第119話 放課後の予定


 教室に戻ると杏里と杉本が隣り合って座っている。

必然的に俺の隣に高山は腰を下ろすことになる。


「あ、ごめんなさい。いま席、変わりますね」


「いんや、授業始まるまでここでいいよ。彩音と話していたんだろ?」


 何を話していたのかは分からないが、見た感じ普通に話しているし、杉本の俺に対する視線はいつも通りだ。

その代り、杏里は悲しそうな目を俺に向けてくる。


 恐らくこの時間では話せなかったのだろう。

まぁ、教室で話せる内容でもなかったしな。


「所で今日の放課後はどうする? 何か予定あるか?」


 高山がみんなに声をかける。

今日は特に予定もないし、杏里もバイトは入っていない。


「私は特に何もないよ」


 杉本はすぐに高山に返事をする。

杏里は俺に視線を向け、何かを訴えているように感じた。


「天童は?」


「俺か? 今日は特に何もないな。姫川さんは?」


 杏里は視線を俺から杉本の方に向ける。

手には購買で買ったと思われるサンドイッチの残骸が入った袋を持っている。


「私も特に予定はないのだけど、放課後に少しだけ予定があるわね」


 ん? 放課後に予定? 先生に呼び出しでも食らったのか?

でも、授業中には何も言われていなかったよな?


「そっか、じゃぁ放課後は図書館の自習室借りて少し残るか」


 試験も終わったばかりだと言うのに、高山はなぜか自習室を選択した。

試験中は予約も難しいが、試験が終わった今は予約も簡単に取れるだろう。


「じゃあ、まだ昼休み少し時間あるから、私予約してくるね」


 杉本は席を立ち、すぐに教室を出て行ってしまった。

杏里も席を立ち、ごみを捨てに行く様だ。


「高山さん、ありがとう。席空けるわね」


「いえいえ。空いていたらいつでも自由にお使いくださいー」


 ひらりと席を立った高山はさっと自分の席に座る。

そして俺と二人になった片山の隣に、三人の女子が近づいてくる。


「あ、あの高山君。ちょっといいかな?」


 声をかけてきたのは同じクラスの女子だ。

一人手前に立っており、後ろの二人は付き添いのような感じだな。

俺には用事が無いようで、誰も俺方を見ていない。

次の授業は何だっけ? 先に準備でもしておくかな。


「はいはい。なんですかな?」


 高山はスマイルで女子を見ている。

いつもこんな調子の奴だが、本当はもっとしっかりとした奴なんだ。

一体その事を何人知っている?


「今朝のニュースで見たんだけど、隣に写っていた女の子って、か、彼女なの?」


 今朝のニュースの件で高山は朝から机を囲まれていた。

色々と聞かれていたようだが、スルーしていたところも多かったようだ。


「イエス! マイハニーです。俺の彼女だけど、それが?」


「そ、そうなんだ。か、彼女なんだ……。だよね、彼女と映画に行ったんだもんね……」


 そう話した女子は少し落ち込みながら他の二人と一緒に元の席に戻って行った。

多分あれだな。きっと高山に気があったんだな。


「てんどー、おーい、聞こえてるか?」


高山の方に振り向くと表情はなぜか満面の笑みだ。


「やっぱ俺って、今モテ期だよな? 絶対にそうだよな?」


「さぁな。でも、高山は本命一筋だろ?」


「当たり前だろ? 俺は彩音を悲しませないよ。天童だってナデシコに対してはそうだろ?」


「だな」


 互いにニヤつきながら視線を交差させる。

俺と高山だけが知っている話。こいつとだったらずっと一緒につるんでいってもいいかな……。

と、思うのもつかの間。ゴミを捨てた杏里が席に戻ってきた。


「放課後、私の予定が終わったら自習室に行けばいいかしら?」


「だな。できれば、今後の勉強対策とか方針を決めておいた方がいいかなって」


 高山は俺に目線を送ってくる。多分本当の狙いは違うところにある。

高山も杏里が杉本に話をしていない事に気が付いたんだろう。

場を用意してくれたんだな。高山、マジ出来すぎ。


「じゃぁ、俺は先に自習室に行ってるな」


「えぇ、遅くはならないと思うから先に行っててね」


 少し杏里の表情が暗い。

今朝、杏里は少しだけいつもと様子が違った気がする。

何かあったんだな。でも、俺達に話をしないから、きっと個人的な何かだと思う。

杏里が話しづらい事、いったいなんだろうか?



――キーンコーンカーンコーン


 午後の授業も終わり、放課後を迎える。

杏里以外の三人は帰り支度をしたのち、自習室に向う事になる。

教室に杏里一人残し、俺達は教室を出ていった。


「杏里は何か予定でもあったのかな? 珍しいね」


「ま、すぐに来るだろ。彩音は何も聞いていないんだろ?」


「うん。杏里からは特に何も」


「だったら多分すぐに来ると思うよ。先に行って、エアコンを入れておこうか」


 通学用のバッグを肩にかけ、図書室に向かう。

ふと、チャックが開いている事に気が付き、バッグの中に筆箱が無い事に気が付いた。


「悪い、筆箱忘れたからとって来るわ。先に行っててくれ」


 杉本と高山を先に向かわせ、急いで教室に戻る。

ふと杏里の後姿が目に入る。教室を出て、なぜか屋上に行く階段へ向かっている。

バッグは持っているので、何か屋上に用事でもあるのか?


 ま、まさか飛び降りとかしないよな?


 筆箱をダッシュで回収し、屋上の方に向かって足を進める。

杏里が一人屋上に行く理由、心当たりはない。

ま、まさか……。


 心拍数が高くなる中、ダッシュで階段を駆け上がり、屋上の扉を全力で開け放つ!


「杏里! 自殺なんてやめろ!」


「ひ、姫川さん! お、俺と付き合ってください! ずっと好きでした!」


 扉の向こうには見た事が無い男子生徒と、その生徒に向かい合うように立っている杏里。

俺は最悪のタイミングで扉を開いてしまったようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る