第182話 解散日決定


 俺は一人砂浜を走っている。

肩にはマイバッグ。中身は水着やタオルなど海に入るアイテムが一式。


 次第に店が見えてきた。

急いで裏口から入り、着替えをする場所を探す。

すると向こうの方から声が聞こえてきた。


『姫、それは本当か?』


『先日もお話しした通り、私は普通に高校生活を送りたいのです』


『だが、しかし……』


『はっきり言って、迷惑なんです! 彩音の件では確かに感謝しています。でも、これとは別件です!』


 杏里と会長が何やら話しこんでいる。

俺も同席するはずだったのになぜか先に話し始めている。

どういうことだ? 俺は不要って事か?


 ゆっくりと扉を開けると、白いパーカーを着ている杏里。

後ろから見える杏里は髪をポニーテールにしており、椅子の隙間から真っ白な脚が見えている。

健康的なふくらはぎ、そして柔らかそうな太もも……。

既に水着を着ているのか?


『天童からは?』


『司君からも聞きました! ですから、私が直接お話ししています』


『そうか……』


 こっち側からは会長の表情がはっきりと見える。

怖い顔には変わりないが、いつものオーラが無く、少し小さく見える。

怒られている子供って感じだな。


 俺も話しに参加した方がいいだろう。

ゆっくりと二人が座っている席に向かって歩き始めた。


「お、天童か。少し時間がかかったな」


「司君、遅い! 早くこっちに」


 杏里は隣の椅子を引き、俺にここに座れと目線を送ってくる。

バッグを床に置き、杏里の隣に座る。


「天童は姫に話を?」


「えぇ、しました。杏里はファンクラブも写真撮影も望んでいません」


「そうか……」


「そうです! お礼は改めて別の形でさせて下さい。ファンクラブは解散を」


「か、解散!」


 さすがの会長もびっくりしている。

杏里もド直球に話をするようになったな。

そこは素直に感心しよう。


「そうです。それが私の希望です」


「それは無理な願いだ。すぐにはできない」


「すぐにできない? なぜですか?」


 会長は眉間にしわを寄せ、腕を組みながら語り始めた。


「既に文化祭までの期間、会員のイベント日程を組んでしまっている。施設や飲食物、その他多彩な道具まで手配済みなんだ。今さらキャンセルはできない」


「し、施設とは? 何を手配しているんですか?」


 杏里も若干不安そうな表情で会長に話している。

隣で聞いてる俺も不安だ。


「うむ。会員同士の交流を深めるために、キャンプ場。それから市の会議室、文化祭に向けてのスケジュールもすでに組み終わっていて、外部業者含め動いてしまっている」


「な、何をしているんですか? まさか、変なグッズとか作ってないですよね?」


 俺も気になって会長に突っ込む。

まさか杏里のうちわとか、文具、タオルとか変なの作ってないよね?


「流石にそれはないな。三年は夏休み前に文化祭の出し物が決まっていてな、普通に食べ物を提供するだけだ。決して姫グッズは依頼していない。そこは安心してくれ」


「分かりました。文化祭以降は活動をしないでください。あと、私のグッズとかも作製禁止です!」


「分かった。文化祭を最後に活動は終わらせる。それにグッズは作らない。他には?」


「写真もダメです。私を特別扱いしない、普通の学生として扱ってください」


「うむ、次の会報にその旨告知する」


 会長ががすんなりと承諾した。

思ったよりあっけないと言うか、反論も無かった。


「では、この写真も返却した方がいいか?」


 会長が取り出した杏里の浴衣写真。

良く撮れており、個人的に俺も欲しい写真だ。


「回収します」


「先日のお礼の件、この写真一枚で手を打ってもいいんだが……」


「回収します」


「分かった。これは返却しよう。お礼の件については、特に気にしないでくれ。俺が勝手にやったことだ」


 会長はそのまま席を立ち、俺達の前からカウンターに向かって歩き始めた。


「お礼については、また後日何かしらの形で返します。絶対に」


 杏里も会長に感謝している。もちろん俺も。

何かしらのお礼は必須だよな。


「会長! 海に行かないんですか?」


「俺は遠慮しておく。やる事があるからな」


 杏里も戻ってきた写真を手に持ち、俺の方を見てくる。

先日買った白い水着に白いパーカーを着ている。

前面のチャックは閉まっているが、裾から見える太ももは素晴らしい。

つい目線が下に行ってしまう。


「司君?」


「はい!」


「この写真しまっておいてもらえる?」


「いいぞ。じゃ、俺のバッグに入れておこうか」


「ありがとう。ごめんね、司君を待たないで先に話しちゃった」


「気にするなよ。でも、これで実質ファンクラブはなくなるな」


「そうだね。会長さんはいい人だけど、ファンクラブはちょっとね……」


 遠目に見える会長はオーナーと何か話している。

そして、オーナーが手にシェイカーをもち、何やら会長に説明をしている。

もしかしたら会長がカウンター業務を覚えてくれるのだろうか?


「司君、夜ご飯まで自由時間だって。早く海に行こうよ!」


「そうだな、ところで高山と杉本さんは?」


「あの二人だったらもう海に行っているよ。彩音の水着も可愛いからって、ジロジロ見ちゃだめだよ?」


 杉本の水着姿。確かに見た目は可愛く、胸も大きめ。

その杉本が水着を着たらきっと高山も悩殺されるだろう。


 実際、杏里が水着を着た所を見た俺が悩殺されたからな。

隣にいる杏里は、そのスタイルを俺に見せるかのように立っている。


 白いパーカーから見える白く長い脚。

若干大きめのパーカーは、太ももに少しかかっているくらいの長さなので、非常にきわどいライン。

男物のシャツも捨てがたいが、オーバーサイズのパーカーもいけますね。


「あ、あんまりジーっと見ないでくれるかな? 少し恥ずかしいよ?」


「ご、ごめん……。俺、着替えてくるね」


「うん! 早く戻ってきてね」


 俺はキッチンの隅っこで持ってきた水着に着替え、海用のバッグに必要最低限のアイテムを入れ杏里の元に戻る。

若干着替えにくかったがしょうがない。俺だって男だし。


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