第179話 まさかの食い逃げ?
杏里に一蹴されてしまった。
一言で交渉は決裂。隙間に入る余地なし。
会長、やっぱり無理でした!
「念の為に聞くが、理由は?」
「多すぎて何を話せば……。まずは――」
杏里いわく、普通の高校生として過ごしたい。
自分の写真を不特定多数に回されたくない。
そもそもファンクラブなんてない方がいい。
知らない誰かに好意を寄せられても困る。
私には司君がいる。
司君にだったら写真をあげてもいい。
だったら私の写真を司君にあげる。
だから司君の写真も私に頂戴。
と、いう事らしい。
なんだか少し脱線している気もするが、大したことではない。
「他にもあるけど、会長さんには私が直接話します!」
杏里に目に炎が宿る。
今ならきっとファイアーボールくらい出るかもしれない。
「わ、わかった。それじゃ、お礼の件については杏里から会長に直接」
「今日中に話して、さっさと決着をつけましょう。私は、司君と一緒に高校生活を満喫したいんです!」
杏里の口から少し恥ずかしいセリフと、氷が少し飛んでくる。
ヒートアップしすぎです。少し、落ち着いてください。
こんな所は何となく雄三さんに似ている気がする。
杏里のお母さんってどんな人だったんだろう……。
話もそこそこ、氷も食べ終わり、お会計。
「千円だね。現金で頼むよ。うちは決済システムが無いからね」
「……司君、財布もってる?」
「杏里は?」
まずい。ブレスレットにチャージはしているが、肝心の現金は店に置きっぱなしだ。
「たまにいるんだよ。現金なしで、ブレスレットで会計しようとするお客さん、うちには決済する機械は無いよ。現金のみ、カードもダメだよ」
ばーちゃんの目が光っている。
このままでは食い逃げになってしまう。
杏里と互いに視線を交差させ、どうするかアイコンタクトで情報を交換する。
しょうがない。店までどっちかが走るか……。
「あの……」
「いらっしゃい! 何人だい?」
「えっと、五人です。席、空いてますか?」
お客さんの方を見るとそこには井上が。
っしゃー! 神降臨! お金貸してください!
「井上さん!」
「姫川さんと天童さん? え? ここで仕事してるの?」
ちょっと行き違いがあったけど、なんとか井上からお金を借りる事が出来た。
まじ助かりました!
「天童さんが悪いね。財布位持ってこないと」
「面目ないです……」
「私も持ってなかったし……」
「いえ、そこは男の子が出すところでしょ? あと少しで姫川さんに恥をかかせるところだったのよ?」
「ご、ごめんなさい……」
陸上部の四名は隣の席でかき氷中。
俺達三人は同じテーブルに座っているが、なぜか井上に説教を貰っている。
が、井上の食べているかき氷はイチゴ。
さっきから杏里がチラチラと視線を送っているのが分かる。
さっき食べましたよね? 練乳山盛りで。
「姫川さん、欲しいの?」
「え? ち、違います。ただ、おいしそうだなって……」
違くないでしょ? 遠まわしに下さいって言っているようなもんですよ。
「食べる?」
「一口なら」
遠慮しないんですね。
席にあったスプーンで杏里は一口分井上のかき氷を略奪する。
スプーンに乗るだけ山盛りで。
「おいひいですね!」
笑顔で杏里を見ている井上。
杏里も笑顔で頬張っている。
「可愛い……」
井上の口がら聞こえてきた。
確かに可愛いよね。でも、井上も頬を赤くするのはやめてくれ。
さっきから隣の席にいる男四人がずっとこっちを見ながらかき氷食べてますよ。
気が付いていますか?
「杏里、仕事に遅れる。そろそろ……」
「うん、井上さんも同じ宿で助かったよ。あとでお金返すね」
「大丈夫。お金は天童さんから回収するから」
にやりとこっちを見ながら俺に視線を送ってくる。
はいはい、わかりましたよ。
「宿に帰ったら俺から返します。助かったよ、ありがとな」
「いえいえ、どういたしまして。じゃ、また後でね」
氷屋をあとに、俺達は急いで昼ご飯を食べ、店に戻る。
時間ぎりぎりセーフだ。
「ただ今戻りました!」
店に入ると、何やらもめている。
「なんでそんなもの作っているんだよ!」
「開発だよ、開発!」
「勝手にメニューにないもの作るなよ!」
遠藤と高山が何やらもめている。
幸いお客さんはさっきよりも少ない。
「焼きそばにご飯があったら、出来るだろ?」
「確かにできるけど、券売機になかったら売れないぞ!」
「だから、開発だって! 提供するわけじゃない!」
もめている二人に間に割って入る。
「何もめてるんだ?」
「天童! 聞いてくれよ!」
「天童君だったらわかってくれるよな!」
意味が分からない。
お前たち、オーナーが寝ているからって何しているんだ?
カウンターを見るとオーナーはすでに寝ている。
カウンターには『休憩中』とかかれ、ドリンクの提供を休ませている。
ちょっと待ってくれー、勝手に休んでいいの?
そんな店でいいんですか?
「で、何が問題になっているんだ?」
原因究明と、解決策の提案。
そして、検証を行い問題を解決する。
さぁ、二人とも話してみよ。
私が解決してしんぜよう!
「遠藤が勝手にそば飯作ってるんだよ」
「新しいメニューの開発は必須だよな!」
そんな事でもめるな!
何勝手に新メニュー作ってるの?
ダメでしょ!
何だか疲れてきた、よけいな事はするなよ!
ただでさえオーナーが役に立たない、じゃなくて、寝ているのに!
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