第123話 家族でカレー


 夕方。杏里と二人で台所に立ち、夕飯の準備をしている。

今日は学校で色々とあって疲れたが、ご飯はしっかりと食べないとね。


 杏里は鼻歌を歌いながら玉ねぎの皮をむいている。

俺はその隣でいもの皮むきだ。

既にきれいに切られた人参がボウルに入っている。

肉は解凍し、下味もつけ終わっている。


 この食材。まさか、あれじゃないよね?


「杏里。この食材で何作るんだ?」


 つい最近連日で肉じゃがだった。

目の前にある食材を見ても肉じゃがの食材と一致している。

いや、嫌いじゃないよ? おいしいし、ご飯が進むし。


「ふふん、今日はカレーにしようと思います」


 っしゃー! カレー! 肉じゃがじゃない!


「いいね。今から楽しみだな」


「司君はどんなカレーが好きなの?」


「そうだなー、肉がゴロっとしていて、野菜は小さい方がいいかな」


「辛さは? 少し辛目が好きとかあるかな?」


「いや、甘くても辛くてもカレーは好きだよ」


「了解っ。じゃぁ、ルーは適当に使うね」


 白いエプロンが良く似合う杏里と一緒に肩を並べて立つ。

初めの頃は不安なことも多かったが、今ではきれいに野菜を切る事ができている。

先生は嬉しいぞ!


 鍋に具材を入れ、コトコト煮込み、灰汁を取る。

その間にサラダや副食などを準備する。

早くできないかなー、と思うのもつかの間。車の止まった音が聞こえた。

何か届いたのか?


――ピンポーン


「あ、俺が出てくるよ」


 台所を杏里に任せ、速足で玄関に向かう。


「はーい、今出まーす」


 サンダルを履いて玄関を開けると、目の前にスーツのおじさんが。

その後ろにスーツのおじちゃんが。


「久しぶりだな。杏里は元気か?」


 姫川雄三さん。杏里の父親だ。後ろに控えているのは運転手さんだな。


「お、お久しぶりです。杏里は元気で、今は台所にいます」


「そうか……。お邪魔しても?」


「ど、どうぞ」


 スリッパを二人分用意し、二人を台所に案内した。


「お、お父さん! 急にどうしたの? 連絡貰っていたっけ?」


「いや、出張の帰りでたまたま通りかかっただけだ。すぐに帰る。この後も仕事なんでな」


 杏里はいそいそと二人にお茶を出し、再び台所に立った。


「元気そうで何より。ん? この匂いはもしかしてカレーか?」


「そうだよ。夕食をカレーにしようと思って、今作ってたの」


 席を立った雄三さんは杏里の隣に行き、調理している所を眺めている。

運転手さんは席に着き、片腕だがお茶をおいしそうに飲んでいる。

そう言えば、前もこの人が運転してきたよな……。


「いい匂いだな……。ちゃんと食べられ――、ゴフン。きっとうまいんだろうな……」


 雄三さんは杏里の後ろから鍋を覗き込んでいる。

ルーも溶かされており、あとは少し煮込んで完成だ。


「えっと、良かったら一緒に食べていく? たくさんあるし」


「そうか、いいのか? そこまで誘われたらしょうがないな……」


 雄三さんは口元を緩めながら席に戻って行った。


「司君、ご飯足りるかな?」


「大丈夫。お代わり用に六合炊いておいた」


「良かった。じゃぁ、四人分用意するね」


 カレー皿を取り出し、杏里と二人で夕食の準備をする。

雄三さんも心なしかワクワクしているようだった。


「では、いただくとしようか」


「「いただきます」」


 雄三さんがカレーを口に運ぶ。

スプーンを口に入れたまま、動かなくなった。

あれ? おかしいな、ノーリアクションですか?


 俺も一口食べる。

いい香りがするなー、市販のルーよりもスパイシーな香りがする。


――刹那


 か、辛い! 何だこれ! どうやったらここまで辛くなるんだ!

ダッシュで水を飲む。が、足りない!

米だ、米を食べるんだ!


 涙目で雄三さんと運転手さんを見る。

あ、二人とも涙目だ。でも、運転手さんは普通に食べているぞ。


「ど、どうかな? お父さんは私の作ったカレー、初めてだよね?」


「そ、そうだな、杏里の初めてのカレーだな。うん、な、なかなかいい味じゃないか?」


 額にうっすらと汗をかいている雄三さん。

ゆっくりだが、皿からカレーが無くなっていく。


「良かった! 少し辛目にして見たんだけど。司君は? 少し辛いかな?」


「へ? あぁ、ピ、ピリッとしていてう、ウマイナー」


 やばい。俺の辛さメータは一口目で振り切れている。

限界突破中だ。サラダだ、サラダで中和しよう!


 フォークでサラダを食べる。

口に緑の何かを入れかみしめる。

ふぁっ! 何だこれ! か、辛い!


「あ、杏里? このサラダってなに?」


「これ? ワサビ菜って言ってたかな? 八百屋のオジサンが先日おまけでくれたの。サラダにしたらうまいよって」


 な、なんてこったい。八百屋のオッチャン、こんな所まで悪の手を……。

所で杏里はどうなんだ? 辛くないのか?

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