第196話 作戦の結果発表


 俺は部屋を出て、とりあえず一階のロビーを経由し辺りを散策する。

が、高山はいない。


 玄関に行くと、一足下駄が足りない。

もしかしたら高山は戻ってきていないのか?

杏里にメッセを送る。


『杉本さんは高山と一緒に戻って来たのか?』


『今、彩音と一緒にいるけど、高山さんも一緒に戻って来たって』


『分かった。ありがとう』


 どうやら一度は戻って来たらしい。

が、部屋にもロビーにもいない。外に行ったのか?

高山にメッセを送る。


『今どこだ?』


 しばらく待っても返事が無い。

電話をかけても出てくれない。


 なんだよ、電話位出てくれよな!

しょうがない、外まで探しに行くか。


 サンダルを履き、旅館の外に出る。

どこに行けばいいんだ?


 よし、さっきまで高山達がいたスポットに行ってみよう。

俺は旅館の細道を抜け、一人で歩き始めた。


 暗い夜道、月の明かりと発電所の明かりが照らす中、ひたすら歩いた。

少し獣道になっており、足場は決してよくない。


 次第に視界が開け、広い広場のような所に出た。

目の前は小さな砂浜。波も穏やかで遠くには発電所が見える。

いたるところに光るライトがとても幻想的で、煙突の先から見える炎が風に揺れている。


 何ヶ所かベンチがあり、少し離れた所に東屋も見える。

雲もなく、大きく見える月が幻想的で、まるで異世界に飛ばされたような感覚だ。


「こ、こんな所が……」


 思わず口に出てしまった。

もしかしたらここに高山がいるかもしれないと思い、しばらく歩きまわって探したが結局いなかった。むしろ誰もいない。

歩き疲れ、ちょっとベンチで小休憩。


 良い景色に波の音。月の明かりが辺りを少しだけ照らしている。

こんな所に一人でいると、何だか寂しくなっちまうぜ。

早く帰ろう。


 ベンチから立とうと思ったとき、突然目隠しされた。


「だーれだ」


 この手の感触に、その声。

思い当たるのは一人だけ。


「なにしてるんだ?」


「目隠し」


 突っ込もうと思ったが、やめておこう。

浴衣姿が良く似合う高山が目の前にいる。

高山は懐から缶コーヒを二本取り出し、俺に一本投げてくる。


「どこに行っていたんだ?」


「ん? その辺。ほら、一本やるよ」


俺はもらったコーヒーを手に持ち、高山は俺の隣に座る。

こんな所に男二人。誰かに見られたら誤解されますかね?

俺達、ただの友達だからね?


「サンキュ。で、作戦は失敗したのか?」


 缶コーヒーを飲みながら高山は真面目な顔で口を開き始めた。


「結果から言うと成功だ」


 なんだ、良かったじゃないか。

でも、どうしてこんな所に一人でいるんだ?


「で? なんでここに?」


 俺もコーヒーを飲みながら高山の話を真面目に聞いてみる。


「ここに来たら、めっちゃ人がいた。いい雰囲気どころではなく、あっちもこっちもイチャイチャ……。景色を見るとか、隣に座るとかは状況的に無理だった」


 あ、そーですよねー。人気のスポットと言っても誰もいないはずがない。

みんな同じことを考えるのか。作戦失敗じゃないですか!

誰だ、こんな作戦を立てた奴は。


「そ、そうか。でも、作戦は成功したんだろ?」


「あぁ、まぁな……」


 なんだかいつもと様子が違う高山。

なんだ? 何か問題でもおきたのか?


「聞いてもいいか?」


「あぁ、いいぜ。俺にも良かったのか、悪かったのか良く分からないんだ」


 高山は杉本と旅館を出てからの事を話してくれた。

二人で手を取ってここに来たこと。

思ったより人が多く、何となく散歩してバイト先の店付近まで行った事。

ビーチには人がいなく、そこで流木に座って海を見た事。

そして、そこから帰る途中、雑木林を通りかかった時、高山は杉本を抱き寄せた。


 木を背中にした杉本の顎を手で上にあげ、そのまま何も言わずにブチュッといったそうだ。

その後もお互いに何も話をしないで、旅館に戻ってきてホールで別れた。


「んで、何となく部屋には行きたくないなって思って、そのまま外に出た。自販機でコーヒーを買っていたら天童を見かけたので追いかけてきたって訳だ」


「本当に無言でいったんだな……」


 ナイスなセリフもなく、グイッといったんだな。

素晴らしい、無言でもいけるんですね。


「天童が話すなって言ったじゃないか」


「確かに言ったけど、本当にそうなるとは……」


「で、天童はここで何してるんだ?」


「高山がいないから探しに来たんだよ。電話くらい出てくれよ。心配したじゃないか」


「そっか、悪いな着信にも気が付かなかったよ」


 少し落ち込んでいる高山。

いつもの覇気がない。


「どうした?」


「ん? あれで良かったのかなって……」


「初めはそんなもんだよ。明日もいつも通り、普通に接してればいいさ」


「そんなもんか?」


「そんなもんだ」


 多分、そんなもんだよね?

無言で別れたって言っていたけど、明日から変な空気流れないよね?

大丈夫ですよね?

 

 結局その日は高山と部屋に戻り、そのままベッドに潜り込んだ。

布団の中で一人考える。


 高山も杉本と仲を深めているんだな。

いつか、あいつらが結婚したら結婚式に俺も呼ばれるんだろうか。

そして、いつの日か子供ができて、あの高山が『パパ』とか呼ばれる日が来るのだろうか。


 杏里、俺達はこの先どうなるんだ?

ずっと一緒にいるって事は、将来も考えているのか?

俺が、杏里と結婚……。

まだ、ずっと先の話。俺達はまだ、やらないといけない事が……。


 そんな事を考えながら俺は夢の世界に旅立つ。

夢の世界でも、杏里と一緒にいる事ができればいいのにな。


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