第111話 サプライズイベント

 グラスを傾け、一口飲んでみる。

軽い炭酸と甘い味。それに葡萄のいい香りがする。

そして、食事が次々に運ばれ、俺達は今日の映画について話し始めた。


「まさか、あそこまで涙が出るとは思わなかったなー。みんなに迷惑かけて悪かったな」


 いや、高山よ。最後の鼻チーンは俺たち以外にも大迷惑だったと思うぞ。


「でも、全体的に良くまとまっていて、最後もいい感じに終わりましたね」


 杉本もサラダを食べながら話し始める。


「そうね、全体的にはまとまっていたと思う。だけど、メインの二人以外はパッとしない印象だったわね」


 確かに。メインの二人以外はキーになるような人物がいなかったように感じた。


「まぁ、あの二人の物語なんだし、二人が中心の話になっていいんじゃないか?」


「そうだけど、やっぱり親友とか兄弟とか、もっと他の人と関わり合いも欲しいなって」


 杏里はグラスを片手に中のジュースをクルクル回している。

そしてグラスを傾け一口飲む。その飲み方が、妙に色っぽく感じるのは俺だけか?

なんか大人の飲み方って感じがするな。


「確かに親友とかともっと絡んでいたら、少しは違ったのかもしれないな」


 親友……。俺と高山は親友か? 杏里と杉本は親友か?

もし親友だったら、この先もずっと親友なのか? 


「でもね、あの二人はすれ違いすぎ。お互いに『好き』ってわかっていたでしょ? 早く想いを伝えていれば、何年もすれ違わなかったのにね」


「早ければ良いってものではないだろ? タイミングとか、勢いとか、それに想いを伝えたら関係が壊れるのか、やっぱり不安じゃないか」


「そうかもしれないけど、でも言葉で伝えないと分からない事も多いよ?」


 杉本の言うとおり、体感的に伝わる事もあるかもしれないが、それは言葉にして伝えないと本当の意味が分からない。

自分の勘違いかもしれないしな。


「そうね、彩音の言う通りかもね。想いは言葉にして伝えないと相手にも正確に伝わらないもの。言葉って大切ね」


 映画の内容について各々が自分の考えを話し、他のメンバーの考えを聞く。

性別や年齢、学生や仕事をしている人、人それぞれ違った立場がある。

想いをそのまま伝えるにも、勇気がいるよな。


 コース料理も終盤に差し掛かり、デザートタイムになる。

出てきたのは一つのお皿に小さなケーキが四種類のったプレートだ。


 大きなイチゴが真ん中にあり、クローバーのようにミニケーキが四種類乗っている。

見た目も美しく、そしておしゃれに飾ってある。食べるのがもったいない……。


「それでは、こちらのデザートで、本日のコースは終了となります。お飲み物は追加できますので、ご遠慮なくお申し付けください」


 デザートに合わせ、コーヒーや紅茶が一緒に配膳された。

俺と高山はコーヒー、杏里と杉本は紅茶だった。


「こ、これは見た目も可愛いですね……」


「本当。何から食べるか迷ってしまうわね」


「もっとでっかいと食べごたえがあるんだけどなー」


 高山は相変わらず食いしん坊だな。

今回の料理はそれなりの量があったと思うが、高山から見たら足りなかったのかもしれない。


「高山は食べたりないのか?」


「ん? 腹三分ってところかな? この位のコース料理ならおやつって感じだな」


 どんだけー。俺は腹八分位だぞ? お前の胃袋はどれだけ大きいんだ?


「俺の分食べるか?」


「いやいや、大丈夫。この後ラーメンでも食べに行くし」


 うん。スルーすることにしよう。

杏里と杉本がケーキに手を伸ばし、食べ始めた。

俺も一ついただきますかね。

さくっと、フォークでミニケーキを一つ口に運ぶ。


 う、うまい! そして、柔らかいし、何この味!


「お、おいしいですぅー」


 杉本はほくほく顔、杏里はクールにしているつもりだが、頬が少しつり上がっている。

あれはおいしい顔を我慢している顔だ。良かったな杏里、おいしいケーキが食べられて。


「本当にうまいな、正直びっくりだ」


「だろ? 俺も初めて来たときはびっくりしたぜ」


 おいしいケーキを食べながら、次第にお皿は空になっていき、皆のプレートは空になっていく。

それぞれが食べ終わり、一息ついた。

俺のプレートにはまだイチゴだけが残っている。


「今日一日いかがでしたかな? 俺なりに頑張って一日のコースを決めてみたんだが」


「高山君、ありがとう。映画も良かったし、食事もおいしかった。大満足!」


「私も満足。いろいろとありがとう。映画に誘ってもらって良かったと思うわ」


「俺もだな。一日世話になったな、ありがとう」


 高山は満足そうな顔つきになり、コーヒーを一口飲む。


「それは良かった、頑張った甲斐があったよ。でも、今日位のイベントはしばらく用意できないからなっ」


「当たり前だ。ここまで豪華なイベント、毎回できたらこっちが困るわ」


 四人が笑顔になり、笑いが絶えない。

いよいよ話す時が来たか……。

映画も食事も終わった。話すなら今しかない。


 杏里の方に目線を送ると、無言で杏里が頷く。

アイコンタクト完璧。よし、いくぞ! 神様、よろしくお願いします!


「あ、あのさ――」


「あ、ごめん。ちょっとトイレ行ってくるわ。天童も行くか?」


 外された。俺なりに頑張って切り出したのに、見事に外されました。


「行く」


 俺は高山とトイレに行くことになる。

トイレから戻ったら話そう。絶対に話すぞ!


「いやー、なかなか切り出せなくてさ。食事中にトイレってなかなか言えない雰囲気だったしー」


「我慢するなよ。体に悪いぞ」


「ははは、確かにな」


「高山。この後、爆弾発言がある。何があっても、最後まで聞いて、高山の答えを話してほしい」


「ん? 爆弾発言? もしかしてサプライズイベントか? いやー、俺の為に悪いな。いいぜ、そのイベント乗ってやるよ」


 勘違いだ。完全に何かと勘違いしている。

どうする? ここで弁解するか? いや、ここまで話したんだ。

あとは戻って話した方が早い。


「あぁ、サプライズだ。聞き逃すなよ?」


「楽しみだなー」


 高山の勘違いをそのままに、俺達は二人で部屋に戻った。

部屋に入ると、杏里と杉本は見た映画の話しで盛り上がっている。

お茶を飲みながら、恋愛映画の話をしているなんて、まるで女子会じゃないですか。


「よっし、戻りましたー。すっきりだぜー」


 その報告はしなくていい。

これから爆弾発言タイムだ。後戻りはできない。

し、心臓が。鼓動が高鳴る。神様、二回目ですがよろしくお願いします!


「あ、あのさ――」


「み、みんなに聞いてほしい事があるの!」


 杉本が急に大きな声で話し始めた。

ちょ、俺が話そうと思っていたのに! なぜ二度もこうなる!


 杏里の方に目を向けると少しだけジト目になっている気がする。

俺のせいじゃないよ? 一回目も二回目も不可抗力ですよね?


「今日は楽しかった。心の底から楽しいって思えた。だから、食事が終わった今、みんなに話したいことがあるの」


 杉本が真剣な目で俺達に話し始めた。

その目つきは真剣そのもの、決意した奴の目と同じだ。


 一体何を話すんだ? あ、もしかして例の漫画の件か?

それであればもう少し和やかに話してもいいんだけどな……。

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