第183話 陣取り完了


「お待たせ!」


「早く行こう! 彩音も待ってる!」


 すっかり行く気まんまんの杏里。

軽くジャンプしている杏里の髪と胸が揺れている。

そんなに急がなくても、海は逃げないから安心してくれ。


「どこにいるんだ二人とも」


「分からない! 店を出て右の方って言ってた」


「じゃ、とりあえずそっちの方に行ってみるか」


 杏里と二人で店を出ようとした時、後ろから声をかけられた。


「天童、姫。これを持って行け」


 会長は大きなカップの飲み物をくれた。


「姫にはイチゴベースのカクテルジュース、大きいイチゴ添え。天童はセロリをベースにした健康野菜ジュースだ」


「な、なんでですかー!」


 おもわず突っ込みを入れてしまった。


「わぁ! 会長さんありがとうございます! おいしそうですね!」


「会長! なんで俺はセロリベースなんですか!」


「ん? 天童は健康に気を使っていると聞いたが、違ったか?」


 た、確かに多少は使っていますけど、リゾート地だったら俺だって夏っぽいジュースがいい!

セロリが嫌いではないし、食べるけどさ! でもね、でもねー!


「あ、ありがとうございます。いただきます」


「姫はイチゴ好きなのでな」


 まぁ、杏里のイチゴ好きはファンクラブメンバーなら知っていてもおかしくない。

せっかく作ってくれたんだし、ここは感謝しておこう。


「天童、姫を守れよ」


「わかってますって」


「じゃ、行ってきますね! 会長さんも時間があったら来てくださいね!」


「うむ。俺はオーナーとバーベキューの仕込もするから、海に行くのは明日以降だな」


 会長……。いい人なのに、根は真面目で優しくて、後輩思いの良い人なのに!


「いいんですか? 俺も手伝いますか?」


「いや、俺一人で十分だ。それに二年間十分遊んだ。お前たちも今が楽しい時期だ、楽しんでくればいい」


「ありがとうございます! 行ってきますね!」


 ここは遠慮なくお言葉に甘えよう。

杏里と夏のバカンス! ちょっと日が傾きかけているが、まだまだ遊泳客も多く、しっかりと遊べそうだ。


「杏里、行こうか」


「うんっ」


 俺は杏里の手を取り、店を後にする。

とりあえず高山達と合流するか。

確か店を出て右って言っていたよな。


 杏里と手を繋ぎ、暑い砂浜を歩く。

砂浜や海にいる他のお客さんもみんな水着だが、そこまで可愛い子はいない。

しかし、大人の女性も多く、そのスタイルに目が行くのは男として当然だろう。

きっと杏里は、もっとすごい大人になるんだろうなと思いつつ、行き交う人を見て回る。


「司君? さっきからキョロキョロしているけど?」


「ん? 二人を探しているんだけど、いないな」


 危ない、危ない。杏里も勘が鋭くなってきている。

野生の勘なのか、第六感なのか。


「でも、そこまで遠くには行っていないと思うんだけどな……」


「遊んでいたらそのうち合流できるかもしれないし、適当に俺達も海に行こうか?」


「そうだね。これだけ人が多いから、見つけるの大変だしね」


 みんなスマホを持っていない。

持っていても恐らくバッグの中だろう。

海での合流は難しいな。


「よし。あそこのパラソルを使っている人の隣に陣取ろうか?」


「うん。ちょうど日陰になっているし、いいかもね」


 うまい具合に良いスペースを見つける事が出来た。

砂浜にシートを引き、持ってきたバッグを置き陣取り完了。

俺は着ていたシャツを脱いで、水着一枚になる。


「うーん! 少し日差しが弱くなっていて、いい感じだ!」


 じりじりしない、ちょうどいい感じの気温。

絶好の海日和じゃないですか!


 隣を見るとパーカーのチャックを下ろし始めた杏里。

その隙間から白いブラ、じゃなくて水着が見える。


 白いお腹にオヘソ。

けっして大きいとは言えない胸だが、全体的なプロポーションは素晴らしい。

杏里の脱ぎ方も、なぜか生々しさを感じる。


 パーカーを脱いだ杏里は少し頬を赤くしながら俺に話しかけてくる。


「大丈夫かな? 変じゃない?」


「大丈夫。このビーチで一番輝いて見えるよ」


「あ、ありがと……」


 少し照れた顔の杏里に、俺の心臓は爆発寸前。

ここで追い打ちをかけられたら爆発は避けられないだろう。

よし、準備運動終わったら海に行きますか!


「お、お願いがあるんだけど?」


「ん? どうした?」


 なんかモジモジしている。


「あ、あのね……。彩音に塗って貰う予定だったんだけど、今いないし。司君に背中塗って貰っていいかな?」


 杏里の手にはボトルが握られている。

これは、あれですか? あれですね!


 目の前のシートに寝た杏里は、そのまま背中を俺に向けている。

薄目で俺をチラ見している杏里。そして、その目を閉じた。

覚悟を決めたと言う事か。


 いいだろう、俺も覚悟を決める!

爆発は避けられなくなった。カウントダウンに入る。


――スリー


 俺は自分の手のひらにオイルを垂らし、しっかりと手もみする。


――ツー


 膝を突き、杏里の背中に照準を合わせる。


――ワン


 いざ、尋常に! 勝負!


――ゼロ


 男、天童司。行かせていただきます!

背中まであと一センチ。

杏里の背中に俺の両手が吸い込まれていく。

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