第160話 姫の眠る場所


 乾杯の音頭と共に、奉行はホットプレートに肉を乗せ始める。

野菜はどこに行った? 一面赤い肉だけですが。


「さぁ、焼肉だ! たんとお食べ!」


 おかんか。

そんなツッコミよりも肉しかないぞ?


「高山、肉以外はどうした?」


「ん? 野菜か? その皿にあるけど?」


「何故肉しか乗せないんだ?」


「だって、初めはがっつり肉に行きたいじゃん!」


 高山はそうかもしれないな。

ですが、ここには女子二人もいるんですぜ。


「そうですね、初めは肉に行きたいですね」


 すでに箸を手に持ち、肉を狙っている杏里。


「お腹、空きましたからね!」


 同じく臨戦態勢に入っている杉本。

何ですかーい。みんな肉なのか? 肉オンリーでいいのか?


「空いた場所に野菜を入れるよ……」


 真っ赤な肉が次第に火が通り、茶色くなっていく。

俺以外の三人は目を光らせ、肉を狙っている。

そんなに慌てることはない、肉は山の様にあるんだ。


 と、思ったのもつかの間。

山盛りの肉と、野菜、米までも全てが空っぽに。

おかしい、あれだけあったのに全てが無くなっている。


「いやー、食べた食べた!」


「お腹いっぱいですね!」


「何かデザートでも出そうか?」


 杏里さん? あれだけ食べてまだ食べるんですか?


「いいね、食後のデザート」


「杏里、私も手伝うよ」


「そう。だったらテーブルから少し食器を下げて、洗い場に」


「はーい」


「あ、俺も何かするよ」


「司君は座ってていいよ。疲れてるでしょ?」


 少し寝たからそこまで疲れてはいない。

高山はお腹をさすりながら背伸びをしている。


「天童、足りたか? あまり食べていなかったようだけど」


「いや、普通に腹いっぱいだぞ。あの量を平らげるとは、すごい食欲だな」


「ここ数日、適当にしか食べてないし、今日は作業完了記念! 少しくらい贅沢してもいい!」


「あ、買い物代後で俺も出すよ」


「別にいいよ出さなくて。俺が全額出す」


「それは流石に悪いって」


「親から宿泊代としてお金貰ってるから気にすんなよ。親からも出せる所は出せって言われてるし」


「そっか、なんか悪いな。後でお礼を……」


「あー、いらない。うちの親はそんなんじゃないし。気にしないでくれ」


 高山の親ってどんな感じの人なんだろうか?

少し気になるな。


「おまたせー」


 目の前にはフルーツ盛り。

大きなボウルに大量のカットされたフルーツが盛られている。

そして、杉本はそれぞれの席に小皿とフォークを並べる。


「お茶も入るからちょっと待ってね」


 杏里が紅茶用のカップを茶箪笥から取り出し、それぞれに配る。

俺と杏里は例のカップ、高山と杉本は普通のカップを並べた。


 このカップは杏里にとって特別な想いがある。

なんせ母親の形見に近いものがあるからな。

普段から使う事にしたが、ちょっと扱うのに勇気がいる。


「お、フルーティー! 脂っこい肉の後は、さっぱりがいいよな!」


 早速食べ始める高山。

どうやら彼の胃袋はブラックホールのようだ。


「さて、食事も終わったし雑談タイムだな」


 俺は話を切り出した。


「んー、甘い! 天童も食べろよ」


 真面目な話がしたいんですよ!


「ありがとう。じゃ、俺も食べようかな」


 高山につられ、俺もフルーツに手を出す。

確かに甘ーい。さっぱりもしていて、いい感じだ。


「杏里は普段お料理とかしてるの? 結構手馴れていたけど」


「少し手伝う位かな。でも、凝ったものとか作れないし、彩音ほどお料理上手じゃないよ?」


「そっか、結構手際も良かったし、普通に毎日料理していると思った」


 杉本正解。ここ最近はほとんど杏里が台所に立っています。

自身の修業の為なのか、俺の手伝いも断ることが多くなってきた。


「みんな、疲れてないか?」


「俺は普通かな。ご飯食べて結構復活した!」


「私は少し眠いですね」


「さっき起きたばっかりで、元気だよ」


 杉本以外は元気そうだ。


「とりあえず、山場は切り抜けた」


 後は会長の返事を待つばかり。

いつ着くのかは分からないけど、原稿が先方に渡ったら連絡をくれるはず。


「色々あったけど、みんなありがとう! 次もよろしくね!」


 さらっとすごい事を言われた気がした。

次? 次もあるんですか?


「彩音、まだあるのか? 今回だけじゃないのか?」


「何言っているの? 毎年あるし、規模は違うけど年に何回かあるよ」


「そ、その話はまた今度ゆっくりと……」


 毎回このデッドコースは嫌だ。

そのうち死人が出てしまう。日数をかけるか、人を足すか……。


「彩音、ちょっとまじめな話をしてもいいかな?」


「どうしたの? 急に真剣な顔して」


「私さっき部屋にいなかったでしょ?」


「そうそう、ビックリした。部屋にいなかったの、布団が空っぽだったよ」


「でも、私は二階から司君と降りてきた。不思議に思わなかった?」


「思ったよ。ま、まさか……」


 そう、そのまさか。

今から全てを、俺達のなれ初めを話そう。

その時がきたんだ。二人とも、ビックリするかな……。


「まさか布団じゃなくて、クローゼットで寝てたの? 杏里は変なところで寝るんだね」


 その発想すごいですね。

いや、その誤解をそのまま無理に押し通せば……。

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