第114話 映画のワンシーン


 脳の処理が追いつかないとはこの事だろう。

杉本は高山の事が好き。ここまではオッケー。


 俺の事は昔好きだったけど、今は普通。

ようは普通の友達ですね? はい、ここまでオッケー。


 杏里には嘘をついてしまったが、過去の事を含め、今話を聞きました。

杏里が納得するかは分からないけど、杉本は想いを全て伝えたと言ってもいいだろう。

うん、これも大丈夫。


 高山? 高山はどうなんだ?

高山は杏里の事狙っていたよな?


 この場にいる全員がしばらく沈黙している。

俺と同じように脳内処理をしているのだろう。


 高山が杉本にどう答えるかでこの場がどうなるか決まるな。

俺はそっと高山に目線を送る。

高山も俺に目線を送ってくる。何か伝えたいのかな?


 もしかしたら『これがサプライズか!』とか思っているのかな?

いえ、まったくの予定外です。頑張れ高山。


「す、杉本。お、俺は……」


 随分動揺しているな。俺も逆の立場だったら動揺するだろう。

ここは頑張って切り抜けてほしいものです。ファイト!


 全員が高山の答えを待っている。

視線を集め、高山に全員分の視線が突き刺さっていく。


「杉本、ちょっとついて来てくれ」


 いきなり席を立った高山は、突然部屋を出て行った。

杉本もすぐに高山の後を追い、俺と杏里も杉本に続き部屋を出ていく。


 高山は無言で歩いて行き、レストランのスタッフに声をかけた。

スタッフに案内され、レストランの窓際の方に連れて行かれる。いったいどこに行くんだ?


 着いた先はレストランのテラスだった。

夜景や星が見えるようになっているテラスは、真ん中にテーブルとイスがあり、外を見ながら食事ができるようになっている。


「杉本。それに天童と姫川さんも聞いてほしい。ここは俺が個人的に予約したテラスだ。天童と姫川さんはそこに座ってくつろいでいてくれ」


 俺達は高山に案内された椅子に座り、夜景が見えるテラスで二人を見ている。

高山は杉本の手を取り、テラスの奥の方に歩いて行く。


 夜景と星空をバックに二人の影が浮かび上がる。

まるで映画のワンシーンのようだ。


 テラスに立っている杉本の目の前で高山が片膝をつき、杉本の両手を握っている。

まるのでお姫様に求婚する王子のようだ。

ま、まさか……。


「杉本。俺は杉本の事が好きだ。世界で一番、杉本を幸せにできる。だから、俺と付き合って欲しい」


 言ったー! 告白シーンなんて、めったに見れるもんじゃない!

隣の杏里は両手で口を押え、顔を真っ赤にしながら二人を見ている。


「高山君……。私でいいの? わがままだし、根暗だし、地味だし、可愛くないし……」


「俺には杉本しかいない。また、弁当作ってほしい。杉本の作る弁当は世界で一番うまいからなっ」


「あ、ありがとう……」


 そんなシーンを見ながら、俺と杏里はこっそりと手を繋いでいる。

本当は俺と杏里の事を話す予定だったが、まったく違う結果になってしまった。

でも、それでもいいかと思ってしまう。


 俺達の事はいつでも伝える事ができる。

明日でも、明後日でも。でも、杉本と高山は今しかない。


 この瞬間を逃したら、二度と来ない時間だ。

その時間を大切にしなければならないと、俺は思う。


「あー! そろそろ帰らないと! じゃ、高山あとはよろしく! 詳しい話はまた今度なっ」


「わ、私も門限あるから! またね彩音!」


 俺達は二人を残し、一度案内されていた部屋に戻って帰り支度をする。

すっかり予定外の流れになってしまったので、一度仕切り直そう。


 でも、高山は杏里の事好きだったんじゃないか?

近日中に問い詰めてやる!


「さて、ここに少しお金おいて行けばいいかな?」


「大丈夫じゃないかな? さ、二人が戻って来る前に帰りましょう」


「そうだな。急いで出なきゃ」


 身支度を四十秒で済ませ、忘れ物が無いか確認する。

そして、俺はデザートプレートに残しておいたイチゴを手に取り、杏里の口に運ぶ。


「ほら、おまけ」


「やっぱりね。そのイチゴ、私に来ると思っていました」


「流石ですね」


「流石でしょ?」


 俺と杏里は互いに微笑み合い、受付のスタッフに先に帰ることを告げ、レストランを後にする。

この後、あの二人がどうしたのかは、定かではない。


 帰りのエレベーターの中、杏里と手を繋ぎ寄り添うように外を見ている。

結局話しそびれてしまったな……。

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