第135話 青春時代の一ページ


 杏里にファンクラブの存在を明かす。

どっちにしろ遠藤もファンクラブに入っているんだ。


 遅かれ早かれ杏里にはばれるだろう。

だったら少しだけその存在を教えても問題ないはず。


「そ、ファンクラブ。どのくらいの人数がいるかは分からないけど、杏里は人気があるらしいよ」


「杏里、すごいね。そんな人たちが学校にいたなんて……」


「ファンクラブ位どの学校にもあるだろ? それが表に出ているか出ていないかはその学校次第だけどな」


 高山もあっさりと存在を認め、杏里に対して普通に話している。


「ま、今回は本人たちも非公式と言っていたし、多分悪い奴らじゃないと思う」


「そそ。結構いい人多かったぞ。先輩とか結構勉強できる人多かったし」


 あ、と思いつつ俺は高山に視線を送る。


「高山さん? それはどういう意味でしょうか?」


 杏里の若干冷たい目が高山に向けられる。


「あー、あれですよ。一度俺もファンクラブに入らないか誘われたことがあってさ……」


「それにしては、随分親しそうな感じで話していましたが……」


「えー、それはですね。ちょっとだけ交流があっただけです。ほんのちょっと……」


 ため息をつく杏里と杉本。

実はテストの過去問を先輩から借りたとか、きっとこの二人は知らないんだろうな……。


「ま、まー、そこまで気にすることはないんじゃないかな? 知っている人は結構多いと思うし」


「司君は知っていたのかな?」


「僕ですか? 僕もちょっとだけですよ」


 杏里のジト目が怖い。この後何を責められるのでしょうか?


「司君? もしかして、写真とかその人たちから手に入れた事とか無いかしら?」


 あ、あれですね。制服に入っていた写真ですね。

ん? 杏里は写真の事を知っているのか?


「あー! あの写真は俺が天童にあげたんだ!」


 あ、ちょっと待て! 今その発言はまずいって!


「高山さんも写真の件を知ってる? 詳しく教えてもらえるかしら?」


 はい、詰みました。もう、全て話すしかありません……。

俺と高山はファンクラブとあった事を洗いざらい杏里と杉本に話した。


 杉本と杏里の目線が俺達に突き刺さる。


「そ、そんな写真とか……。変な人たちからもらわないで下さいっ!」


「す、すいません……」


「写真位だったら、いつでも一緒に撮れるじゃないですか……」


「え?」


「な、何でもないです! とにかく! もうその人たちから写真はもらわない事!」


「「は、はいっ!」」


 俺と高山は二人で声を添えろえて、杏里に謝罪した。


「高山君との写真とか二人で撮った事まだ無いな……」


 ふと小声で杉本が声を漏らした。


「彩音、写真くらいいつでも撮れる! よし、今から撮ろう!」


 急に立ち上がった高山は杉本の手を取り、窓際に移動する。

教室にはすでに誰もいない。


「天童、写真撮ってくれ!」


 数メートルある距離だが、高山はスマホを投げてきた。

あ、あぶねっ!


「投げるな!」


「いいからいいから! ほら、ここなら明るいし、いかにも高校時代の一ページって感じだろ?」


 窓から入ってくる風にカーテンが揺れる。

手前には机が並んでおり、いかにも高校生です! という二人がスマホの画面に映る。


「はぁ……。ほら、撮るぞ」


「オッケー!」


「はい、ちーず」


――パシャ!


 スマホに記録された写真は、頬を赤くした杉本。

少しだけ緊張している表情が可愛い。


 そして、笑顔の高山。

片腕を杉本の肩に乗せ、自分に引き寄せている。


 何この写真。リア充爆発しろ!

と言われても不思議じゃない写真が撮れてしまった。


「ほら、撮れたぞ」


 スマホを高山に返す。

記録された写真を二人が見ている。


 高山も杉本も少しだけ頬を赤くしながら、二人で微笑んでいる。

高山はいつでも堂々としているな。そして、行動が早い。

その性格、素晴らしいと俺は思うぞ。


「サンキュー! よし、彩音にも送るぞ。待ち受けとかにしてもいいからな」


「え、いや……、それはちょっと恥ずかしい、かな……」


 青春時代の一ページ。

俺達は少しずつページを埋めていく。


 楽しい事、つらい事、頑張った事、悲しかったこと。

好きな人、尊敬できる人、そして、同じ時間を過ごした仲間達。

一ページずつ埋めていく青春と言う名のアルバムに、今日も一ページ追加できただろうか?


 俺と、杏里のアルバムにも、もっとページを増やしていこう。

少しくらい時間がかかっても、最後まで埋めていく。


 あの映画のラストシーンの様に……。



――ピッコーン


 俺と杏里のスマホに同時に何かが届いたようだ。

同じタイミングとは珍しいな。


 同時にスマホを開き、届いたメッセを見る。

母さんから同時に送られてきたようだ。


 添付された画像を見ると、なぜかこのタイミングで写真が送られてきている。


 あの日、事故で撮れてしまった写真……。

俺の頬に杏里の唇が触れた決定的瞬間の写真が。


『送るの忘れてたー! ごめんね。 母より』


 こ、このタイミングで送って来るなー!

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