第148話 記念写真


 日も落ちかけ、次第に歩道の灯りがつきはじめた。

パレードも終わり、道路は人であふれかえっている。


「杏里、さっきもイチゴ飴食べていなかったか?」


「あれはあれ、これはこれです」


 本日二個目のイチゴ飴。

本当に好きなんだな。


「彩音はもう食べないの? まだ食べたりないんじゃない?」


「ご、ごめん。流石にそろそろお腹一杯だよ……」


「彩音は小食だからな! 天童次はあれ食べようぜ!」


 高山に袖を引っ張られ、向かった先はドデカたこ焼き。

通常の二倍くらいある大きなたこ焼きだ。


「おっちゃん! たこ焼き二つ!」


「あいよ! 熱いから気をつけなっ」


 袋に入れてもらったたこ焼きから、いい匂いが漂ってくる。

高山と一緒に元の場所に戻ったが、杏里と杉本の姿が見えない。


 おかしいな、さっきまでそこにいたのに。

少し辺りを見渡してみる。


「いいねー、すごくいいよ! そう、そこ! んー、ナイスポーズ!」


 変な声が聞こえてくる。

気になって声のする方へ歩いて行くと、大きな銀色のバッグを肩にかけた男がいる。

しかも服装がすごく派手だ、七色のシャツに緑のハーフパンツ。

首からは一眼レフカメラを二つもぶら下げており、丸いサングラスが妙に似合っている。


「いいねー、いいよー、すごくいいよ! はい、こっちに目線ちょーだい! きたー!」


 男の持っているカメラの先には杏里と杉本が。

どうやら杏里と杉本を撮影しているようだ。


「あのー、何しているんですか?」


 少し心配になって男に声をかけてみた。

男はカメラを手に持ったまま、俺の方に向かって話しかけてくる。


「んー、普通。君は、普通だね。おんやー、そこの君! その龍、いいね!」


 俺が普通で、高山がいい。

何だこの評価は。


「えっと、あんた誰?」


 高山、直球。ドストレート。素晴らしい。


「ミーかい? ミーはフリーのカメラマン。お祭り会場の撮影をしているだけだよ」


「彼女達を撮影したのは?」


「そこにナイスな被写体がいれば撮影するのは常識!」


 杏里と杉本が少し怯えながら俺達の後ろに歩いてくる。


「なんだい、君たち。フレンドだったのかい?」


「あぁ、そうだ。俺の彼女だが、何か問題でも」


「ナイスだねー。じゃぁ、特別にこれを」


 バッグから一台のカメラを取り出し、俺達にレンズを向ける。


「いいね、そう、その表情! いいよ、二人とも最高だよ!」


 何だか照れる。何だこの人は、相手を乗せる才能があるんじゃないか?

俺と杏里、高山と杉本がそれぞれ写真を撮ってもらった。

その場ですぐに印刷ができるタイプの物で、その写真を俺達にくれた。


「もしかしたらタウン誌に乗るかもしれないから、その時は買ってくれ。シーユー」


 そう話したカメラマンの人はそのまま人混みの中に消えて行った。

お祭りって、色々な人が来るんだな……。


「杏里、大丈夫か?」


「うん、急に声かけられて、気が付いたらカメラの前に立っていた……」


「わ、私も。普段だったら断るのに、なぜか杏里と一緒にレンズに向けて笑ってたかも……」


 不思議な現象が起きるもんだ。

手元の写真を杏里と一緒に見る。


「良く撮れているんじゃないか?」


「そうだね、浴衣の写真撮れてよかったね」


 高山達も二人で写真を見ており、何だか微笑ましい。

杏里と一緒に浴衣の写真を貰ってしまった。

これは一つの思い出の品として、大切に取っておこう。


「杏里。私少し疲れたから、どっかで休まない?」


「そうだね、そろそろ花火の時間も近くなってきたし、どこかで休もうか」


「お、だったらあそこは?」


 高山の指さす方を見ると、小さな公園がある。

中に入る事もでき、子供たちがブランコで遊んでいる。

その公園の中にベンチがあり、たまたま席が空いているのが見えた。


「じゃぁ、あそこで少し休もうか」


 俺達は四人でベンチに行き、少し休む事にした。


「天童、喉かわいた。飲み物あるか?」


「いや、さっき買ったタコ焼きしかない」


「うーん、何か買ってくるかな」


「あ、俺ラムネ飲みたいな。買って来るけど、他に飲みたい人いる?」


 俺以外の全員が手を上げる。


「じゃ、四本買ってくるから、みんなここで休んでいてくれ」


「私も一緒に行こうか?」


「いや、いいよ。少し休んでてくれ。すぐに戻る」


 俺はみんなをベンチに残し、一人ラムネを買いに露店を回る。

目に入ったのはさっきの射的屋だ。

チラッと覗いたがまださっきの簪(かんざし)は残っている。


「すいません、一回」


 再び俺は射的に挑戦。

さっきは全弾当たったのに、動かなかった。


「あの、簪(かんざし)ってコルク当たったら、倒れますよね?」


 何となく聞いてみる。


「ん? これか。これはなかなか倒れないぞ。頑張ってみてくれ」


 おっちゃんが一度簪を持ち上げ、少しだけ移動させた。

でも、さっきはびくともしなかったんだよね。


――パンッ


 簪の入った箱に、一発当たる。

すると、あっさりと倒れた。へ? さっきは倒れなかったのに。


「お、良かったな。一発で倒れたじゃないか」


 倒れた簪を俺に手渡してくる。

良かった、一発で取れた! 後で杏里にあげようっと。


 残りのコルクを適当な的に当てる。

何か箱を倒したら、小さな封筒を手渡された。

中身は何だろう?


「中当たりだな。さっきの子、彼女だろ? いいねー、若いって」


「はぁ、どうも」


「にーちゃんに、いいこと教えてやろう」


「何ですか?」


「裏階段の途中に東屋があるだろ?」


「ありますね」


「そこの隣にある脇道を通り抜けると、広場があるの知ってるか?」


「いえ、あの少し獣道の所ですか?」


「そうそう。その先に花火を見る絶景スポットがある」


「へー、それは知りませんでした」


「地元の奴なら知っているが、ほとんど知られていない」


「何故それを俺に?」


「花火くらい、彼女と静かに見たくはないか?」


「んー、参考にします。教えてくれてありがとうございます」


「おう。青春しろよ!」


 中身は分からないけど、何か当たったらしい。

そして、花火を見るスポットまで教えてもらった。

どうしようかな、折角だし行ってみようかな。


 貰った景品を袖に入れ、ラムネを探す。

大きな桶に入ったラムネビンを発見。

この中に入っているビー玉がなぜか無性に欲しくなるのはなぜだろう。

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