第134話 明かされるファンクラブの存在


 やや急ぎ目で教室に戻る。

そろそろ五時間目が始まるチャイムが鳴る頃だ。


「すっかり遅くなったじゃないか」


「すまないね。会長がどうしてもすぐに話がしたいって、あまりにもしつこいからさ」


 遠藤と二人で教室に戻るとすでに俺たち以外の生徒は全員着席しており、目立った形になってしまった。

不意に杏里と目が合う。そして、杏里は俺の隣にいる遠藤に目線を向けすぐに視線を外した。


「では、天童君。そのうち色々と話しをしよう」


 さわやかスマイルを俺に向け、すぐに杏里の所に行ってしまった。

俺も杏里の隣が席なので、着席する。


「姫川さん、僕は今日から天童君の友だ。以後、僕とも仲良くしてほしい」


 キョトンとした顔つきになった杏里は俺に目線を向けてくる。


「あー、色々とありまして。非常にめんどくさいし、関わりたくないんだけど、そうなったらしい」


「そ、そうなんだ……」


 杏里が少しあきれた様子で俺に話しかけてくる。


「天童、何だそれ? 遠藤と何かあったのか?」


 後ろの席の高山も加わってくる。

杉本は相変わらず目に前髪がかかっていて表情が読み取れないが、恐らく呆れていると思う。

言いたいことは分かるんだけど、ある意味不可抗力ですよ?


「高山君も以後よろしく。僕もこれから色々と忙しくなるからさ……」


 少しニヤつきながら遠藤は俺達の前から去って行った。

何が忙しくなるんだ? 最後まで訳が分からないやつだったな。


 あっ! ジュース代後で回収しなければ……。


「司君? 後で詳しく話してもらえるかな?」


 少しだけ杏里の目線がきつい。

ついでに後ろの高山からも突き刺さるような視線を感じている。


「分かった。後でみんなに話すよ。色々とありすぎてさ……」


 俺は午後の授業に集中するため、ぬるくなったコーヒー牛乳を一気に飲み干す。


「もしかして、天童さんは遠藤さんに告白されたとか?」


 突然杉本がとんでもない発言をした。


「ぶほぉ! ゴホゴホ……」


 口に含んだコーヒー牛乳を少しだけ口から吹き出してしまい、むせながらも何とか残りは飲み込んだ。

涙目になりながら咳き込む俺に、杏里はポケットティッシュを差し出してくる。


「ま、まさか、そんな事が……」


 杏里がびっくりした表情をしている。


「あ、ありがとう。助かったよ。それに遠藤とはそんな事になってない。絶対にないから!」


 ほっとしている杉本と杏里。

遠藤が俺に告白とか間違ってもないだろう。

だが、杉本は少しだけ頬を赤くし、何かをメモっている。

一体何をメモしているんだ?


――キーンコーンカーンコーン


 なんだかんだでやっと放課後。

午後の授業も無事に終わり、やっと帰る事ができる。


 俺がみんなに伝える事は二つ。

一つ目は遠藤の件について。

この際、杏里にファンクラブの事も話しておいた方が良いかもしれないな。


 そしてもう一つは校内新聞の件について。

ただし、井上が密告者と言う事は話さない方がいいかもしれない。

これは俺の独断になるが、俺の心にしまっておいた方が良いと思った。


 うまく杏里に井上を紹介できるか……。

つか、なんで俺がこんなに色々と巻き込まれている?

杏里とお付き合いする為に神から与えられた試練か?


 いや、きっと杏里と付き合う事を嫉妬した女神の試練だな。

しょうがない、まるっと解決して、その試練を乗り越えてやるか!


「では、今日は早めに退散するよ。さよなら、天童君」


 数人の生徒と一緒に教室から出ていく遠藤。

俺を含めた四人はまだ教室に残っている。


「どうする? ここでそのまま話していくか?」


 高山は帰り支度をしながら俺に話しかけてきた。


「どうしようかな。俺、この後杏里と一緒に買い物に行く予定なんだ」


「杏里とデートなんだ……」


 杉本が頬を赤くしながら杏里の方を見ている。


「えっと、そうだね。もともと買い物に行く予定があったので、司君にも付き合ってもらおうと思って」


「な、何だか急に二人の関係がいきなり進んで、どうしたらいいか対応に困るな……」


 珍しく高山が混乱している。

その表情久々に見たぜ。


「あまり気にするなよ。逆にこっちが不安になっちまう」


「あ、あぁ。そうだな、悪かった。すぐに終わりそうなのか?」


「うーん、ただの報告ならすぐに終わるかな?」


「じゃぁ、すぐに終わらせよう。買い物行くんだろ?」


 こうして、俺は高山の提案に乗り、今日の話を簡潔にみんなへ伝える。

学食でたまたま井上と会い、実は杏里と友達になりたいという事を知る。

そして、その事を杏里に伝え、井上へ連絡すると言う事。


 その後、遠藤に声をかけられ、ファンクラブのメンバーに話をされたこと。

ファンクラブのメンバーには俺と杏里の関係を話し、認められた。

ファンクラブの活動については一部縮小はするが、解体はしない。


「ファ、ファンクラブですか?」


 杏里が頬を赤くしながら膝の上に乗せた手でスカートを握っている。

どうやら恥ずかしいらしい。


 自分のファンクラブがあると知った時の心境は流石に分からない。

やっぱり恥ずかしいと思うのだろうか?


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