第190話 似た者夫婦


女湯から声が聞こえなくなり数分。

高山と目線を交わし、互いにシャワーを浴びる。

若干めまいがするがしょうがない。少し長くつかりすぎた。


「天童……」


「何だ?」


 更衣室で着替えながら、高山と話をする。


「温泉っていいなぁー」


 それはどんな意味で言っている?

温泉自体の事を言っているのか? それとも他か?


「そうだな、明日の朝も入るか」


「朝風呂もいいな。朝食前にでも入るか」


 荷物をまとめ、約束したソファーに移動する。

お風呂上りの女性は時間がかかる。

男はあっという間に終わるしな。


 自販機でビンのコーヒー牛乳を購入し、一息つく。

隣のゲームコーナーにはお馴染みの卓球台まである。


「天童、ちょっとやるか?」


 高山が誘ってくる。

まさか卓球経験者じゃないよな?


「やったことは?」


「あー、三回?」


 よっしゃ! 今度こそ行ける!

小学校時代、卓球王と言われた俺が、その力を解放しよう!


「俺も似たようなもんだ。どれ、やっていますか。」


 ここでぎゃふんと言わせてやる!


「あ、卓球するの?」


 女子三人がお風呂から出てきた。

湯上り女子三人衆。アップにしている髪も、その少し着崩れた浴衣もいいですね!

浴衣美人最高です!


「お帰り、ちょっとしてみようかなって」


――カコンカコンカコン シュパッ


「俺の勝ち―!」


 高山に圧勝した俺は気分がいい。

バレーの時とは違い、完全個人プレイ。


「何だー、天童上手いじゃないか―」


 高山はラケットを杉本にパスした。

ほぅ、次の獲物は杉本ですか? いいだろう、喰ってやる!


「司君頑張ってねっ!」


「彩音! 俺の仇を取ってくれ!」


「行くぞ!」


「いいよー」


 おりゃ!


――カコン


 ナイスサーブ! いい感じに杉本のテリトリーに入っていく。

その角度、返せまい!


――シュパァァァンン カコンッ!


「へ?」


 杉本に返された球は、綺麗に俺の後ろに転がっている。

そして同時に二つの小山も揺れていた。

浴衣の胸元からチラッと白いものが見えた気がしたが、気のせいだろう。


「うん、いい感じ! このラケットちゃんとしたラケットだね」


 はい? ま、まさか……。


「杉本さん?」


「元卓球部。エースではないけど、それなりにはできるよ。タイプは速攻系なんで、よろしくっ」


 ちくしょ! ここでもか! ここでも俺はいけないのか!

なんどかいい感じにラリーは続くが、決め手に欠けている俺は点に繋がらない。


 で、結局負けました。

悔しいです!


「次いこうぜ! 卓球おもしろいよな!」


 ラケットを持った高山は、もう一つを井上に差し出した。

なんだか井上の目がさっきと比べると柔らかくなっている気がする。


「ボクもそれなりにできるよ」


「良いだろう、負けたらジュースをおごってやるよ!」


 ピクッと肩を動かした井上。

ジュースと言う言葉に反応したのか?


「うぉりゃ! くらえー!」


 高山の天井サーブ。

高々と球を天に投げ、そして、普通のサーブをする。


 そこまで早くはないが、いい感じにラリーが続く。

温泉卓球って感じだ。見てるだけで楽しい。


「司君、ちょっとだけ貰ってもいい?」


 杏里がテーブルに置いてあるコーヒー牛乳を手に持っている。

俺の飲みかけだ。


「良いけど、もう一本買うか?」


「ううん、一口だけ飲みたかったの」


「いいぞ、一口でも二口でも」


 杏里が俺の飲みかけを普通に飲んでいる。

見ているこっちは少し恥ずかしいけど、杏里はそうでもないのかな?


 隣で杉本が杏里に熱い視線を送っている。

そんなまじまじ見なくてもいいでしょ?


「甘いね」


「その甘さがうまいんだよ」


「司君、少しゲーム見に行かない?」


 杏里が俺の袖をつかみ、ゲームコーナーへ連行する。

何か欲しいものでもあるのか、やりたいゲームでもあるのか。


「どうしたんだ急に?」


「司君にお願いがあってさ」


「ん? 何かしたいゲームでもあるのか?」


「ううん、違うの。あのね、何とかして、高山さんを連れ出せないかな?」


「どういうことだ?」


 杏里の話だと、さっきのバーベキューの時に杉本と話をしていたらしい。

杉本から相談され、この夏に何とかもう一歩恋人として踏み出したいと。

普段はなんだかんだで、二人っきりになれなく、互いに躊躇しているようだ。


 なんだ、やっぱり似た者夫婦じゃないですか。

良し、いいだろう。二人っきりにして、一歩前進させてやるぜ!


「よし、任せろ。あの二人には普段世話になっている。恩返しと行こうじゃないか」


「ありがとう。私は何をすればいい?」


 杏里との作戦会議が始まる。

夜は始まったばかり。今夜決行するぜ、例の作戦を。

高山、待っていろ、今日お前を一歩だけ大人にしてやる!


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