第195話 いなくなった友


 いない。

どこにもいない。


 旅館にもバイト先にもいない。

遠藤はどこに行った?


 バイト先から旅館に戻る途中、まだ営業している店が何軒か目に入ってきた。

もしかしたらどこかの店にいるのかな?

通りに面した店を一軒ずつ覗いてみる。


 いた。こんな所に居ました。

まったく、心配かけさせやがって。


「天童君? どうしたんだい?」


「『どうしたんだい?』じゃない。バイト先にも旅館にもいないから心配したじゃないか」


「ごめんごめん、自由行動だと思って一人でエンジョイしてたよ」


 遠藤は一人レトロゲームをしている。

テーブルに画面が埋め込まれた昔のゲーム。

操作は超簡単だが、なかなかクリアできないらしい。


「天童君もやってみるかい?」


 ゲームは俺も得意。スマホで鍛えた指捌き、見せてくれよう!


――


「……もう一回」 


「そろそろやめたらどうだい?」


「あと一回」


「しょうがが無いな。次で終わりにしてくれよ」


「分かってる。あと一回だけだ」 


 何度目だ? 簡単なのにクリアできない。

こんなのムリゲーじゃないか!

今度こそ、今度こそクリアしてやる!


「ん? 終わったね。帰ろうか」


「あ、あと一回……」


「そのセリフは何度目だい? そろそろ諦めたらいいと思うけど?」


「今日は終わりにしよう。また、明日に」


 駄菓子屋に置かれたレトロゲーム恐るべし。

財布の小銭を全て持っていかれた。


「何だあのゲームは。クリアできないじゃないか」


「僕も初めは簡単だと思ったんだけど、簡単そうに見えてクリアできない。昔のゲームは難しいね」


「また挑戦しよう」


 さて、遠藤と旅館に向かって歩いているけど井上の件は聞いてもいいのかな?

それとも話してくれるのを待った方がいいのかしら?


「天童君、明日からバイト終わったら自由行動でいいかな?」


「多分何もなければ良いと思うが、何かあるのか?」


「いや、特に何もないんだけどね」


「何もないのに聞いてきたのか?」


「少しだけ井上さんの練習に少し付き合うだけだからさ」


 ほぅ、それはどういう意味でとらえたらいいんでしょうか?

そうなんですか? そうなんですね?


 先生も遠藤もお熱いですねー。。

発電所の炎とかけて遠藤の想いと解く。

その心は燃えてますねー!

高山! 座布団一枚!


「そうか、付き合う事にしたんだな」


「付き合う? 僕が井上さんと? ははっ、ただ練習するだけだよ」


 そうは言うものの、まんざらでもないんじゃないですか?

井上は結構可愛いと思うし、勉強もスポーツもできる。

性格は良くわからんが、遠藤とお似合いじゃないですか!


「大会、良い成績が残るといいな」


「良いじゃない、トップにならなければならない。彼女の心の為に」


 遠藤が拳を握りしめている。

何だかんだで熱い奴だ。そんなお前の事、嫌いじゃないぞ。

ちょっと嫌な奴だと思うけど、悪い奴ではない気がする。


 しかし、杏里の事を狙っていたような気がするがそれはもういいのか?

うーん、気になるが聞くのはやめよう。そんな気がした。


 そろそろ旅館に着く。

明日もバイトだし、寝るかなー!


「じゃ、僕は温泉に入って寝るよ。今日は色々とありがとう」


「無理すんなよ」


「ほどほどにするさ。でも、無理をしないと越えられない壁がある」


「その壁、遠藤が壊すのか?」


「いいや、井上さんと二人で壊すさ」


 いつもの遠藤スマイルでさらっと言ってくる。

頑張れ、遠くから応援してるよ。


――


 部屋に戻り一人スマホをいじりつつ高山の帰りを待つ。

が、遅い。あまりにも遅い。

どうした? 何か事件でもあったのか?


 そろそろ戻ってきてもいい頃だし、連絡の一本くれてもいいんじゃないか?

まさか、帰ってこないなんてことないよね?


 しょうがないので、課題の案でも何か考えておくか。

今の社会で問題になっている何かを議題として、対策を考えまとめる。

簡単なようで難しい。


 スマホをいじりつつ、何かネタになりそうなお題は無いかと探してみる。

過疎化、高齢化、異常気象、福祉、社会保障、雇用、少子化……。

課題はいくらでも出てくる。が、これらの対策ってどうするんだ?


 そもそも俺達が考えた所で、すでに大人が対策をした結果が今だろ?

考えるだけ意味が無いんじゃないか?


 いや、考える事自体が大切で今回の課題はそれを求めているのか?

結果よりも考え方や仮定を模索し、チームで取り組む事が評価になるのか?


 難しい! 明日まで何とかなるかな……。


――


 気が付いたらベッドで寝ていた。

灯りもつけたまま部屋には俺一人、ベッドに転がっている。

時計を見ると深夜のいい時間だ。

隣のベッドには誰もいなく、まだ空っぽ


 まだ帰っていないのか……。

手元のスマホを操作し、杏里にメッセを送る。


『杉本さんいる?』


 しばらくすると返事が来る。


『いるけど?』


『そっか。ならいいや』


『高山さんは?』


『いない。探してくる』


『私も行く。ロビーで待ち合わせしましょ』


『いや、俺一人で行く。杏里は杉本さんと一緒に居てくれ』


『分かった。何かあったらすぐに連絡してね』


 今度は高山が行方不明だ。

全く、ここのリーダーは何をしている!

遠藤も高山もまとめられていないじゃないか!

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