第109話 奇跡の出会い


 外はすっかり日が落ち、街灯やイルミネーションが輝いている。

そんな街中を俺達は高山に言われる通り、アーケードを歩いて行く。


 ファーストフード、ラーメン、牛丼とかではないよな?

妥協してファミレスを予約したとかかな?


 いったい高山はどこを目指しているのだろう。

向かう先は徐々に駅へ近づいており、飲食街はだいぶ前に通り過ぎた。

杏里と杉本は歩いている途中、さっき取り置きした服を買ってきたようだ。


 お互いの紙袋の中を覗き、互いに買った服を見せ合いながら何か話している。

俺は高山の後ろを着いて行き、どこに向かっているのか考える。

そして、ついに高山の足が止まった。


 着いた先は駅前の一等地にそびえたつホテル。

入り口にはホテルマンがピシッと立っており、非常に入りにくい印象を受ける。


「た、高山? ここってスカイタワーホテルだぞ?」


「その通り。ここの最上階にレストランがあるんだけど知ってるか?」


 地上三十階のスカイタワーホテル。

その最上階にレストランがあるのはこの地に住む者なら誰でも知っている。

一度は泊まってみたいホテルナンバーワンだからな。


「ちょっと待て、まずは落ち着こう。高山、ここで食事するのか?」


 すっかりビビった俺は高山に確認する。


「高山君、さすがにここは無理じゃないかな?」


「そうね、彩音の言う通りよ。私たちの入れる店ではないと思うのだけど……」


 振り返った高山はきざっぽい仕草をしながら、俺達に向かって懐からチケットを取り出した。


「これなーんだ? 天童は答えちゃダメ」


 でじゃぶー。まさかとは思うが、あれですか。

まさか、高山はここでもあれを出すのか?


 不思議そうにそのチケットを見つめる女子二人。

そこに書かれいている文字を見て納得がいったようだ。


『スカイタワーレストラン お食事優待券』


 高山、おまえ出来すぎだろ!

映画のチケットもだが、なぜそうもポンポン出る?


「と言う事で、安心してくれ。もう予約しているから今さら後には引けない」


 先陣を切って突入していく高山。

俺達も恐る恐るホテルの入り口に向かって歩いて行く。


 高山が扉を開けようとした時、ホテルマンがスッと扉を開けてくれた。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 一人のホテルマンが俺達を誘導し、一階のフロントに案内してくれた。

ただ案内されただけなのに、なぜか物凄く偉くなった気分になってしまう。


 ホテルの受付で高山は手に持ったチケットをフロントの方に見せる。

すぐにフロントの方が紙を出してきて、俺達に説明を始めた。


「本日はご来店、ありがとうございます。ご予約のお時間まで今しばらくお待ちくださいませ。本日はコース料理となります。メインを肉か魚をお選び下さい」


 俺と高山は肉を選び、杏里と杉本は魚を選ぶ。

こんな所でコース料理とか、何だかすごい経験をしているな。


「かしこまりました。それではこちらにて準備いたします。それと、お飲み物は決められますか? それとも、シェフにお任せにいたしますか?」


「俺達は未成年なので、アルコールは無しで。あとはシェフに任せるよ。料理に合わせて頼みます」


「かしこまりました。それでは、こちらのスタッフがご案内いたします。ごゆっくりと……」


 フロントにいたスタッフと話が終わり、俺達はホテルマンにの後を着いていく。

しかし、高山はすごいな。こんなところまで今回手を回したのか?


 案内されたエレベーターに乗り込み一面ガラス面になっているので外を眺めることができる。

それなりの速さで上がっていくエレベーターからは街を見渡すことができ、俺達は外を眺めている。


 遠くに見えるツインタワー。杏里のお父さん、雄三さんが住んでいるマンション。

そして、ついこないだまで杏里が住んでいたマンションだ。


「おー、すげーな。人がどんどん小さくなっていく。人がまるで……」


 いや、突っ込むのはやめておこう。

人が小さく見えると、みんなそのセリフ言うよね?


「ねえ、杏里。あれ見て」


 杉本の指さす方にはイルミネーションが見えた。

夏の時期だと季節外れと言う人もいるが、アーケードの一番奥に大きな公園がある。

その公園では年中イルミネーションが飾られており、夜は特に恋人たちの憩いの場となっている。


「綺麗ね……」


 杏里の瞳に映った光が反射し、輝いて見える。

思わず杏里の頬を触ってしまうところだった。危ない危ない……。


「高い所から見ると、この街ってこんな感じなんだな」


 駅前からアーケードに入り、ずっと奥に公園が見える。

駅前はロータリーになっており、バスやタクシー、出迎えの一般車などが行き交っている。


 そして、多くの人が駅とアーケードを行き来し、バスや地下街方面、ファッションビルや飲み屋街に消えていく。

この街にいったい何人の人がいるのだろうか? 数万人、数十万人? 


 そんな膨大な人の中から、俺と杏里は出会い、今ここに居る。

これは奇跡というしかないだろう。


 もし、本当に神様がいるならきっと感謝するだろう。

俺と女神を。いや、俺と杏里を出会わせてくれ事を……。


――チーン


「最上階でございます」


 エレベーターの扉が開き、俺達は大人への階段を一歩だけ上る事になる。

こんな高級店、絶対に場違いなんじゃないだろうか……。

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