第142話 メンバー仮決定


 せっかくの昼休み時間。

さっきまで杏里と井上と過ごしていた時間。

女の子二人と一緒にいて、ちょっとだけ華やかなテーブル席だった。


 が、今は男子生徒のみのテーブルに早変わり。

しかも、この圧迫感。おいしいはずのランチも喉を通らなくなる。


「えっと、俺に何か用事でも?」


 目の前に若干鋭い目つきの男が座っている。

姫川ファンクラブ会長、見た感じ少し怖そうな男だ。

そう言えば名前も知らないな、学年も……。


「そんなに緊張しなくていいぜ。それ、うまそうだな」


 俺のカツ丼を見ながら会長が話し始めた。


「良かったら食べますか?」


「いや、昼飯はさっき済ませた。さ、遠慮なく食事を続けてくれ」


 そんなこと言われても、こんな状況で食べられませんよ。


「それより、俺に何か話でも?」


 早く解放されたいのが本音です。


「まぁ、そんなところだな。手短に済ませるぞ」


「は、はい……」


「リゾートバイトの枠はあと何枠あるんだ?」


「はい?」


 どういうことだ? 俺は何も話していないのに、なぜその事を知っている?

どこから情報が漏れたんだ? 


「それは、どういう事でしょうか?」


「俺達の情報網はそれなりにってところだな。で、どうなんだ?」


 正直に言うか、ごまかすか。

しかし、どこかに内通者がいるはず。もしかして遠藤か?

いや、遠藤にはまだ何も話していない。だったらどこから……。


 ここでごまかした方が、あとあと問題になりそうだな。

正直に話す事にして、あとで何とかしよう。


「まだ、枠はあります」


「よし。それじゃ、詳しい日程と業務内容を教えてくれ」


 俺は問い詰められるようにバイトの事を会長に話した。


「ほぅ……。好条件じゃないか。おい、この日程で空いている会員は何人いる?」


 会長が隣にいた生徒に目線を送り、指示を出す。

振られた男子生徒は懐からスマホを取り出し、操作し始めた。


 そして数分後、渋い顔つきになる男子生徒。


「会長、この日程では全会員中二名しか確保できそうにありません!」


 半泣き状態で会長に報告している。

なぜ半泣きになっているんだ?

ん? 良く見たら俺の隣にいる奴も半泣きになっている。


「二人か……。まぁ、いないよりはましだな。で、その二人は誰だ?」


「はっ! 一人目は一学年、遠藤拓海(えんどうたくみ)」


「遠藤か……。ん? 姫様と同じクラスの遠藤か?」


「イエッサー! 同じクラスで間違いありません!」


 姫様にイエッサーとか……。何このテンション。

ファンクラブってこんな感じなのか?


「二人目は?」


「はっ! 二人目は三学年、塚本栄治(つかもとえいじ)であります!」


「へ? 俺か?」


 会長がキョトンとした表情になる。

まさか自分の名前が上がるとは思わなかったんだろう。


「イエッサー! ファンクラブ会長で間違いありません!」


「他にはいないのか?」


「はっ! 他の会員は部活、バイト、実家に帰省、補講、合宿など全ての日程でフリーの会員は二名だけです! 私も追試補講がある為、参加できません! 大変残念であります!」


 半泣きになりながら会長に報告している男子生徒。

だから、涙流さなくてもいいだろに。


「俺か。良いだろう、たまには現場復帰もいい運動になるかもしれんな」


「あ、あのー……。話が見えないんですけど?」


「おぅ。そのバイトの二枠、俺と遠藤でも貰うぞ。問題ないよな?」


「え、あ、あの、ちょっと……」


 勝手に話が進んでいく。俺の知らない所で何かが動いているのか?

でも、これで六人揃うんだよね? それならそれでいいのかな?

井上は参加できそうにないし、もともと遠藤も候補に挙がっていたし。


「姫様を守るんだろ? 俺が少しだけ力を貸そう。これは、ファンクラブに与えられたイベントだ。夏の海で姫を守るというな……」


 指をボキボキ慣らしながら俺に圧力をかけてくる。

ここで断ったら俺の身も危険か?


「えっと、一度他のメンバーを相談させてもらっていいですか?」


「高山か?」


「え、あ、はい。高山にも相談します」


「じゃぁ、問題ない。もともと高山からの依頼だ。姫川に危害を加えることなく、信用できそうな人手が欲しい。間違っていないだろ?」


 確かにあっている。人手は欲しい。

だけど、本当に信用してもいいのか?

全く知らない奴よりはいいような気がするけど……。


「分かりました。近日中にお答えします」


「ま、心配することはない。俺はなんでもできる、人脈もそれなりにある。そして、このパワーで姫を守って見せるさ!」


 腕をまくり、力こぶが盛り上がっている。

そしてこの見た目。変な輩は去っていくだろう。


 会長と連絡先を交換し、後程連絡する事を伝える。


「邪魔したな。何か困ったことがあれば、すぐに連絡をよこせ。姫の為なら会員はいつでも動くぜ」


 と、かっこいいセリフを言いながら去っていく。

ちょっと変わった人だけど、悪い人ではなさそうだ。

さて、杏里と高山に話をしてみるか。


――ブルルルル


 ポケットに入れていたスマホが震えだす。


『おーい! もしかしたら会長が天童の所に行くかもしれない!』


 遅い。もう来た。しかも勝手に話が進んでしまったぞ。


『後で話がある。今どこだ?』


『今中庭にいる。彩音と姫川さん、井上さんもいるぞ』


 俺だけのけものかーい。

しょうがない、俺もそっちに合流するか。


『俺もそっちに行く』


『はいよー、まってるぜー』


 全く。もっと早く俺に連絡をくれればいいのに。

と思いつつ、少しのびたラーメンと若干冷えたカツ丼を腹に入れ、俺は学食を後にした。


 仮に仮決定しているメンバーがそのままバイトにいったらどうなる?

俺に杏里、高山と杉本、そして会長に遠藤。


 海の家なら男手が多いい方がいいのか?

だったらパワー系の男に料理の杉本、それにホールの杏里でいいのか?


 少しの不安と海で遊べる期待を胸に、この夏のイベントがどうなるのか少しだけ楽しみになってきた。

夏休みも近い。きっと多くの課題も出されるだろう。


 早めに終わらせて、夏を満喫出来るようにしっかりと計画を立てないとな。

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