第200話 二回目の作戦


 その日も無事にバイトが終わり、夕方からいつもの四人で遊んだ。

会長は昨夜オーナーから色々と仕事を教わったようで、俺の代わりにカウンターに入ってくれた。


 なぜか会長は水着のおねーさん達に囲まれて、声を掛けられていたようだが、無口な会長は淡々と仕事をこなしている。

逆に杉本は浮き輪などの貸し出しで子供たちに囲まれていた。

もしかしたら保母さんとかに向いているのかもしれないな。


 キッチンは高山と遠藤。

何だかんだ言い争いながらも素晴らしい速度でオーダーをこなしている。

そして、俺と杏里はホール。昨日よりも忙しく、二人でパタパタしていた。


「もうワシがいなくても店は回るようになったのー」


 カウンターの端っこでオーナーがつぶやいている。

いやいや、仕事してくださいよ。


「マスター、カウンターは俺一人で回せます」


 会長は一人黙々とオーダーをこなす。

周りに女性たちが座ったままだが、仏頂面の会長に女性陣は見惚れている。


「君、年いくつ?」


「自分、まだ未成年なんで」


「えー! そうだったのー! ねぇねぇ、今日この後さ……」


「申し訳ありません。自分、仕事中なんで」


「つめたーい! じゃあさ、仕事終わったらビーチで待ってるから、一緒に遊ぼうよ」


「店、締めた後も仕込があるんで」


「連れないなー、そんなこと言わないでさっ。あそこの赤いパラソルあるところで待ってるから、絶対に来てね」


 そんな事を言い残し、女性グループは帰っていく。

会長、おモテになりますね。年上キラーですね。


「司君、何見てるの? さっきの女性に興味でも?」


 いえいえ、俺の目には杏里しか映っていないですよ?


「いや、会長一人で大丈夫かなって」


「そう。きっと大丈夫だよ。ほら、オーダー溜まってきたよ」


 何だかんだで忙しい。

やっとお昼になって、杏里とかき氷を食べる。

今日は現金決済、安心して食べる事ができますね。


 昨日の件もあり、今日は俺のおごりだ。


「司君、ちょっと彩音の様子が変なんだよね」


「ん? 具体的に言うと?」


 かき氷を口に運びながら、杏里は答える。


「えっとね、少しボーっとしているというか、心ここにあらずというか」


 うーん、昨日の件かな。高山からも少し情報を貰っているが、今日見た感じ高山と杉本は二人っきりで話をしていない。

何となく、ギクシャクしている感じだ。


「やっぱ、昨日の作戦が上手くいかなかったのかな」


「そうなのかな? でも、ボーっとしていても、たまにニヤニヤして、枕に顔をうずめていたんだよね」


 それって、ただ恥ずかしがっているだけでは?

もう少し二人っきりの時間が必要なのかな。


「今夜、もう一度みんなで集まって話をしよう。で、あの二人をもう一度二人っきりにしてみようか」


「そうだね。そうしてみようか」


 二回目の作戦。うまくいくといいが……。

昼休憩を終え、バイト先の店に戻り、こっそりと高山に耳打ちする。


「――と、いう訳で高山。今夜もう一度決行する」


「マジか。何かまずったのか?」


 やっぱり無言は良くない。

何か、一言でも言葉で伝えなければ。


「今度はシンプルだ。バイトが終わって、みんなで遊ぶ。その後、夜にまた集まろう。その時に二人っきりになるようにセッティングする」


「だ、大丈夫か?」


「問題ない。高山が本気で杉本さんの事を想っているのであればいける。告白した時の事を思いだせ!」


「お、おぅ。こ、今度こそ決めてやるぜ!」


 いい熱量だ。いいぞ、高山。それでこそ聖戦士高山だ。



――


「よし、みんな集まったな」


 男部屋に四人が集まる。

会長はオーナーと何か話があるらしく店に残ったまま。

遠藤はバイトが終わったと同時に井上の所に行って、まだ帰ってきてない。

遠藤は走るのが好きだなー、もうそのまま陸上部に入っちゃえよ。


 もうお馴染みになった浴衣姿の女性陣。

二人とも浴衣が良く似合いますね。


「では、昨日の宿題だ。グループ課題について、何を議題にするか。何か案は?」


「はい!」


 胸を張り高々と挙手をする高山。


「はい、高山さん。どうぞ」


「昨日は色々あって、まったく考えていませんでした!」


 非常に残念な結果です。


「はい。ありがとうございました。次」


 軽く全員でスルーした後に、杏里がなぜかもじもじしている。


「杏里、どうしたんだ? 何か良い案でも?」


「えっと、あのね……」


 意を決したようにその口を開き始める。


「司君、その……。結婚しようか?」


 固まる空気。止まる時間。

俺の理解力が足りないのか?


 目線を杉本の方に移すと見事に固まっている。

そして、口が半開き。メガネも少しずれている気がする。

隣にいる高山の方を見てみると、両手で顔を押さえて動かなくなっている。

息、してるよね?


 杏里は俺の方を真っ直ぐに見てきており、その目は真剣だ。

え? なに? 俺ってこんな所でプロポーズされたの?


 そして、時は動き出す――





【後書き】

こんにちは 紅狐です。


今回の更新で200話達成となりました!

ここまで長い時間をかけ、お読みいただいた読者の皆様、本当にありがとうございます。これからも引き続き当作品をよろしくお願いいたします。


 また『フォロー忘れ』や『★評価忘れ』などがございましたら、これを機会に是非よろしくお願いします!

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