第149話 瞳の奥に映るもの


 ラムネを四本買って、杏里の待つ公園に戻る。

三人はさっき買ったたこ焼きを食べていた。


「あ、おふぁえり。先に食べてました」


 杏里が大きなタコ焼きを食べながら俺に話しかけてきた。

今日は随分食べているけど、体調は大丈夫なのか?


「おかえりー、早くラムネ開けようぜ」


 みんなでラムネを開ける。まぁ、そうなる事は必然。

全員の手がベタベタになった。


「これ、なかなかうまく開けられないんですよね」


「彩音は力が足りないんだよ」


「そう言う高山君も失敗しているじゃないですか」


「これでいいんだよ。ラムネはこーやって飲むのさ!」


 公園内の水飲み場で手を洗い、たこ焼きを食べながらラムネを飲む。

お祭りを楽しんでいるな。

今までお祭りに何回も来た事はあるけど、今日はとびきり楽しい。


「来年もみんなで来れるといいな」


「毎年来ようぜ! 祭りは楽しいからな!」


「そうね、毎年みんなで来たら楽しいわね」


「来年も杏里と一緒に浴衣着たいなー」


 空が暗くなり、そろそろ花火の時間。

次第に通りから人が少なくなり、花火の見えるスポットに移動し始めている。


「天童どうする? 俺達も移動するか?」


「んー、花火は近いけどみんなと同じような場所で見るか、静かなスポットに行くか。どっちがいい?」


「私はあまり人混みは好きじゃないですね」


「俺はどっちでもいいぜ!」


「杏里は?」


 杏里は迷っているようだ。

何を迷っているんだ?


「どっちだったら花火が終わった後に、屋台に寄れますか?」


 そっちかーい。


「い、いや、どっちも寄れるけど……」


「だったらおやつを買い込んで、静かなところで見ましょう!」


 まだ買い込むんですか!


「少し食べすぎじゃないか? 大丈夫なのか?」


「大丈夫です。食べたぶん、動けばいいんです!」


 本当にそうなのだろうか?

でも、その体型を維持しているのであれば、本当の事なのだろう。


 俺達は少しだけ食べ物を買い込み、おじさんの教えてくれたスポットに移動する。

階段を上り、さっきまで高山達といた東屋に到着した。


「天童? さすがにここからは花火見えないんじゃないか?」


「いや、この脇に道があって、その先が花火を見るスポットになっているらしい」


 少し足元が暗く、足場も悪い。

普段はいている靴なら問題ないが、今日は下駄に草履。

少しだけ注意が必要そうだな。


 俺は先頭を歩き、杏里の手を取りながらゆっくりと進む。

少し歩いた先に広場があり、二人掛けのベンチがいくつも並んでいる。


 ほんの数人だけ先に人が来ており、その方々は普段着だ。

テーブルやいすを持ち込んでいるので、きっと地元の人だろうと推測される。


「こんな所があったんだね……」


 杏里の瞳に夜景の光が反射し、輝いて見える。

その姿はとても幻想的で、とても美しい。


 俺達は階段を大分登って、この広場に来た。

広場の左右は雑木林になっているのに、この広場の前だけは開けている。

そこからお祭り会場、駅、港までが見えており、夜景がきれいだ。

遠くに海も見えるし、船の灯りも見える。


「天童、こんな場所知っていたんだな」


「さっき教えてもらった。たまたまかな」


 俺は杏里と一緒に空いているベンチに腰を下し、花火が始まる時間を待つ。

杏里の手には本日三個目のイチゴ飴。

ちょっと食べすぎじゃないですか?


 薄暗い中、ぼんやりと浮かび上がって見える杏里は幻想的に見える。

ついついその顔を見つめてしまい、杏里の瞳を覗き込んでいる。


――ヒューーーン  ドカーーン


 花火の灯りが杏里の顔を映し出す。


「花火、始まったね」


「そうだな」


 数分間、花火が連続で打ちあがる。

空に大きな花火が、そして海に反射した花火もここから見えている。


「綺麗な花火だね」 


「一緒に花火を見る事が出来て良かったよ」


「うん。私も……」


 俺の手に杏里の手が重なり、肩に杏里の頬がくっつく。


「私ね、花火が好き」


「俺も好きだよ」


「イチゴ飴も大好き」


「杏里はイチゴが好きだからな」


 花火の音がやみ、辺りは暗くなる。


「でも、司君と一緒に、こうしているのはもっと好き……」


「俺もだよ……」


 杏里と視線が重なり、自然とお互いの距離が近づく。

そして、俺達は暗闇の中でそっと軽い口づけを交わした。

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