第174話 エンジェルキッス


「じゃ、俺旅館の探索に行くから」


 高山のセリフに対して返事もせず、とりあえず旅館の探索に出ることにした。

旅館に来たらどこに何があるのか、何を売っているのかとか気になりますよね?

温泉もあるらしいし、今から楽しみでしょうがない!


「ちょっと待て―!」


 騒がしい高山。なんだよ、折角冒険に行こうとしたのに。


「なんだよ、俺は今から探索に出る」


「最後まで話を聞けってば」


 少し涙目で訴えてくるので、話を聞いてやる事にした。

備え付けのベッドに座り高山と向かい合っている。

少し真面目な顔つきの高山、いったい何の勝負なのだろうか。


「て、天童はもうしたんだよな?」


「何を?」


「ほら、あれだよ、あれ」


「あれじゃ分からん。はっきりしてくれ。高山らしくないな」


 珍しく高山がどもっている。

あ、あれか。あの件ですね。


「ちゅ、ちゅーだよ。ちゅー」


 やっぱり。高山この手の話になると、とたんに滑舌が悪くなる。

 

「高山はまだしてないのか?」


 頬を少し赤くして無言で頷く。

女の子だと可愛いと感じる仕草だが男だと……。


「ぶちゅっとしちゃえよ。ぶちゅっと」


 軽くあしらってみる。


「そ、そんな簡単にできるかぁ! できたらこんなに悩まない!」


 確かにそうですね。

高山は女の子に対して結構手が早いと思っていたが、そうでもないのか?


「ちゅー、したいのか?」


「……うん」


 何その仕草。ちょっと引くんですけど。

左右の人差し指を突っつきあいながら、こっちを見ている。

俺にどうしろと?


「雰囲気が良くて、二人っきりだったら自然といけるって」


「彩音と二人になるのは、街でデートする時と彩音の家でペン入れする時くらいなんだよな」


 おっふ。すっかり専属アシスタントになっているじゃないですか!

それでいいのか? 高山の寝不足そうな表情はまだ徹夜を継続しているからなのか!


「まだペン入れとかしてるのか?」


「最近は背景もやらせてもらえてるんだ! 結構成長したんだぜ!」


 高山! 向かう方向が違うぞ!

おまえは漫画家を目指しているのか?


「そ、そなんだ。良かったな。部屋でいい雰囲気にはならないのか?」


「無理だな。彩音は机にずっと向かっている。それに家族がいる事が多いしさ」


 確かに家族がいるといい雰囲気は難しいかかもな。

よし、ここは先輩として少しサポートしますか!


「よし。少し助け船を出そう。とりあえず仕事して、終わったら作戦会議だ!」


「マジか! 天童、おまえと友達で良かった!」


 それは俺のセリフだよ。

俺も、高山と友達で良かった。頑張ってチューしてくれ。


 俺達はがっちりと手を握り合い、互いに見つめ合う。


「「ミッションネーム、エンジェルキッス!」」


「ミスは許されない。チャンスは一度のみ。その命かけるか?」


 高山に問う。


「あぁ、この命かけるぜ。俺は大人の階段を上りたいんだ!」


 男ってバカだよな。

でも、そのバカさが楽しい時でもある。

きっと大人になってもこんなバカなことやっているんだろうなと、思いつつバイトに行く準備をする。

帰ってきたら作戦会議をしながら、旅館の探索でもしよっと。


「所で天童さ、会長と遠藤って仲良いのか?」


「多分いいと思うぞ。なんだかんだでファンクラブ関係でつながっていると思うし」


 いそいそと準備をして海に行く為にサンダルを準備する。

服もハーフパンツにシャツ一枚。

海の家に着いたら制服をくれるらしいのでそれまでのつなぎの服となる。


 バイト終わったら、自由時間。

楽しみでしょうがない! どうしても杏里の水着姿を思い浮かべにやけてしまう。


「準備終わったか?」


「あぁ、ホールに行くか?」


「少し時間あるし、少しだけ探索しようぜ!」


 高山に誘われ、少しだけ旅館を探索する。

俺達のいる二階はほぼ部屋のみ。自販機が端っこの方にあるだけだ。


 一階はホールに受付、食堂と簡単な遊戯場、その隣に売店がある。

そして、遊技場の奥に温泉への道が続いている。


「あんまり広くないな」


「そうだな。まぁ、二階建ての普通の旅館ならこんなもんじゃないか?」


 一階の売店でお土産を眺めながら物色を始める。

何かお土産でも買おうかな……。


 先に来ていたお客さんと少し肩がぶつかった。


「あっ、すいません――」


 俺よりも背の低いショートカットの女性。

旅館だからなのか、ハーフパンツにノースリーブ。

しかし、普通の服と違いスポーツ用の服装だってことだ。


 振り返る女性と目があう。


「ごめんなさい――」


「こんな所で何しているんだ? 井上……」


「て、天童君! そっちこそこんな所で何してるの?」


 まさかと思ったが、こんな所で思わぬ人と会ってしまう。

どうしてここに井上が? そしてその格好はなんだ?

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