第107話 想いは伝わっていますか?


 スクリーンではいよいよクライマックスに突入していく。

二人は高校を卒業し、互いに大学生になったが学校が違うため、遠距離になり交流がほぼなくなってしまった。


 そして、時が流れ二人は成人式を地元の体育館で迎えることになる。

成人式の終わった夜に高校の同級生が集まった同窓会が開かれた。

集まったメンバーは二十歳を超えている者がほとんど。

貸切になったレストランではある程度アルコールも出ており、みなテンションが上がってきている。


 盛り上がっている中、テラスで二人っきりになった二人はワインを片手にしみじみと話している。


「彼氏とか、出来たのか?」


「え? あ、うん、まだいないんだ、よね」


「そっか。俺もまだ、彼女いないんだ」


「私ね。好きな人がいるの。でも、その想いを伝えるのが怖いんだ」


「そうなんだ。俺も、いま好きな奴がいるんだけど、なかなかきっかけが無くてさ……」


 高層ビルの最上階。テラスには二人きりの空間。

他のメンバーは皆室内で騒いでいる。


「きっかけ? だったら今ここでその子に電話してみたら?」


「で、出来るか! だ、だったらお前も好きな奴に電話しろよ!」


「良いわよ。今ここで、あなたの目の前で電話するわね」


「本気か……」


 スマホを手に取り、電話をかけるヒロイン。

同時に着信音が鳴り響き、男の手にあるスマホの画面には、ヒロインの名前が映し出されている。


「出なさいよ。電話に出てよ!」


 動揺しながら電話に出る男は迫真の演技をしている。

いい感じに手が震えているのは、俺にも伝わってくる。


「も、もしもし」


「私は覚悟を決めて電話した」


 このヒロインの目が、決意した目は演技とわかっていても俺の心を震わせてくる。

何となく、杏里に近いイメージがあるんだよな。


 ほんの数秒、沈黙の時間が流れる。

男も意を決したのか、手の震えが止まった。


「お、俺は! ずっと、ずっと、前からお前の事が好きだった! 今でも、これからも! 一日でもお前の事を忘れたことはない! 俺は、世界で一番お前が好きだ!」


「私もずっと好きだった! あんたよりも、ずっと前から好きだった! 遅い! もっと早く言ってよ! 待っていたんだから!」


 スマホを持ちながら、目の前にいるヒロインへ大声で叫んでいる男も言い感じだ。

抱きしめ合い、涙を流す二人。後ろには高層タワーのイルミネーションが美しく光っている。


「おせーよ! 随分待ったぜ!」


「おめでとう!」


「爆発しろ! ちくしょー!」


「キスしろ! キス!」


 室内にいたクラスメイトが二人にクラッカーを鳴らしながらテラスに出てきた。


「お前らじらしすぎなんだよ! クラス中お前たちの事、心配してたんだぞ!」


「でも良かったー! 幸せになってね!」


 クラスメイトに祝福され、戻った店内ではすっかり祝福モードだ。

そして、エピローグに繋がっていく。


 距離はあるものの、交際を重ね大学卒業と一緒に同じ部屋に住むようになる、

すでにお互いの両親へ挨拶はすんでおり、同棲生活の始まりだ。


 ここでオープ二ングでも流れた音楽が静かに流れ、結婚式の写真がスクリーンに現れる。

そして、写真はアルバムに収まり、次に現れたのは赤ちゃんの写真が現れる。

その若夫婦と赤ちゃんの写った写真は結婚式の写真の下に収まっていく。


 次々に現れる写真とスタッフロールが重なり、ドンドン時が流されていく。

二人目の子供の写真。四人家族になった時の写真。旅行に行った写真。


 みんなでお祭りに行った写真。年を取り、同窓会で集まった写真。

孫ができた写真。すっかり年をとり、おじいちゃんとおばあちゃんになった写真。


 老夫婦の写真のシーンで画面が止まり、そして、スタッフロールが切れる。

スクリーンにはご年配の男女。恐らく主人公とヒロインだろう。

写真に写っている老夫婦が動きだし、縁側で互いに手を取りながら会話が始まった。


「すっかり年取ったな」


「そうですね。お互いにいい年になりましたね」


「いままで幸せだったか?」


「えぇ、幸せでしたよ」


「わしも、幸せだった。できればあと数十年、お前と一緒にいたいが、無理そうだな」


「そんな事ありませんよ。きっと、来世でも私達は一緒になれますよ」


「わしは、今も昔もお前を愛している」


「私も愛していますよ。今も、昔もずっと……」


 段々と暗くなっているスクリーン。老夫婦が互いに寄り添い、動きが止まり、写真となる。

そして、その写真はゆっくりとアルバムに収められていき、最後にゆっくりとアルバムが閉じられた。


 スクリーンが段々と真っ暗になっていき、中央に白い文字が浮かび上がってきた。


『愛する人に想いを伝えていますか? 想いは伝わっていますか?』


 愛している。愛とはなんだ?

好きとは違うのか? 俺にはまだ分からない。


 でも、この映画に出てきた老夫婦のように、杏里とずっと一緒にいたいと言う気持ちに変わりはない。

そう、変わりはないんだ……。俺の今の気持ち、俺の心は杏里と共にある。


 徐々に明るくなっていくシアター。

いたるところから鼻を啜(すす)る声が聞こえてくる。


「ちーーん!」


 誰だ! そんなでっかい音で鼻をかむやつは!


「いやー、思ったより泣けたな!」


 大変申し訳ありません。私の友人でした。

杏里も杉本も目が赤くなっている。

高山も赤い。もしかして結構繊細な心を持っているのか?


 明るくなったシアターからは徐々に人が少なくなっていき、俺達は最後の方に席を立つのであった。 


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