第118話 名探偵はここに
「やっぱりな……。俺の予想は当たっていたな」
地面に置いた弁当箱に再び手を伸ばし食べ始める高山。
俺もパンをかじっていたが、急に喉を通らなくなった。
「いつからだ? いつから知っていたんだ?」
「んー、知っていたわけではないな。何となく、そんな気がしただけだ」
「だったらどうして、なぜ何も聞いてこなかったんだ?」
カップに入れた味噌汁を飲みながら、高山は少し考え込んでいる。
真面目な話をしているつもりなのに、漂ってくる香りにギャップがありすぎる。
「天童が話せるようになるまで待ってた。きっと、何か事情があったんだろ?」
確かに色々とあったかもしれない。
でも、高山や杉本の事を見ていたら、些細なことかもしれないと感じたのも事実だ。
「そっか。悪かったな、今まで話せなくて」
「いんや、気にしてないぜ。俺は天童を信じている。きっといつか話してくれると思ってたさ」
高山……。お前、いい男になったな。
いや違うな、もともといい男だったのに、俺が気が付かなかっただけだな。
「ありがとう。でも、なんで気が付いたんだ?」
俺は自分なりに細心の注意を払ってきた。
しかも、ノートの一件からはさらに注意してきたつもりだ。
「そうだな、初めに違和感を感じたのはナデシコが先生に呼び出しされた時かな?」
「そんな前からか?」
「天童はさ、人に興味が無いからほとんど無関心だろ? でも、あの時のナデシコを天童は見ていた。今までずっとスルーしていたのに、その時はナデシコの事を見ていたんだよな」
観察力がすごいですね。普通そんな事気にしないだろ?
「ほぼナデシコと関係を持っているなって思ったのは、初めて屋上ランチした時。俺は女子二人に連絡先を聞いたけど、天童は彩音としか連絡先の交換をしなかった。もしかしたら、既に二人は連絡先を知っていたんじゃないか?」
「すごいな。そこまで見ていたのか?」
「まぁな。天童だって逆に俺の事、色々と見ているだろ? 何か違和感を感じた時とか無いか?」
「そう言われるとあるような、無いような……」
高山はいつでも自分に正直に、真っ直ぐぶつかってくる。
発言もストレートに言って来るので、あまり違和感を感じたことはないのが正直なところだ。
「そうそう、あと二人が関係を持っていると確定したのは、天童が見せてくれた写真だな」
「どんな写真だ?」
俺はポケットからスマホを取り出す。
「あれだよ、確か天童の母さんの写真」
スマホを操作し高山に見せた母さんの写真を画面に映す。
「これか?」
「そうそう、これこれ。ほら、ここ。天童の母さんとは違う手が映っているだろ?」
確かによく見ると、俺が加工した写真では不自然な角度で手が映っている。
心霊写真でもなければ、第三者の手に見えるだろう。
「確かに映っているな」
「この指に絆創膏が見えるだろ?」
「指に巻いているが、それが?」
「そう、そこ。この指、ナデシコも同じ絆創膏を同じ場所につけていたんだよね」
高山、俺はお前を尊敬する。
こんな些細な情報から、そこまで推理して、答えを出そうとしているのか?
