第217話 憧れと恋心


「おい、俺の肉とるなよ」


「高山君の肉だったのか? 君は細かい所を気にするんだね」


「このエリアは俺の肉だ!」


「ほら、高山君はこれでも食べていればいい」


 遠藤は皿からピーマンを取り、高山エリアに放り込んでいる。


「勝手に入れるな! じゃぁ、お前はこれだ!」


 今度は高山が遠藤エリアに椎茸を放り込んでいる。


「ふっ、ボクは椎茸が好きなんだ。ありがとう」


「これでもか!」


 追加で遠藤エリアに椎茸が放り込まれ椎茸で埋まった。


「何をしているのかな?」


「椎茸好きなんだろ? ほら、もっと食べろ!」


 うるさいな。黙って食べればいいのに……。


「所で、さっきから黙々と食べているけど、天童君は楽しんでいるのかな?」


 箸で椎茸を高山エリアにこっそりと移動している遠藤が話しかけてきた。

つか、楽しく食べたいのに、君たちがうるさいんじゃないか。


「まぁ、楽しんでいるかな?」


「ほら、天童も肉食べろ!」


 高山が俺のエリアに勝手に肉を入れていく。

前の肉もまだ焼けていないのに……。


 目の前の網から肉の焼けるいい匂いがする。

そもそも男子会って何をするんだ?


「さて、本題に入ろうか……」


 遠藤が低い声で話し始めた。

ついに始まった男子会。一体何を話すんだろうか?


「本題? 何か話すことがあるのか?」


 肉を焼きながら高山は遠藤に話している。


「彼女の事について少し話をしておきたい」


 彼女、井上の事か。

結局あの後どうなったんだ?


「井上さんの事? 結局準優勝だったけど、惜しかったな」


「写真判定を見たらしいが、本当に僅差だったらしい。優勝した選手の胸が先にゴールラインに達していたと」


「陸上じゃ良くある事なのか?」


「本当に僅差だったらあり得るな」


 ほんのコンマ数秒の戦いだったらあり得るのだろう。


「これから次の大会に向けて、僕も彼女に協力しようと思っている」


「そっか。遠藤がいると、井上さんは伸びるのか?」


「多分。今回もいい線だったが、きっと次は優勝を狙えるさ」


 肉を焼きながら真面目な話をしている。

女子会のようなきゃっはウフフな話は出てこない。


「で、彼女と付き合うのか?」


 高山がぶっこんできた。

流石は聖戦士、話しにくい所を的確についてくる。

ナイス高山。いい仕事してますね。


「か、彼女とはそんな関係じゃ、ない、と思う……」


 遠藤がどもっている。

ほぅ、怪しいですね。プンプン匂いますな。


「さっき自販機の前でさ――」


 俺がさらに追い打ちをかける。

今ここで、全てを吐き出せ! 話すんだ遠藤!


「天童君! この肉焼けているよ! ほら、食べたらどうかな!」


「お、焼けたか。どれどれ」


 網から焼けた肉を救出し、タレをつけて口に放り込む。

うん、うまい! 良い肉してますね!


「ほら、高山君もピーマン焼けてるよ!」


「俺はピーマン苦手なんだよ! 遠藤にやるよ」


「じゃぁ、こっちの山盛り椎茸とトレードだな」


 何か話をそらされた気がする。

もしかして、二人はまだそこまでいっていないのか?

ま、話したくないならそれでもいいか。


「遠藤は、井上さんの事好きなのか?」


 遠藤は肉を焼きながら、網を見つめている。


「多分、気にはしていると思う。でも、好きとか嫌いとかじゃないんだ。彼女の心を軽くしてやりたい」


「好きでもない奴にそんな感情が沸くのか?」


「……分からない。でも、姫川さんに抱いている感情とは全く違うんだ」


「どう違うんだ?」


 ジューッと肉が焼ける音が響く中、高山は椎茸と格闘している。

野菜は大切だよ? しっかりとお食べ!


「姫川さんの事はきっと憧れだと思う。以前天童君と付き合っていると聞いて、ふさわしくないと思った。天童君だったら、僕の方が彼女にふさわしい。成績もルックスもセンスも」

 

 何か、さらっとすごい事を言われた気がする。

何ですか? 俺の事嫌いなのか?


