 オッチャンはなぜかスイカを俺に差し出してきた。


「いや、そんな大きいスイカは持って行けない。電車で帰るんだ」


「そっか……。じゃぁ、これなら良いだろ?」


 次に出てきたのはブドウ。それもかなり大きい実が付いたブドウだ。


「もらってもいいんですか?」


「いーの、いーの!」


 強制イベント発生。

歩いていたらブドウを持たされた。

ま、大玉のスイカよりはいいか……。


「ありがとうございます。司君、良かったね」


「あぁ、今夜はみんなでこれを食べようか」


「そうか、いよいよか……。二人とも、頑張れよ!」


 オッチャン、最近サービスいいよな。

何かいい事でもあったのか、それとも儲かっているのか……。


 電車に乗り込み、乗換二回。

電車に揺られること約二時間、やっと地元の街に着いた。

電車を降り、ホームから改札口に移動する。


「ふぅー! 長かった! やっぱり遠い!」


 駅前で思いっきり背伸びをする。


「思ったより田舎じゃないね」


「駅前は商店街、その向こうは住宅街になっているけど、その向こうは山と川と田んぼ。十分田舎だよ」


「そうなの? 確かに高い建物は少ないみたいだね。ねぇ、あれは何?」


 杏里の指さす方向には林の上からニョキっと見える白い物体。

さて、杏里に問題です。あれは何でしょうか?


「気になるか?」


「何かの先端? アンテナっぽく見えるけど……」


「バスに乗ったらあれの隣を通るから、それまでのお楽しみ」


「教えてくれないんだ、司君のケチっ」


「すぐにわかるよ。さて、お昼は何が食べたい?」


「何でもいいよ。司君の地元だし、好きな店に入ろうよ」


「よし、じゃぁお任せコースだな」


 俺は荷物を持ち商店街に向かって歩き始めた。

バスの時間まで少しある。お昼を食べるにはちょうどいい。


 俺は手荷物をもち、杏里と一緒に商店街に向かって歩き始めた。

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