今朝高山に推理がどうのこうの言われたが、高山の方がよっぽど探偵の素質があると思うぞ。
「よ、良く見ているな」
「すごいだろ? そこで俺は仮説を立てて、天童とナデシコの関係を推測したんだ。自分の親と仲良くしているナデシコは、もしかしたら親公認で付き合ってるのか? と」
「じゃぁ、随分前から姫川のと俺の関係に気が付いていた?」
「本人に確認していないけど、自信はあったかな? ほら、ナデシコの写真だって欲しがってたし」
思い当たる節は多々ある。
俺が情報を漏らしていたのか……。
「べ、別に欲しいっていう訳では……」
「じゃあ、あれだ、嫉妬だ。ナデシコの写真を他の奴に見られたくないんだろ? 図星か?」
多分あたりです。杏里の写真を回されたくなかったのが本音だ。
「何だか、自分の本音を隠すのがバカらしいな。何か全部知られている気がしてきた」
「天童は分かりやすいからなー。でも、ナデシコとの関係に気が付いてるのは多分俺だけだと思うよ」
「そうなのか?」
「もし、天童といちゃこらの仲になっていると知られていれば、ファンクラブが何かしらアクションを起こしているはずだ。あそこは動きが早いからな」
確かに、杏里との関係について何か言われたことはない。
若干絡んできた奴入るが、そこまで気にする必要はないと思う……。
「俺は高山が姫川の事が好きで、でも俺と付き合う事になって、その事を高山や杉本に話したら今の関係が壊れるんじゃないかって……」
「まぁ、状況とタイミングを間違ったら、壊れると思うよ」
「杉本さんは覚悟してみんなの前で話しをしたし、高山もそれに答えた。俺は、卑怯者だ……」
カップに移した味噌汁を一気に飲みほし、食べ終わった弁当箱を手提げバッグに入れ始める高山。
俺は食べかけのパンと、ぬるくなった牛乳を片手に持ち、まだ食べ終わっていない。
「ご馳走様でした! 彩音、うまかったぞー!」
一人叫ぶ高山。それとは対照的な俺。
「やっぱり杉本さんの弁当だったんだな」
「おう。いやー、俺超幸せー。天童も姫川さんと一緒になって幸せか? 今、幸せを感じているか?」
「あぁ。もちろん」
「だったらいいじゃないか。細かい事は気にするなよ」
高山はバッグから缶コーヒー二本を取り出し、俺に手渡してきた。
「考えた結果、話せなかったんだろ? たまたま天童よりも俺の方が先に付き合う事が知れただけだ。彩音もきっと理解してくれる」
プシュッと缶コーヒーの蓋が開く音が響く。
「それでいいのか?」
「それでいいだろ?」
俺もコーヒーの蓋をあけ、高山の方を見る。
「じゃ、ちょっと味気ないけど。天童と姫川さんの幸せを願って、乾杯」
高山は手に持っていた缶コーヒーを、俺の持っている缶コーヒーにぶつけてきた。
一気にコーヒーを飲む高山。
「ありがとう。俺、高山と友達で良かった」
俺もコーヒーを飲みながら、少しだけ瞼に涙を浮かべる。
ここで泣いたらバカみたいだ。なに感情的になっているんだ?
「だろ? 良かっただろ? ところでその余っているパン、残すのか?」
俺は地面に置きっぱなしのパンを手に取り、高山にゆっくりと放り投げる。
受け取った高山は、すぐに袋を開け、パンを食べ始めた。
「アンパンもいいけど、やっぱり焼きそばパンがいいよな」
「そうだな。購買の焼きそばパンはうまいからな」
「ナデシコは、彩音に話すのか?」
「多分、今俺が話しているように、杉本さんに話をしていると思う」
「そっか。だったら俺から話す必要はないな。ナデシコと天童に任せるよ」
高山は空になった缶コーヒーを手に持ち、ゴミ箱に向かって投げる。
綺麗な放物線を描き、ごみ箱に缶が吸い込まれていった。
「よっしゃ、いい感じ!」
俺も同じように缶を放り投げる。
綺麗な放物線を描き、ゴミ箱に向かって行く缶。
――カコーン
あ、外した。
勢い余ってこっちに向かって転がってくる。
高山が缶を拾い上げ、再度ゴミ箱に。
吸い込まれるようにゴミ箱に入って行った。
「ふふん。天童もまだまだだな」
「なんか、俺かっこわるー」
「かっこ悪くてもいいじゃないか。守る彼女がいて、共に歩いて行く仲間がいて、そしてその時間を共有する。俺達今、青春時代ど真ん中! かっこ悪くても、迷っても、進んでいこうぜ!」
高山の背中を見ると、大きく見える。
普段は適当な男に見える、言動も変なところがある。
でも、高山はきっと俺よりも大人だ。
俺も、あいつみたいに、色々と考えられるとこになるだろうか。
心に大きな空を、大きな空をもった男になれるだろうか……。
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