「お前なー……」


「最後まで聞いてくれ。でも、天童君と一緒にいる彼女を見て、優しい目をする彼女は天童君の事が好きなんだなって実感したんだ。多分、僕はその間に入る事が出来ないんじゃないかってね」


 そのとーり! 俺と杏里の間に入れる奴はいない!


「で、井上さんは?」


「か、彼女はその、守ってやりたいというか、そばにいてあげたいって言うか……」


 遠藤が摘まんでいた肉が焦げ始めている。

恋に焦がれ、肉焼ける。その肉早く引き上げたら?

椎茸の処理が終わった高山が、遠藤の皿に肉を引き上げる。


「遠藤、それって好きって事じゃないか? 井上の事、守ってやりたいんだよな?」


「そう、だね。彼女のそばにいて守ってやりたい」


「遠藤も恋してるんだな。俺が彩音を好きなように、遠藤も井上が好きなんだよ」


「そう、なのか? 僕は井上さんの事が好きなのか?」


「なぁ、遠藤。その子を守りたいって思ったら、きっとそれが恋なんだ。告白したのか?」


「こ、告白! ない! してない!」


 遠藤が慌てている。

普段焦った様子を見せ無い奴が焦ると、少し楽しい気分になるのはなんでだろう。


「遠藤、告れ。これから練習にも付き合うんだろ? チャンスが来たら告っちまえ!」


 他人事だと思い、高山は遠藤を押している。

いいじゃん、さっき井上の様子を遠くから見ていたけど、行けると思うぜ。


「じゃ、話はまとまったな。遠藤は井上に恋している。近々告るということで」


「っしゃー! いいね、遠藤の恋愛成就を願ってかんぱーい!」


「そ、そんなノリでいいのか?」


 遠藤が焦っている。まぁ、こんなノリでいいのかは俺も疑問だけど。


「いい。少しでも彼女と一緒の時間を過ごした方がいいだろ? 時間は有限だ。言ってしまえ」


 俺も遠藤にプッシュ。これからが楽しみですね。

そんな男子会も食べ放題の時間と共に終わりを告げる。


「あー食べた! もう食べられません!」


 お腹をさすっている高山はかなり食べている。

杏里も結構食べると思ったけど、この二人の胃袋はどうなっているんだ?


「さて、この後はどうする? 帰るかい?」


「まだ帰るには少し早いかな。どうしようか?」


 大会が終わってから数時間は経過しているがまだ帰るには早い。

さて、どうしたものか。


「お、だったらカラオケ行こうぜ! 無料チケット持ってるからさ」


 そういえば、以前ディナーをした時にカラオケのチケットを持っていたと言っていたな。


「カラオケか……。天童君、どうする?」


「折角だし、行ってみるか」


「一ルーム無料券だから、全員タダでいけるぜ!」


 歩くこと数分。目的のカラオケ店に到着する。


「少し待ち時間があるな。しょうがない少し待つか」

 

 店内は数人のグループが待っており、少しだけ待ち時間があるようだ。

お腹も膨れているし、少し小休憩しよう。


「なに、してるの?」


 誰かが俺に声をかけてくる。

聞いた事のある声だ。


「杏里? え? なんでここに?」


「食べ終わったから、みんなでカラオケに行こうかって……」


 偶然とは恐ろしい。

同じタイミングで同じ店。こんな偶然ってあるんだな……。


「彩音! 何だ、彩音たちも来たのか?」


「高山君! どうしてここに?」


「いやー、チケットの余りを使おうかなって」


「あのチケット? 確か一グループ無料だったよね?」


「そうだけど?」


「だったら一緒に入ろう! 私たち全員で一グループ!」


「いいね! ナイスアイデーア!」


 高山と杉本がハイタッチをしている。

そう、なるよな……。


 杏里たちの後ろに井上が。

俺達の後ろに遠藤が。


 この二人に会話が無い。

そして、ほのかに井上の頬が赤い気がするし、さっきから遠藤をずっと見ている。


 そして、肝心の遠藤は同じく井上をずっと見ている。

え? なに? こんな所で見つめ合わないで!

こんな大勢の前でラブコメしないで!





【後書き】

こんにちは! 紅狐です。

ここまでお読み頂きありがとうございます。


新たなる展開、これから二人はどうなるのか……。でも、恋するって良いですよね!

なんだか心がホワッとします。



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それではこれからも、当作品をよろしくお願いします!




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